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森みわ
パッシブハウス・ジャパン代表理事
本質を理解するプロが不足する時代を見据えて
2024年ももう終わりに近づいて参りました。今年は元旦の能登の震災という国難から始まり、その復旧はさほど進まぬまま、世界中は様々な不幸な出来事もありました。各国がいがみ合い戦争を続け、分断が進む中、先進国の個人も企業も、今まで通りの暮らしを続けた結果、地球の平均気温は産業革命以前から1.5度を超えてしまった様子です。そう、気候学者たちが恐れていた通りのシナリオに向かって。
今年で15年目
PHJの地道な活動も今年で15年目となり、国内では登録済みのパッシブハウスが100棟を越え、国産の窓の断熱性能もぐんと上がり、建物の地盤周りの熱損失の評価方法も改善され、住宅に関しては国の断熱基準も引き上げられましたが、社会全体に対するその貢献度は情けないほど小さいという有り様。PHJの賛助会員企業はメーカー会員を除くと今年で267社となりましたが、仮に各社が年間10棟以上のパッシブハウスを手掛けると、年間で3000棟というオーダーに達しますが、それでも間に合いません・・。じゃあどうする?という疑問の答えは出ないまま・・。
ドイツの とあるスタートアップ企業
そんな矢先、先日ドイツのとあるスタートアップ企業の方が私を訪ねてきてくれました。彼らはチャットボットで一般ユーザーから住まいに関する必要な情報を集め、既存住宅のエネルギーパスを発行するサービスを始めていました。ドイツでは不動産売買する物件や賃貸に出す物件もエネルギーパスの提示が義務化されているものの、プロが出向いて現調していたら費用的に割に合わないという切実な実情があるようですが、実際にプロが診断した場合の誤差よりも小さい誤差でAIが診断結果を導き出せているとのことでした。また、エネルギーパス発行に留まらず、次のステップとして、既存住宅の改修提案までチャットボットに行わせることを彼らは目論んでいました。要するに、プロ不在の状態で、断熱改修をしたい一般ユーザーをどんどん正しい省エネ改修に誘導していくスキーム作りです。
プロ不在って?
と危機感を感じる実務者も多いかと思います。
私たちは実務者の気づきを促し、意識を高めていくと共に、パッシブハウスが提案出来る実務者を養成していきたいと願い、2010年にパッシブハウスジャパンを設立しました。沢山の方の情報発信や働きかけにより、断熱の健康メリットも認知され、3.11で原発は暴走、昨今の戦争でエネルギー高騰は各家庭の家計を直撃しているため、一般ユーザーの断熱改修への関心は非常に高くなっています。
建もの燃費ナビや日本語版PHPPというパッシブハウスの設計ツールもあるし、性能建材も揃ってきました。勿論コストの壁はありますが、深夜電力の料金体系も破綻したも同然、借り入れが可能な人であればパッシブハウス級の仕様であっても、その投資は30年で元が取れる状況が到来しつつあります。
しかしながら、このような状況でも遅々として普及しない理由は、勿論昨今の資材高騰の影響もありますが、高断熱化のメリットを理解している(もしくは伝える能力が不足している?)プロが地域に不足しているからと言わざるを得ません。ですからドイツ企業が取り組み始めた、プロ不在でも進む断熱リフォームの促進は、この待ったなしの状況ではもうやむを得ない流れと感じました。
ちなみにこのチャットボット、どんな言語でも認識するのです。ですからPHJの知見をすべてAIに学習させ、このシステムを利用することで、国内でも運用できる可能性があることが分かりました。
これは、プロの仕事を奪う流れではなく、最終的には正しいアプローチによる断熱リフォームや建て替えの依頼が、まじめなプロに舞い込んでくる流れを加速化するものだと捉えることが出来ます。
近所にいるなんちゃってプロに騙され、間違った予算配分で断熱リフォームをしてしまったり、建て替えを促されてしてしまう被害を減らすことにも貢献するでしょう。そもそも切実な悩みを抱える一般消費者にとっての最初の窓口は、本物であってほしいものです。けれどもそれが叶わない状況となると、PHJの衆知のチャットボット化は、近い将来決断するべきなのかもしれません。ということで来年も新たな目標が出来ました。引き続き進化していくPHJをよろしくお願いいたします!
最後になりますが
被災地や紛争地域を含む、世界中で出来るだけ多くの方が、暖かい年末年始を過ごせることを、心から願っております。来年のPHJ年賀状募金は昨年同様、ピースウィンズ・ジャパン様宛てとさせていただきます。近年、年賀状の廃止を決断された企業の皆様におかれましても、本来発生していた年賀状経費は、削減ではなく、是非募金の方向でご検討いただければ幸いです・・・。