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ニュースレター 2022年9月号コラム

2022.09.20

森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表理事

10年前に撒いた種のお話

気候危機は激しさを増し、ヒマラヤの氷河の急激な融解によって川が増水、1年分の降水量が1日で降るという、とても恐ろしい異常気象がパキスタンを襲いました。国土の1/3の面積が水没し、多くの命が失われるという国難に見舞われています。一国の長の死が(それが老衰であっても事件であっても)、メディアで大きく取り上げられる様子を見る度に、気候変動によって途上国で1300人以上の命が一瞬で奪われたことも、もっとクローズアップして欲しいという思いに駆られます。一人一人の命の重さが対等に扱われる社会であって欲しいからです。

さて、新型コロナウィルスの猛威もインフルエンザ以下になりつつある気配の中で、今年は11月24日(木)に、3年ぶりのPHJ記念大会をリアルで開催する運びとなりました。2020年の春以降、しばらく空白の時間があったため、もう何周年目か判らなくなり(笑)、慌てて数えてみると12周年記念大会でした。

今月のメルマガコラムは、私が約10年前に撒いた種の収穫についてのお話、具体的には2012年にフルリノベーションした大町タウンハウスの「続編」のお話です。

大町タウンハウス
大町タウンハウス

2012年に私が1500万円近くを投入してフルリノベーションした大町タウンハウス(「図解エコハウス」(エクスナレッジ)にて掲載、「新しい家づくりの教科書」(新建新聞社)のイメージカット撮影場所)ですが、2021年春に10年の定期借家契約の終了に伴い、私が原状復帰無しで退去して大家さんにお返ししたところ、数か月のうちに売却の広告がSUUMOに掲載される展開となりました。

そしてそこを内覧された何組かの方の中に、1年前にご兄弟が北海道でパッシブハウスを推奨する工務店さんで家を建てた方がおられ、内覧の際に目に留まった木製トリプルサッシや熱交換換気などの事をご兄弟に報告したところ、「それは森みわのリノベーション物件ではないか」というリアクションがあったそうで、結局その方が大家さんの希望売却金額にかなり近い額で取得されるという展開になりました。

築40年以上経過した3軒長屋のテラスハウスの1軒(延べ床面積80㎡弱)ですので、通常の住宅ローンでは賄う事が出来ず、取得にあたり資金集めに大変苦労されたとのことでした。私の方はウッドショックやコロナ禍もあり、2021年春の退去までに次の拠点を仕込むという当初の計画が全く間に合っておらず、転居先となった単板ガラス+アルミサッシの極寒無断熱賃貸で暑い寒いに耐えるストレスと情けなさから、かなり精神的に落ち込んでいた時期でしたが、新しいオーナーさんに鎌倉の街である日声をかけて頂いたことで、このような「続編」の物語を知ることが出来、本来であれば土地の値段から建物の解体費用を値引かれて取引されるような物件でありながら、私の10年前のリノベーションの価値を理解して投資して下さった方が居られたことに、とても慰められたことを覚えています。

そして先日、新オーナーさんから再びご連絡が。

なんと、今度は残りの2軒が相続で取り壊し&売却の危機に晒されているため、なんとかこの2軒も取得して同等の温熱リノベーションを行い、賃貸として運用したいのでその際は設計をお願い出来ないか?とのご相談でした。今回確信を得たことがあります。それは、第一印象から良くない古家の本当のポテンシャルを、素人に伝える不動産関係者や建設業者は皆無に等しいという事。少しでも新築の受注に可能性を繋げたい彼らの下心がある以上、致し方ないのかもしれません。一方当時の私は、自分と家族のための快適な住環境を最小限の借入額でしつらえなければならないという切実な事情がありました。それが結果として、市場で取引が成立する中古ストックの誕生に繋がりました。新オーナーさんには、隣の2軒がどんなにかび臭くても、雨漏りしていても、before/afterのafterをリアルに見ている訳なので、市場価値が付かないものに価値が見いだせる優位性を持ってしまっており、当然私も彼の応援団な訳で。3軒まとめてならEnerPHit認定も狙えるかも、なんて(笑)。もしかしたら「続編その2」のお話を、私も来年のメルマガでご報告出来たら幸いです・・・。

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