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ニュースレター 2023年5月号コラム~第26回国際パッシブハウス・カンファレンスのご報告~

2023.05.23

パッシブハウス・ジャパンでは月に一度ニュースレターを発行しております。

森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表理事

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第26回国際パッシブハウス・カンファレンスのご報告

今日は3月10日~12日で開催された第26回国際パッシブハウス・カンファレンスのお話です。先日のPHJ理事セミナーの中でお話した内容をかいつまんで書いてみたいと思います。コロナ禍の影響で、3年間リアル開催が叶わなかった国際パッシブハウス・カンファレンスですが、ようやっと2023年はドイツのヴィースバーデンという街でリアルとオンラインのハイブリッド開催となりました。今回PHJからは私と北陸支部の池田リーダーが参加いたしましたので皆さんに少しご報告をしたいと思います。今年の3月というと、日本ではまだマスク着用が奨励されていましたが、ヨーロッパは一足先にアフターコロナの雰囲気になっており、羽田でルフトハンザ航空の便に乗り込んだ瞬間、添乗員さんもマスクをいそいそと外しているのが新鮮でした(笑)。

多くの方がそうであったように、コロナ前は仕事とはいえ出張の移動距離に関してある意味感覚が麻痺してしまっていた私。コロナのお陰でオンラインによる会議参加が選択肢として広がった結果、いざ時間とエネルギー(化石燃料?)を費やして移動するとなると、これまで以上に実のあるものにしなければと感じましたが、実際には日本での過密スケジュールの合間を縫っての無理やりな渡航とならざるを得ず、絡められた他の仕事の案件はたったひとつという、とても罪悪感の残るとんぼ返りの長距離移動であったことは否めません。ちなみにそのたったひとつの用事は、SIEGENIA(シーゲニア)社との打ち合わせ。ガイアの夜明けでも取り上げて頂いた、京都のフランス総領事館の省エネ改修に絡んで、カンファレンス会場入りする前日に、開口部の金物と換気装置に関する打ち合わせを行いました。

オンライン視聴は今からでもこちらのチケットショップで購入可能! https://passivhaustagung.de/en/

今回のカンファレンスは主催者からの情報によると会場でのリアル参加が800名、オンライン参加が300名程だったようです。合計すれば例年の参加者数に近いものがありますが、やはりアフターコロナであってもオンライン参加の数は減らない傾向にあり、会場でブース出展しているメーカーさんにとっては少し寂しい展開です。私もいつも必ず会場で出くわす筈の各国のコアメンバーの中に、「あれ、そういえば今回は会わなかったな?」という面々があり、同じカンファレンスに参加しているにも関わらず、その一体感の創出というのはやはり課題なのだなと感じました。ただPHIとして、オンライン参加者を今後出来るだけリアル参加に誘導しようという意図も殆ど感じられず、そこには徹底した省エネ推進のポリシーがあるのだと思いました。また、例年ファイスト博士が行うオープニングの基調講演も、今回より5名の共同代表メンバーのうちの3名によって行われ、ファイスト博士は会場から1時間もかからないダルムシュタットの自宅からオンライン参加しているという、PHIの世代交代後の安定感を確信できたカンファレンス進行でした。

基調講演の中では、近年北米とアジアでパッシブハウスの施工床面積が確実に増えており、全世界合計では施工床面積は350万平米に達したことが報告されました(認定取得物件のみの集計)。

PHIの共同代表の一人、Jan Steiger(ヤン・シュタイガー)による基調講演。パッシブハウスの施工面積は右肩上がりに伸び、近年は北米とアジアでも伸びています。

今回のカンファレンスの16セッションのタイトルはこちら。

各セッションでは6つの発表が20分刻みで行われ、3つ発表されたタイミングで質疑応答の時間が設けられます。全世界から寄せられた発表原稿の内、時間の都合上、半分程度しか発表が認められないにも関わらず、いくつものセッションが同時進行で行われるため、全ての発表を聴講することが叶いません。PHJの全国大会もいつかこんな悩みが出来たらそれはそれで素晴らしいと思うのですが?!

今回のカンファレンスの16セッションのテーマには非住宅やリノベーションのキーワードが以前にも増して多かったのが印象的。

私は今回の渡航直前にSession 5のファシリテーターを任され、英語の発表者とドイツ語の発表者が混在しているセッションでしたので、準備に慌てふためいておりました(涙)。いつの間にか私もPHIのコミュニティの中では古株になってしまい、何かと頼りにして貰えるのは光栄なことなのですが・・。

今回のセッションのタイトルからもわかるように、発表内容のメインはもっぱら非住宅と大規模改修です。大規模改修の事をdeep retrofittingと呼んだりしますが、改修する建物も戸建て住宅とかのスケールではなく、集合住宅規模になりますので、住民が住み続けながらの改修、すなわち工期短縮などが課題になります。また、PHIが2022年にEUの補助金を受けて作成した「outPHit」という評価ツールを活用した改修向け工法の提案も増えてきています。outPHitとは、建材の製造エネルギーや、建材に固着されたエネルギーなどを考慮しながら最適な断熱仕様を見極めるというアプローチで、必然的に木質系の材料を用いたオフサイトでのプレファブ工法などが優位になるようです。

outPHitのレポートの中で紹介されている建材の製造時のエネルギーを踏まえた50年間の収支の一例。気候はフランクフルト市、ヒートポンプのCOPは3.0で計算されています。

勿論EPSのようないわゆる“石油系”の断熱材を使用した場合であっても、50年のスパンで見れば既存建物を無断熱のまま放置するよりも圧倒的に省エネになる訳ですが、木質系の断熱材であっても、その製造方法によっては意外とエネルギーを使ってしまう場合があり、「できるだけ多くのCO2を固着することが建築行為の目的ではない。出来るだけ少ないエネルギーを高効率に使う事が目的であり、既に地上に漂う化石燃料由来の材料の活用も視野に入れるべき。」というPHIのぶれないスタンスが垣間見られるレポートですので、興味ある方はこちらのサイトでご覧ください。

https://outphit.eu/en/

その他印象的だった発表はPHIによるDIYの提案でした。やはりパッシブハウスレベルの住宅を購入できる人は一握りの層であること、また海外の賃貸住宅では住まい手による比較的大規模なリノベーションが認められていることを踏まえ、苦肉の策で取り組んだのかもしれません。しかしながら、取り組む以上はDIYであってもシックハウスのリスクを排除して欲しいという意図、また安かろう悪かろうではなく、ホームセンターでどの資材を選ぶかによって、その改修後のエネルギー効率に多かれ少なかれ差が出てくることを、PHIが周知する動きは素晴らしいと感じました。DIYが、プロに見捨てられたところで行われてしまう事を、私も危惧していましたので、以前PHJのメンバーと、「完璧なプチプチシートの貼り方」をヒートブリッジ解析で検証するか?!という話をしておりました。レジ袋が最たるものですが、安い資材程、直ぐに捨てられたり燃やされたりしますので、DIYにおいても少しの材料を無駄にしないという気持ちが大切なのだと思います。木材も「最終的に燃やせるから」なんてDIYで安易に使う事ありますよね。それが100年後ならまだしも、1年後では、やはりダメなんですよね。私たちの苦悩は続きます・・・。