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高橋 慎吾
高橋建築株式会社 代表取締役
PHJ理事
『中大規模木造にも高断熱の技術を 』
国策で木材の利用を増やすことが決められ、大きめな建物も木造で作られ始めてきました。中大規模木造建築物と言われ、住宅以外でも学校やオフィス、倉庫、商業施設なども木造で建てられるようになりました。
規模的にも大きなものが建てられています。近年では超高層の建物までもが木造で建築する計画が立てられています。これには構造的な技術の確立や防火の実験などにより安全性が確認されきちんと法整備がなされてきたことなどが大きな要因です。
木造で作るメリットは何でしょうか?再生可能な木材という物質で建てものを作るということで資源が循環するというサスティナブルな面が取り上げられますが、ほかにも良い点があります。
一つは工期短縮。
RCでは鉄筋組 型枠組、コンクリートの打設、養生を階ごとに繰り返す必要がありますので工期もかかります。木造なら、ユニット化されたパネルを組み立てていくだけ。
以前視察に行ったカナダの学生寮の写真です。この建物がわずかな期間で建てられました。
そしてもう一つの利点は、木材が視覚に入ることで心が安らぎ、そして木が呼吸することで空気が浄化されることが言われています。
しかし、それでしたら内装材を天然木材にすればいいことですよね。
よく言われている一般常識的なことではなく、実はもっと大きな特徴や利点があるのです。
それは断熱性。
鉄骨造で作るとどうしても鉄のフレームが断熱性を損ないます。木材なら骨組み自体も木材ですから、鉄などに比べ熱伝導率が極端に低く熱が伝わりにくくなります。そして充填断熱はもちろんのこと、外張り断熱もしやすく断熱量を確保するのにとても有利です。さらに技術の必要な気密工事も相手が木材ですから、とても施工が容易です。
様々な利点がありますが中大規模木造の真の利点は、最後に述べさせていただいた高断熱化が容易であるということだと思うのです。高断熱化により、冷暖房エネルギーが極端に減りエネルギー消費が削減される。これは居住者にとっても、地球環境にとってもよいことです。
そして高断熱化によって冷暖房負荷が減りますから、設備が過剰に要らなくなります。初期投資も減りますし、維持費も安くなりますね。エアコンの数が少なくなるということはそれだけ修理の回数や、取り換えの回数が減るということです。
そして、居住性は圧倒的に良くなります。どこにいても快適な室内環境が保ちやすくなります。温度ムラも少なくなりますし、計画換気によりきれいな空気が維持されます。快適な室内環境は、居住者の健康維持にもつながりますし、学校であれば学力向上、オフィスであれば生産性向上につながるかもしれませんね。このあたりの研究は今後、高断熱の中大規模木造が増えてくることにより明らかになってくるのではないかと思います。楽しみです。
前置きが長くなりましたが今回の本題はここからです。パッシブハウスジャパンならではの目線でお話ししたいと思います。
構造の先生や防火の先生のご努力により、日本でも法整備がなされ中大規模の建物が建てやすくなってきました。
例えば15倍の耐力壁。
柱に24mmの構造用合板を張ることにより耐力を確保します。
そしてそれを利用した防耐火構造の認定。
こちらはJBN仕様の45分準耐火の図面です。
両面木材仕上げ ほぼ普通の構造で45分準耐火です。すごいですね。
ほかにも類似の仕様はありますが構造用合板、鉱物系の断熱材、そして強化石膏ボードという基本的な組み合わせです。
そしてそれらを応用した外壁です。
これは某庁舎の図面です。当初はパッシブハウスを目指そうという動きがありましたが、様々な面で設計事務所の理解が得られず残念な結果となりました。それでもできるだけ高断熱にしたいと職員さんが頑張ってくれています。もう建設が進み図面も公開されていますので、掲載します。
すごい壁ですね。
しかし、ここで「大丈夫かな?」と思った方も多いと思います。
多分「大丈夫かな?」と疑問に思った方はレベルの高い人で壁体内の湿気を気にされたのだと思います。
うまく排出されそうもないですね。
日本の基準で求められる計算なら、温度と水蒸気圧で飽和しないかどうか確認する定常計算だけですから、室内側に防湿シートがあれば安全だと判断されます。
しかし完璧な施工は不可能です。シートの隙間から室内側の気流が入るかもしれません。コンセントや設備配管の隙間からも入るでしょう。木材の継ぎ目からも。サッシの取り付け部位からも。合板の隙間からも。経年変化で木材のそりや亀裂もありそうです。リスクは山ほどあります。
100枚壁があったら1枚も施工ミスが許されない。10年経っても許されない。そこに気流が入ったら施工者のせいでしょうか?そんなことを言われたら誰も施工できません。ミスを予測してバックアップするのが設計者の務めですね。
屋根であっても二次防水。万が一の時もできるだけ雨漏りを防ごうと努力する。構造であっても余力を残す。少々のミスで倒壊してしまっては話になりません。
余裕をもった設計をする。先を読んで事故を未然に防ぐ。当たり前の話です。
断熱技術でもそのような考え方は必要です。
テープがはがれてしまったら?断熱材がきちんと入っていなかったら?穴が開いていたら?それでもある程度は安全性が担保されるようにしておきたいですね。
私はWUFIというソフトを使いシミュレーションしています。
今回のこの物件の壁でシミュレーションしてみました。
確実な物性値が分からないので一般的なものでシミュレーションしています。
グラスウールの壁体内に室内空気の移流が少しある設定です。
外壁構造用合板24mmの室内側表面の相対湿度が高く合板の含水率も高くなってしまうことが分かります。
ここまで相対湿度が上がり含水率が高くなるとちょっと怖いですね。カビの繁殖や木材の腐朽のリスクがあることも考えなければなりません。
このような状態になってしまうことは、構造用合板の透湿抵抗の高さに原因があることは明らかですね。
対策はどのようにすればいいのでしょうか?
24mmの構造用合板を薄くしてしまっては構造の耐力が下がってしまいます。耐震性能を犠牲にすることはできません。断熱材をなくせば、いいのかもしれませんが、それをしてしまうと寒いですし消費エネルギーも増えてしまいますね。
町の技官さんに相談され対策を考えてみました。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、構造用面材付近の相対湿度を下げるには、構造用面材の温度を上げることです。
構造面材の温度を上げるには外に断熱材を付加することが一番ですね。外にネオマフォームの付加断熱をしてみましょう。
先ほどの結果と比較してすごくいいですね。
結露域には達していませんし 相対湿度が最高でも90%くらいに抑えられています。構造用合板の含水量も上がっていませんね。
とても安全な壁になりました。万が一の施工ミスや建年変化があっても安心です。
JBN仕様では安井先生のお力を借りて、抜かりなくこの仕様も認定を取っているようです。
素晴らしいですね。
しかし、付加断熱30mm固定というのが、我々からすると残念ですね。
厚さに制限ないとか せめて100mmくらいまで可変でとってほしかったところです。
このように 中大規模木造では構造、防火の検討が進みたくさん建てられるようになってきましたが、そればかりを重視して建ものを作るのは危険で、断熱のこともきちんと考慮に加えてほしいと思います。
日本でもようやく、検討の準備がされ始めているといううわさを聞きました。そのうち指針が出されると思います。
それまでは、ダメダメな建物が作られてしまう恐れが大いにあるわけですが、私たちは、法整備がなされていなくても、このような考えがあることを頭に入れ安全な建物を設計していきましょう。
中大規模木造でもパッシブハウスが作られるように頑張りましょう。