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竹内 昌義
パッシブハウス・ジャパン理事
『みかんぐみ』共同代表
なぜ断熱等級5はダメなのか
専門家によるとある会合で、全館空調の話題が出たときに、Z空調問題が炎上しておりました。せっかく開発費をかけて(どのくらいかけて開発したか知りませんが、エアコンはダイキンマルチらしいし、、、)作った主力商品に、社長はケチをつけられたと受け取ってしまったんでしょうね。ま、その時はこれ以上、炎上すると多方面にもご迷惑がかかりそうなので黙っていましたが、やっぱりダメなものはダメなので、なぜダメかここで説明しておこうと思います。
2050年脱炭素を前提としたときに、いくつかの前提条件があります。
まず、一つ目はIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が示しているメルクマーク「2030年に新築で脱炭素」という指標です。
これによると「2030年に新築はゼロエネルギー」。それ以降は、既存の建物から出るCO2をいかに減らすかということが求められます。
日本のZEHとか全然ダメなわけです。
日本のZEHって実は呼び方で2つの概念があるとご存知でしたか?
元々、あった“ZEH”は経産省が作った言葉で、ゼロ(Z) エネルギー(E) ハウス(H) の略で
ZEHとは高性能な躯体+高効率な設備機器+再生可能エネルギー=ゼロと定義されていますが、
国交省の言うZEH基準は
2025年の義務化基準の80%のエネルギー消費量
ということになっています。
断熱等級4の80%なんて、大した断熱性能でもないので、これでいいよということであれば、消費者に嘘をついていくことになりますから、JAROに訴えたいくらいです。
大手ハウスメーカーのZEHナンチャラはこのレベルなんですね。日本の脱炭素はどうなってしまうんだろうと、学会長をやってた偉いT先生にも聞いたことがありますが、電源構成が変わればなんとかなるんじゃないの。と大変無責任なことをおっしゃっていました。
ZEHという言葉は最近ではよく使われるので、その意味成り立ちをちゃんと理解して使いたいものです。
もう一つの指標は
もう一つの指標は国立環境研究所の出しているこのグラフ。これによると民生部門(住宅のことです。それ以外の建物は業務)全体で、全体のエネルギーを半分にするというこのグラフです。
これは家(住宅全体)ですから。既存のどうしようもない家も含まれます。家が26年以上使われる、つまり2050年に建っていることを考えると新築はすでにゼロにすべきです。また、既存の家の断熱改修もどんどん進めるべきだということがわかります。日本全体では、エネルギー転換という産業部門から排出されるCO2(特に石炭火力発電によるエネルギーと鉄鋼部門が突出して多い。)の削減がとても重要ですが、一方、民生、業務(どっちも建物)部門から排出されるCO2は年々増えておりますので、やはり、マイナスに持っていかなくてはならない。そういう中で建物を作っている私たちは少なくとも新築はゼロエネルギー、改築もそれなりにというのが求められいると思います。
さて、話を元に戻します。
Z空調の家は断熱等級5、全館暖房をしています。義務化基準の断熱等級4の間欠暖房と断熱等級6の連続運転はだいたい同じエネルギーであることが知られています。
こちらに関しては、私が出ていた2021年のあり方検討会に資料があります。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001403276.pdf
そこで私が真剣に議論していたのは「等級6の義務化」です。
なので、断熱等級5(ZEH基準の外皮)で連続運転、全館暖房をすると断熱等級4の時よりも確実にエネルギー消費量が増えてしまい、国が目指している2030年時点で「新築エネルギーゼロ」にも、2050年レベルで民生、業務部門での「半分」というものとは全くの逆行をしているということになります。コマーシャルで人気俳優を使って、『脱炭素時代の………』とか言っているのを見ると、思わず笑っちゃうくらい低レベルの認識であると言えると思います。
断熱等級4は2025年の義務化、断熱等級5は2030年までの早い時期に義務化というが今のロードマップですが、私は2025年に断熱等級6の義務化は目指すべきと考えています。でないと、住宅や建築部門だけ遅れをとることになります。断熱等級6が最低レベルになったら、大変と思うかもしれませんが、そんなことはありません。関東以西では断熱等級4の建物の窓を樹脂窓ペアにすれば、できるレベルです。それがローエンド、そうなった時のハイエンドはパッシブハウスになるはずです。
ゼロエネルギーハウスを求められたとしても、人間は地球のために、「じゃあ太陽光を載せよう」というふうにはなりません。やっぱり、自分が支払う電気代のため、だったり、より快適に過ごすため、というモチベーションの方がより強力です。これから、人口減少によって、また、価格の高騰化によって、ますます着工件数が減ってきます。新築での差異化を目指すみなさんはパッシブハウスを経験した方が良いと思います。
そう言っても高いと言われるのであれば、そういう方にPHJの高橋理事(高橋建築)の方法をご紹介します。
高橋メソッド
パッシブハウスを建てるには付加断熱が必ず必要になります。東京以西は付加断熱がなくても断熱等級6もできますが、そのレベルの話ではありません。さて、じゃあ、付加断熱をどうするか。ネオマフォーム90mmを合板の外側に隙間なく並べ、通気胴縁でパネリードを使って止めます。また、そのネオマフォームの繋ぎ目に気密テープを貼って、気密を取ります。もちろんタイベックは、通気胴縁の下。
そのことで、気密は取ることができ、外壁に近い側に高断熱層が形成されます。ネオマは間柱の欠損なく、並べられます。屋根も同じくネオマフォーム90mmを合板の上に置き、その上に垂木を置いて、上からタルキックなどで止めつけます。垂木の部分が通気層になります。これをすると、室内側は袋入りのグラスウールで問題ないことになります。壁にはグラスウール100mm相当、屋根には150mm。現場を見せてもらったのですが、難しいことを全くしていない現場に見えます。もちろん、配線も可能。袋入りのグラスウールなんかだと、結露しそうな気が一瞬しますが、外側でバッチリ断熱されているので、その内側の温度差はわずかになるので、結露しないとのこと。ただし、建築地によって気象条件が違ったり、材料の種類によって物性値も違うので、設計者がWUFIなどの非定常計算をして、確かめると良いとのことでした。
今まで、「グラスウールを結露させないために、気密層が必要です。」と説明してきましたが、別のアプローチをすることで、発想の転換ができるのだなとおそれいりました。義務化基準の等級4の家+ネオマ90mm(材料は高いけど、手間は少ない)+手間分と思うとすごくハードルが下がる気がします。この方法を「高橋メソッド」と呼びたいと思いました。これなら、普通にパッシブハウスに届きそうです。
今後、断熱改修の買取再販や高性能賃貸住宅の需要がこれから伸びてくることでしょう。また、職人さんが激減してくるこれから、パネル工法のハーフ工法などの選択肢も選択肢に入ってくると思います。いずれにしても、社会はすごい速度で変化しています。大事なことを見失わず、変化に応えていただければいいと思います。