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【ニュースレター 2024年10月号コラム】 パッシブハウスオープンウィークス2024 SUMMERを終えて

2024.10.15

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高橋 慎吾

高橋建築株式会社 代表取締役
PHJ理事

パッシブハウスオープンウィークス2024 SUMME 開催

パッシブハウスジャパン(以下PHJ)では、今年、初めての夏のパッシブハウスオープンウィークスを開催しました。

これは、認定パッシブハウスを、夏の暑いさなかに見ていただく企画です。日本全国の、実際に住まわれている本物のパッシブハウスを、オーナーさんにお借りして公開しました。8月の1ヶ月間の開催です。全国各地の認定パッシブハウスの施工者、設計者である主催者が、各々公開する日時を選び、8月のいずれかの日に皆さんに見ていただきます。今回は日本全国14会場での開催でした。

PHJメンバーの福島の菊田さん、東京の丸山さんが中心になって段取りをしていただきました。ありがとうございます。

冬では無く夏開催のチャレンジ

パッシブハウスに限らず、高断熱住宅の良さを知ってもらうために、多くは冬の寒い時期に、見学会を開催することが多いようです。特にパッシブハウスでは、日射熱取得で暖房がいらないところを見ていただいたり、少しの暖房で家の隅々まで温かかったり、温度ムラも無く柔らかいぬくもりで包まれたなんとも言えない快適な空間を体感していただき、本当に皆さんにびっくりしていただけます。
一般の家や、中途半端な高断熱との違いがはっきりわかりやすく、冬場の開催はとても効果があります。

一方、夏は違いを見せにくいという認識でした。近年の暑い夏では、どうしてもエアコンが必要になることが多いです。あまり断熱していない性能が低い住宅でも、エアコンを付けることで、涼しくなります。エアコンの大きさや数の問題はありますが、同様に涼しくなり、違いは体感して貰いにくいと考えられていました。

しかし、パッシブハウスは夏でも快適です。たまによく知らないでイメージだけでこのように言う方がいます。

「パッシブハウスはドイツで作られた基準なので、日本には適さない。夏は快適では無い。」

残念ですね。こういう人はパッシブハウスのことをご存じありません。こういう方に勉強していただき再認識していただくためにも、パッシブハウスは夏でも快適で、省エネであると言うことを知っていただかなくてはなりません。

夏の難しさ

確かに、夏を快適にするコントロールには少し難しい面があります。ですが、今後は温暖化などの影響もありより夏が厳しくなることが予想されます。ですから、パッシブハウスの考え方をしっかり学び実戦していく必要があるのです。

夏は、ただ室温を下げるだけでは無いからです。除湿や気流。音の問題もあります。熱の分配もとても難しくなります。冬には有利に働く、日射熱や内部発熱が夏には不利に働いてしまうことも難しくする原因の一つです。日射熱や、内部発熱によって温度を上げてしまう分だけさらに冷やさなくてはなりません。

パッシブハウスは日射遮蔽や熱橋等までもしっかり考えられているので冷房負荷がとても低くなります。そのためエアコンが止まってしまい連続して稼働しないためどうしても除湿が難しい側面がありました。

冬の開催に比べると夏の開催は難易度が高いと言うことです。

実際に体感できるチャンスは我々設計者にも必要

夏のパッシブハウスの見学会を行うことは、我々設計者、パッシブハウスコンサルタントにも大いに役に立ち学びの場となります。体感して快適さを味わったり、冷房の分配が上手くいくか調べたり、実際にパッシブハウスの夏の冷暖房システムの効率を調べることも一つです。

普段では一日中、実際に使われているパッシブハウスを体感することはできません。このチャンスが得られるのです。この経験はなかなかできないことです。

実際の事例のご紹介

このパッシブハウスは埼玉県上里町にある平屋の住宅です。熊谷市の北西部にあります。

6畳用のエアコンがロフトに設置されています。様々な設置場所が考えられると思いますが、今回はロフトにしました。暖かい空気は上に上がります。その暖かい空気を冷やし、家中に広げることを狙っています。勾配天井を介してリビングに冷気を広げます。各個室には個別のFANで冷気を搬送。と言う仕組みです。

今回のパッシブハウスの性能は

家全体の冷房のピーク負荷は 104.9㎡×12.3W/㎡=1290W

家全体を冷やすのに6畳用エアコンで十分と言うことですね。ですから、この家には冷房用として実際に6畳用のエアコンを付けました。6畳用エアコンですから割安です。大きなエアコンに頼らなくても大丈夫です。価格以外にも様々なメリットがあります。

計算通りになるのか?

