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ニュースレター 2022年12月号コラム

2022.12.16

高橋 慎吾

高橋建築株式会社 代表取締役
PHJ理事

消費エネルギーから暖房設定温度を考える

このコラムは私の考えです。パッシブハウスジャパンの理事ですが、皆さんにも考えていただきたく、お話しさせていただきます。パッシブハウスジャパンの意見ではないのでパッシブハウスジャパンを誹謗中傷はしないでください。ご意見があれば私が直接お聞きします。

エネルギー価格高騰

エネルギー価格の高騰がすごい勢いです。
電気代、ガス代、灯油代などあらゆるものが上がっています。これから迎える本格的な暖房シーズンを迎えるとエネルギー価格高騰に改めて気がつき、省エネの重要性がさらに見なおされるでしょう。
我々国民は大変です。

高断熱でどれだけ省エネになるか?

自立循環の標準プランでPHPPを使い暖房需要を算出してみました。
地域は 熊本 東京 秩父 札幌です。UAは0.26W/㎡K 0.4W/㎡k 0.52W/㎡kでそれぞれ計算してみました。暖房温度はパッシブハウス基準の20℃です。

暖房需要kWh/㎡年間(20℃)

暖房需要kWh/㎡年間(20℃)

当たり前ですがUAが小さいほど暖房需要が大きく減ります。そして札幌はさすがにエネルギー消費量が多いです。
東京を例にとるとZEHレベルの外皮なら34kWh/㎡aとすごい暖房です。しかしこのプランは南面の窓が大きいパッシブ型プランなのでUAの割には良い値です。
この、計算は近隣の建物の陰など全く考慮していないので、実際にはこんなレベルではすみません。パッシブ型のプランで影無しだからこの値ですんでいることをご理解ください。現実的な30%ぐらいの日当たりとすると倍くらいの60kWh/㎡aは超えると思います。  そしてUAが0.26 G3といわれるレベルならきちんとパッシブデザインができて日当たりが良いならパッシブハウスレベルと言うことになります。

暖房温度を考える

温かい家になると普段の暖房の温度が上がりがちです。
温かい家を作っていると自称している業者のSNSの発信など見ていると22℃にしている。24℃にしているなんて自慢のような話も聞こえてきます。暖房せずにその温度なら良いですけど、暖房してその温度を維持するのはどうなのか?と思います。

それでは、暖房の温度の違いでどのくらいエネルギー消費量は違うのでしょうか?  各UAごとの東京暖房需要を見てみましょう。

東京でのUAごとの暖房温度の違いによる暖房需要 (kWh/㎡a)

UA0.4以上のレベルの低い断熱の場合22℃、24℃などの高温を維持するには、とても多くのエネルギーを消費することが解ります。UA0.4 20℃なら19kWh/㎡aにたいし24℃だと42kWh/㎡aと大きく違います。
G2レベルで全館連続暖房にすると、これまでの住宅で部分間けつ暖房をするのと消費エネルギーがさほど変わらないことが知られています。G2レベルの住宅なら全館連続暖房で住むのがほとんど当たり前のようですからそれではエネルギー削減にはならない。G2レベルでは全館連続暖房が前提なので省エネにならないのです。建築業者が「省エネ住宅を作っている」というなら、やはりパッシブハウスレベルの住宅でないと言いにくいですね。

ZEHで求められる外皮レベルぐらい

 そしてUA0.52だとエネルギー垂れ流し。ZEHで求められる最低の外皮レベルの住宅は、仮に室温が18℃でであっても22kWh/㎡aです。このレベルの住宅で22℃にしようものなら49kWh/㎡aです。
暖房するなとは言いませんが、部分間歇暖房でなんとか冬をしのぐしかなさそうです。ハウスメーカーのZEHレベルのおうちのほとんどがこのレベルですから現在の日本の住宅のエネルギー削減は全くといって良いほど見込みが薄いと言うことになります。

間違えてもこのレベルで全館暖房、22℃維持なんて考えたくないですね。それをする行為は環境のことなんか全く考えていないと言わざるを得ません。住む人にはかわいそうですが、家の中で厚着をして部分間歇暖房にしてほしいです。

2050年までに30年無いのに、今、このレベルのおうちを作ることは、お客様のことを考えて正しい選択でしょうか?お客様、地球環境のことを考えるなら、このレベルの家づくりは、とても無責任な行為ですね。

パッシブハウスレベル

 UA0.26になると22℃でも11kWh/㎡aと暖房需要が15kWh/㎡aを切ってきます。このレベルなら、あまり気にせず暖房できそうです。そして、このレベルの住宅なら、リビングを暖房すれば、ほぼどの部屋でもさほど温度は変わらないでしょう。多少の温度ムラはありますが部分間歇暖房がそのまま、全館連続暖房と同じような感じになります。

 パッシブハウスレベルになると、高温維持や「半袖半ズボンの生活をしている」というのが、納得できます。「良い家に住めて良かったね。」と賞賛したくなります。 

一方、低レベルの家で「半袖半ズボンの生活」と聞くと「やめてくれ!!」と言いたくなります。

パッシブハウスでもさらに省エネをしよう!

 パッシブハウスレベルの家でも室温を下げると、かなりの省エネの効果はあります。

東京 UA0.26 温度ごとの暖房需要(kWh/㎡a)

室温を18℃まで下げて生活できれば、わずか3kWh/㎡a。ほぼ暖房が必要無いレベルにまでなります。本当に寒い日のみ暖房すればすむでしょう。実際に秩父パッシブハウスでは年に数回ある朝の冷え込みの16℃を許容することで、年間の暖房を全くすることなく生活をしています。そこまで下がるのは本当に寒い日が続いたときのみで一瞬です。ほとんどは20℃を超えています。年間を通して無暖房です。パッシブハウスなら、実現可能です。もっとすごいパッシブハウスもあるでしょう。
地球環境のため暖房しない生活を考えてみていただけると良いですね。

消費エネルギーを減らすために

消費エネルギーを減らすには、パッシブハウスレベルまで性能を上げることがとても重要です。そして、あまり高い温度で生活しないこと。

あまり高い温度で生活しないようにするにはどうすれば良いでしょうか?

体感温度を上げるには、室温ばかりでなく、周囲の温度を上げるとか、着衣量を上げる。活動量を上げるなどありますね。周囲の放射面の温度を上げるには、床暖房などの方法がありますが、エネルギー効率は悪くなります。そしてパッシブハウスレベルだと室温≒周囲の温度ですから、それほど考えなくて良いようです。

それなら着衣量を上げてみてはいかがでしょうか?

わざわざ、半袖半ズボンで生活しなくても、トレーナーくらい着て長ズボンをはくとか?実際に秩父パッシブハウスでお住まいのかたは、そのあたりのことを理解していてきちんと着衣量を上げ、暖房せずに生活しています。今までは高断熱の住宅が珍しかったので、高い温度で、半袖半ズボンで生活するのが、かっこいいと思えましたが、そろそろ次のステージですね。
健康を害さない温度まで室温が下がることを許容し、着衣量を増やし、できるだけエネルギーを使わずに住まう。それがかっこいいと思いませんか!

皆さんいかがですか?

エネルギーが大切な世の中です。お客様に伝えていきましょう。

最高レベルの住宅が作れる私たちだからこそ、このようなことを発信できるのです。

ZEHレベルG2レベルの人がこの話をすることはできないですからね。「その程度の住宅じゃその温度くらいですまなくちゃね。」と思われます。

高性能な住宅作りで圧倒的に日本をリードする私たちだからこそできる発信があります。
日本の家が良くなり、環境問題に貢献できるよう皆で頑張りましょう。