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ニュースレター 2021年3月号コラム

2021.03.10

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竹内  昌義

パッシブハウス・ジャパン理事

 東日本大震災から10年経って

今年の3月11日で震災から10年という月日が過ぎようとしています。地震や津波の直接的な被害もさることながら、福島の原発4基が同時に破壊され、今なお原因究明と復旧に向けて、使用済み核燃料を取り出す途上にあります。メルトダウンした燃料がどこにあるかもわからず、ロボットなどを投入しようとしても、強い放射能で壊れてしまうという非常に危ない状況が続いています。そればかりか周囲の市町村から避難した住民が、まだ帰れない状態にあります。福島のラジオでは朝夕線量の測定値が報告され、それが日常となっています。ちっとも復興とも言えないし、実は日本はこの点において、非常事態宣言下にあります。(いまだに非常事態って解除されてないんです。)さて、話は飛んで地球温暖化の話をします。こちらも世界の中では相当ガラパゴス化している状況です。菅総理が「2050年までに脱炭素化」を所信表明演説で宣言し、各省庁はそれに向けて準備をしていますが、社会でのゲームのルールが変わった印象は薄れつつあります。
そして、コロナ禍。台湾やニュージーランドは早々に封じ込めや水際対策が功を奏して、通常の生活に戻りつつあります。一方、日本は幸いにも感染者が少ないことを理由に、徹底した検査もぜずに、「呼びかける」だけの非常事態宣言を行い、補償を十分にしないという対策をとっています。というより何もしないで様子見をしているに近いです。現状を眺めながら、その場しのぎの対策しかしていません。厚労省の職員の残業時間が公開され、その激務が話題となっていましたが、スタッフの応援をする人事異動もできない状態なんだそうです。おそらく、こういったどうしようもない事態はまだまだ続くと思われます。一方、環境対策でも先をいくドイツなどは、すでに全エネルギーに対する再生可能エネルギーの比率が45%を超えました。(日本は18%位と思っていましたが、2019年は22%と書いてありました。)日本はひたすら沈んでいき、とうとう韓国に所得水準で抜かれてしまいました。

この差は一体なんなのでしょうか。これはこの10年の間のずっと説い続け、思っていることです。色々あるのですが、沈んでゆく原因は大きく2つあると思います。。

  1. 変化に対する適応性が落ちている。
  2. 民の力が弱い。

1)変化に対する適応性が落ちている。

簡単にいうと、戦後の高度経済成長が忘れられないという一点に尽きると思います。成長化での
企業や人々の暮らしに対するスタンスと熟成期におけるスタンスは全く違います。
例えば、成長期には土地は借金してでも買い、持っていれば値上がりし、売り抜けることでさらに大きな土地や不動産を手に入れることができます。大きすぎる投資もしばらく待てれば、時代が追いつき、結果的には問題なしということになります。今は逆です。土地の値段が下がることを前提に、土地の値段によらない、そこでのコンテンツの良し悪しがその事業の明暗を分けるのです。このコロナ禍でも業績を伸ばしている会社はあります。コンピュータなどのIT系や運送業、通信販売、うちにいる時間を楽しむ産業です。これらは変化の芽にいち早く気がつき、そこが伸びたらどうなるだろう考えていた人たちです。変化は必ずやってきて、その時どうなるか常に予想をしている人には幸運の女神が微笑むのです。この変化は相当早いです。世界の常識では、二酸化炭素をいかに減らすかが大きなテーマで、それに乗れるか乗れないかで将来性が大きく変わると言ってよいと思います。
こんなことを書くと訝しがる人がいるかもしれませんが、単純な資本主義ではこの先やってはいけない。「グローバリズムは悪」だという認識が世界に広がっています。もちろん、地道な商売は相変わらず必要で、儲けなくてはいけなく、それ全体を否定するわけではないのですが、資本主義は一部の金持ちのもので、やればやるほど、その金持ちが儲かるだけだという否定的な空気が広がっています。それに変わるものは、地域的な(ローカルな)動きであったり、温暖化を防止する気候のことが重要という空気だったりします。グレタ・トゥンベリが始めたFFF(未来のための金曜日)だったりします。これらはみんな底流で繋がっていて、振り子のように振れています。日本は経済最優先という振り子がふれたままになって、つっかえているような状態です。また、変化をしたくない状態では、バックキャストのものの考え方が機能しにくい。「今あるものをどうにかして、それが最適化する」変化は決して大きくないので、変化についていけなくなっているのです。これはトレーニングで改善されます。2050年にはどうするべきか、そのためには今何をするべきかを考えようというスタンスです。2050年に脱炭素をするというのであれば、30年以上の寿命のある住宅は、2021年の現時点で、最低でもカーボンニュートラル、もしくはパッシブハウスにする必要があります。社会を引っ張って変えていくには、最初はより強い力で引っ張らないと思ったように変わりません。まずは、思い切り引っ張ることが必要です。いずれにしても、未来は予想を超える変化があるということを前提に動くべきだと思います。

2)民の力が弱い。

このことは分かっていても、もう少し話が複雑です。その上でどうするかを考えなくてはいけません。私は日本の歴史、教育に問題があると考えています。
日本の教育は、いかに効率よく処理能力が高い人間を育てるかに終始してきました。答えのある問題を解くには、ある程度の記憶力、トレーニングが必要で、これが受験勉強です。国立大学を頂点とするピラミッドができていて、そこでの競争をする。政治的にはあまり発言をせず、会社で頑張る。給料が上がり忙殺される。この繰り返しが今の日本を作っています。敗戦国として、空襲で焼け野原になった中から立ち上がるには、こうするしかなかったのかもしれません。一方、同じような敗戦国ドイツはナチスに戻らないためにはどうしたら良いか、徹底的に総括を行う教育をしました。ドイツでは、今の政府はナチスとは全く違い、新しく生まれ変わったものだという認識が根強くあるから、客観的に語れるのです。日本は徹底的にダメになりながらも、なんとなく天皇制も含め、戦犯だった政治家の子女も温存してきてしまったので(日本の意思だけではなく、防共の防波堤と考えたアメリカの意思もありますが)、歴史も太平洋戦争をうまく教えないようになっています。単純に頑張って働くこと、それはものの作りがシンプルだった時には、有効なのですが、変化が多い現代では大きな弱点になってしまっています。
その結果、私たち一人一人の考えていることが、政治に反映されにくくなっていて、「民の力が弱い」状態になっていると考えられます。このメルマガを読まれている方は、会社のため、地域のために努力されている方が大半だとは思います。一方、政治的な活動などにはコミットされてない方が多いのではないでしょうか。でも、それがこの「民の力が弱い」状態に加担している可能性があると考えています。これも一朝一夕では直すことができません。少しずつ地域での集まりや考えていることを表明していくことが大事だと思います。

2050年脱炭素には、単に家がパッシブハウスになるだけではダメで、社会全体が大きく変化していかなくてはいけません。PHJ設立の2010年から既に10年も経ってしまいました。10年前と比べると格段に変化している部分もあります。菅さんの所信表明も追い風には違いありません。でも不十分だし、変化の速度は遅々として焦ったいものです。地球温暖化にとっても、周回遅れになりそうな日本にとっても、次の10年はとても大事な時間になると思います。一人ではできなくても、それがグループになり、社会になっていけば大きく変わることができると思います。共に頑張っていきましょう。