このパッシブハウスのイベントは9時から開始です。9時の時点ではすでに30度を超えています。
埼玉県上里町ですから、暑いと有名な熊谷の近く。この日の最高気温は36℃でした。40℃に近い日もあるのでピークではありませんが、熱いです。家の中でも室温をたくさん測っています。
お客様も何カ所も測っていますし、大学の研究用の温湿度ロガーもあります。

エアコンの設定は25℃で 室温はどの場所でも25℃から26℃位でした。
湿度も60%以下にコントロールされています。
家の中、どの場所でも快適です。

9時からIHを使い、料理も開始です。今回はたくさんの料理を来場者に振る舞うという楽しいイベントです。
ですから、BOSCHのIHは常時2口以上は使いっぱなし。多いときには4口すべて使われていました。

HEMSで確認するとIHの電力量は常時400~700Wh位ででした。
10時になると来場者も15人超えました。料理もしています。

レンジフードも運転しているので温度や湿度も高い外気も取り込まれています。ですから冷房負荷は上がります。6畳エアコン1台では間に合わず、だいたいどの場所でも26℃を超えました。

やはり少し暑くなった感じを受けました。通常の冷房、除湿負荷に加えて連続しての料理の負荷。そして人間の発熱負荷。大まかな計算しても6畳用エアコンでは足りないことは明らかです。

計算以上の配慮

あくまでも計算は通常の生活を考慮したものです。実際には様々な可能性があります。

今回はイベントでの使用。熱の発生は想像以上に大きくなります。イベント以外でも普段の生活の中で、真夏にお友達家族を呼んで、室内で焼肉なんてこともあるかも知れませんね。そういったときのためにパッシブハウスの設計者は、イレギュラーなケースも想定します。

今回の場合も想定の範囲内。
料理や人の数で膨大な内部発熱。

でも安心してください。エアコンがもう1台付いているのです。
実は和室にバックアップ用(暖房はこちらをメインで使用)のエアコンがあるのです。負荷が高いときや、万が一の故障の時のためにエアコンが準備されているのです。こちらも6畳用です。

10時30分にもう1台の6畳用エアコンを付けました。
これで、また25℃~26℃を維持できました。すぐに温度が下がり安定して快適になりました。その後はずっと25℃台。お客様も途切れず、IHも付けっぱなしですがOKでした。

ピークでは20名くらいいたと思いますが、コントロールできていました。本当に計算通りですね。すごいです。ベースで緻密な計算がなされていますから、想定外のことも想定できてしまうのです。

今回の見学会では、冷房が計画通りに動くのか? それを試すことができました。

イベントは大成功!

他の会場でも、来場者の感想をたくさんいただきとても好評だったようです。
ハウスメーカーさんの展示場ではエアコンがたくさん付いていて快適にしていますけど、小さなエアコン1台(2台)のエアコンで家中快適になる。


来場者の感想】

・夏はエアコン冷房で冷えすぎる事もあったがそれがなく気持ちよかった。
・豊かな暮らしづくりのヒントをもらえた。
・どこにいっても涼しい設計。
・夏のパッシブハウス、快適でした。
・エアコンからこんなにゆるい風で涼しくなるなんて不思議。
・素晴らしい環境であったな、と新幹線で都内に降り立ち、改めて思いました。今後もどこかのパッシブハウスへ伺わせていただき、最新のパッシブハウスの軌跡を追いかけたいと思います。
・お邪魔して体感することの大事さを身をもって知りました。
・冷えすぎない本当の快適さがわかった。
・他のハウスメーカーとは全く違う快適性だった。


主催者の感想】

・引渡し直後、真夏の体感に期待していましたが、結果は予想以上に快適。
・パッシブハウスを知っている方ではなくて、建物を検討している普通の人の来店でした。
・初の夏開催でしたが、冬同様に玄関入った循環から涼しかったり、ロフト上に上がっても、ムッとした暑さがないなど、上下温度のない温熱環境、エアコン1台で快適であることを体感して頂きました。
・来ていただいて体感してもらうのがいいですね。言葉では伝わらないので、こういう活動は積極的にやっていきたいです。
・冬ではなく暑い真夏にパッシブハウスの快適さをご体感いただけたので、よかったです。

まとめ

夏の開催は難しいと言われていましたが、圧倒的なパッシブハウスの性能を体感していただくには、またとない機会になることがわかりました。
エネルギーの消費量が少なくなることは当然ですが、体感的に異次元の心地よさが感じていただけます。パッシブハウスが、夏でもとても効果があると言うことが確認できます。

とても素晴らしい体験をしていただけるまたとない機会ですので、今後も多くの方が参加していただきやすい環境を作っていきたいと思います。皆さんのご協力をお願いします。