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【ニュースレター 2025年12月号コラム】学校断熱改修ワークショップBEST100&グッドフォーカス賞受賞

2025.12.05

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竹内  昌義

パッシブハウス・ジャパン理事
『みかんぐみ』共同代表

学校断熱改修ワークショップ BEST100&グッドフォーカス賞受賞

学校断熱改修ワークショップでGOOD DESIGN賞に応募し、BEST100とグッドフォーカス賞〔防災・復興デザイン〕をいただきました。

今日はその報告です。

そもそも始まったのは2020年で、2025年までの間に30回ほど、いろんな関わりの中で実施することができました。最初は岡山県津山市の小学校で、教室を1泊2日のワークショップをしたのが始まりでした。
その後、長野県の白馬高校の学生さんが、「教室が寒くて寒くてどうしようもないので断熱ワークショップをしてほしい」と頼まれ、長野県白馬町で行いました。

「断熱は日本を救う」の著者の高橋正樹さんが、白馬町でのゼロカーボンに関するシンポジウムでご紹介くださったそうです。ちょうどコロナ禍の最中でしたが、なんとかうまくいって、それが上田高校につながり、どんどん広がっていきました。
「断熱」が日本を救う 健康、経済、省エネの切り札 (集英社新書) 

ワークショップなので、安全に確実に進める必要があります。
現在はマニュアルができていますが、最初の時は手探りです。マニュアルはこちら↓

この辺の経緯やワークショップの具体的な初め方は
 『「断熱学校」学校から脱炭素社会』に詳しく書いてあるので、ぜひそちらを参考にしてください。

ここではワークショップ自体の内容と背景とその目的について書きたいと思います。

まずは断熱の内容は、場合によって異なるのですが、概ねこんな感じです。

天井:袋入りグラスウール200mm
窓 :内窓 樹脂製だったり、建具屋さんが作るものだったり
壁 :窓の下の壁にグラスウール100mm、あるいはスタイロフォーム50mm

上記が最低限で、時々廊下側の壁だったり、建具を断熱します。
費用は、建具の金額に大きく作用されますが、120万円くらいかかります。

30校ほど学校を見る中で驚いたのが、日本の学校は小学校であれ高校であれ、どこでもこんな感じです。既存の学校の断熱状況は、天井に全くないか、スタイロフォームが30mmほど打ち込まれているか否か、と言った感じです。あれば良い方です。床、壁の断熱はどこでも、全くない状態です。笑っちゃうくらい同じです。最近では少しはマシ(全然足らないけど)になってきていますが、徹底して断熱しないというのがこの国の教育に関わるスタンスのようです。

ワークショップなので、安全を第一に考えます。落下しないようにしたり、工具で手を切らないようにしたりします。必ず地元の工務店さんに手伝ってもらいます。時間で終わらないこともありますし、何か不具合があっても大丈夫なように考えています。途中までは、見守りに徹してもらいますが、実際の作業をしてもらうことも多いので、その姿を参加者に見てもらいたいというのもあります。いかにプロがすごいか伝わります。

また、ワークショップなので、「何かを持ち帰ってもらうこと」を大事にします。
何かは「断熱の効用」だったり、「温暖化に対して、自分の手で何かができる実感」だったりします。

若い世代は、「温暖化」に対して何かしたいけど、何もできないことへの無力感に苛まれています。
学校の教室の断熱は小さいことですけど、自分の手で参加して環境が変えらえることを実感します。このことが「大きな学び、気づき、喜び」になります。

ですので、このワークショップでは必ず講義を行います。
手を休めて、「温暖化がどういうものか」「温暖化に対して何ができるのか」一緒に考えてもらいます。

ワークショップに関しては、つみき設計施工社の河野直さんが丁寧にまとめられているので、ぜひ参考にしてください。
ともにつくるDIYワークショップ リノベーション空間と8つのメソッド 単行本(ソフトカバー) – 2018/4/14

