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ニュースレター 2021年4月号コラム

2021.04.12

パッシブハウス・ジャパンでは月に一度ニュースレターを発行しております。

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高橋 慎吾

高橋建築株式会社 代表取締役
PHJ理事

~省エネ義務基準と本当に必要な省エネレベル~

私たちが目指す高性能住宅の要素の一つに温熱性能をの向上があります。
それにより、快適な生活、健康の維持増進、冷暖房費用の削減が達成され、省エネになるといわれているからです。

住宅は、高断熱化を進めていくと本当に省エネになるのでしょうか?
パッシブハウス・ジャパンのコラムではありますが日本の基準で考えてみたいので現在の義務化されていない省エネ基準や多くの方が採用されているHEAT20のグレードでお話を進めていきます。部分間欠暖房という話が絡んでくるとパッシブハウスのレベルの話となじまなくなります。

日本では省エネ基準の義務化が叫ばれて久しいですが、多くの方が暮らす6地域のUa=0.87ではとてもエネルギーの消費量が多いですね。どのような決まり方でこの基準が作られているかわかりませんが、とても寒い家です。私の息子が住んでいる飯能市の建て売り住宅がまさにそれ。省エネ基準クリアーレベルがどのくらいか知るのにはちょうどよかったのですが後悔しています。本当に寒い日には脱衣室で命の危険を感じたこともありました。

現在、割と多くの方が採用しているHEAT20のG1グレードのUa=0.56相当(ZEH Ua=0.6)もエネルギーを削減できるかと思いきやそうでもなさそうです。このくらいになってくると、エアコンの効きもよくなってきますので、皆さん温度差の少ない生活を好まれてきます。
今までリビングと寝室など居室の暖房を朝晩つけていたいわゆる「部分間欠暖房」から廊下やトイレまで暖かくなるレベルの暖房までしてしまうようになります。生活の質を上げたり、健康維持のためには必要ですが、とても増エネになってしまうようです。小さな空間の暖房で我慢していたのに大きな空間を暖房し始めたのですから当たり前ですね。
ですから、中途半端な基準での義務化は、暖房スタイルの変化まで考えると省エネにはならないのです。実は20年前に作った私の家もUa=0.5くらいの家にもかかわらず全体を冷暖房していますからたくさんのエネルギーを消費しています。1月の暖房費は15000円以上、冷房費も8月は10000円以上かかっています。
政府が重い腰を上げて基準作りを始めてくれようとしていますがその基準で本当に省エネになるのかはとても気がかりです。生活する人が快適健康な生活が出来、なおかつ省エネになる基準を作ってほしいと思います。

省エネ基準の6地域のUa=0.87相当の住宅の部分間欠暖房を全館暖房にしてエネルギー増にならないレベルはG2レベルと言われています。
6地域のG2は0.46ですね。これがぎりぎりの基準です。
部分間欠暖房から全館暖房に切り替えて健康快適に生活を送るという意味では省エネというより増エネにならないギリギリレベルでしょう。

エネルギーを本気で削減するにはどこまで断熱すればいいのでしょうか?
HEAT20の試算ではG3グレードというのがそのレベルのようです。省エネ基準レベルの部分間欠暖房のエネルギーの半分で全館連続暖房となります。
G3にしてようやく半分にできるのです。
6地域のG3はUa=0.26
本当に省エネを目指すにはこのくらいの断熱レベルにしていかないとならないのではないかと思うのです。もちろん日射や換気など考慮されていませんので計画の仕方で性能は大きく変わります。あくまでも目安としてそう感じでいます。

私は4,5,6地域で住宅づくりをさせていただいています。パッシブハウスを目指しより詳細に計算するためにPHPP(パッシブハウスプランニングパッケージ)で計算しています。冬季の日射もたくさん得られる太平洋側ですので有利な地域です。
当社の建物での試算では、HEAT20のG3グレードに第一種の熱交換換気を付けて真南に大開口がつけられるとパッシブハウスレベルとなります。
G3がパッシブハウスレベルとは言い切れないですが、G3レベルの建物であればほかの条件(日射、換気、窓の性能、ヒートブリッジ)などきちんと設計すればパッシブハウスが可能な場合もあるということです。(当社の地域以外は検証していません)
逆にG3に届かなくてもとても良い計画ができればパッシブハウスレベルになることもあるようです。私はあくまでもPHPPで計算して仕様を決め結果的に「G3レベルくらいだったな。」という感じです。冷暖房エネルギー計算を行うには断熱性能以外の他の重要な要素を加味しなくてはなりませんから。

皆さんご存じな話かもしれず恐縮ですが今回のこのコラムでお伝えしたかったのは、きちんと省エネを目指すのであれば、G2レベルの義務化必要なのではないか?
我々実務者は、日射や換気、ヒートブリッジなどの影響までも考え本当の省エネを目指していかないと、この義務化の流れは増エネになってしまう恐れがあるということです。
今後、決まっていく基準が本当に省エネを目指せるものになることを願います。

*PHPPは「建もの燃費ナビ」というソフトで取り組みやすく提供されています。