彼はもともと民家のワークショップをやっているときのワークショップに関しての師匠です。
こちらのワークショップは築100年の民家を暖かくするというものですが、民家の下屋はもう外と割り切り、天井の断熱、断熱障子、床の気密をあげることを実施しています。

南房総リパブリック断熱ワークショップ

どちらも、断熱材の量としては十分ではありませんが、それまで全くない状態から、少しでもある状態にすると、「環境の変化が確実に実感」できます。それまでと比べると、よりよくなるからです。

さて、なぜこの活動をグッドデザイン賞に応募したのかを説明しましょう。

30校を断熱改修したのですが、学校全体をやっているわけではなく、たった30教室の話です。全国に小学校は2万校、中学校は1万校あります。これら全部の断熱をなんとかするためには、とても一つ一つ増やししていくのは現実的ではありません。少し大きな力を使って、これを宣伝したいと思ったのです。

世界の中での温暖化対策の流れも少し意識しました。

COP28に葛飾区の青木区長が参加され、葛飾区の小学校の断熱改修ワークショップの報告をされ、それが評価されたということを聞きました。IEAの作った2050年ゼロカーボンへのプロセスの中で、2030年からの新築は「ゼロエネルギー」であること、それ以降は既存の建物をゼロカーボンかしていくことが期待されています。その流れの中で、生徒や保護者、先生が一体になってやる民主的なワークショップのスタンスが評価されたとのことです。なるほど、そういう見方もあるのかと思い至りました。

日本では、住宅の新築のゼロカーボン化は見えつつありますけど、公共建築である役所や学校では全然見えていません。ZEB化とか言ってますけど、全く断熱してない建物の半分を目指すことにあまり意味はありません。横浜市や葛飾区など先進的な自治体では、公共建築物のZEB READY縛りが始まりつつありますが、その建物の成果は相当怪しいと思っています。それだけでコラム1本以上になるので、次回以降にします。

さて、上記のようなことを考えながら、メジャーにするために応募して、受賞できて本当によかったと思いました。

審査員評は以下のとおりです。

本取り組みは、教室の環境性能を高めることに加え、ワークショップを通じて気候変動や建物の性能が私たちの暮らしにどう影響するのかを実感できる点に大きな意義がある。さらに、レクチャーを組み合わせることで、断熱の重要性を深く理解し、参加者の意識を高めながら学びが地域へと広がっていく構造を生み出している点も印象的である。環境改善を起点とし、継続的な取り組みを通じて、教育と研究の双方の価値を育んでいることも高く評価したい。地域ごとに異なる条件下で活動を展開するには建築的な検討に加え、資金調達の工夫や地域との関係づくりといった表には出にくい努力が積み重ねられてきたに違いない。学校という誰にとっても身近で公共性の高い場所で、教育、地域、行政をつなぎ合わせることで、脱炭素社会への理解と共感を広げる先駆的な実践となっている。今後も、この取り組みが各地で展開され、建物の性能向上を通した人々の学びの基盤となっていくこと、本活動に触発された制度改善や活動の広がりにも期待したい。

さて、この受賞はここがゴールではありません。むしろ出発点だと思っています。このコラムを読んでいただいている方は、一般の人より格段に知識と能力と、それに対する実感を持たれていると思います。

ゴールはこの活動を通して一般人の知識を高め、公共建築物の本当の意味でのZERO ENERGY BUILDINGとしていくことです。そのためには公共建築物がパッシブハウスになることも求められるでしょう。それにどれだけ近づけるか、道は遠くて長そうですが、一般の人を仲間に入れるのも一つの方法だろうと考えています。審査評にあるとおり制度改善が必要です。うまくいかなければ、未来の社会に「エネルギーを浪費し、CO2を出しまくる建物」を残しかねません。そうならないよう、ワークショップをしながら、公共建築物の断熱化の必要性を理解してもらい、そういう社会を作る努力をしたいと思います。

ワークショップのご相談にものりますのでよろしくお願いします。