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ニュースレター 2019年11月号コラム

2019.11.12

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森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表理事

第23回国際パッシブハウス・カンファレンス in Gaobaidianを終えて

まさか国際パッシブハウス・カンファレンスが中国に行くとは、誰も思わなかったでしょう。PHIのメンバーですら、ファイスト博士のその決断にかなり動揺したと聞いています。それでも決行した中国開催。欧米だけがパッシブハウスをはじめとする建築の省エネ化に取り組んでも、もう間に合わない事を博士は痛感し、そして大きな危機感を感じているのだと思います。今回のカンファレンスの主催を任されたWindoor Cityは、Gaobaidianの窓メーカーであるOrient Sundar社が運営する窓に特化した展示会で、毎年大勢の実務者が最新の開口部の製品を見に来る場所。今年の展示会と日程をぶつける形で、第23回国際パッシブハウス・カンファレンスが開催されました。とは言え、発表内容の精査などは全てPHIが行っており、例年通りのクオリティの高い構成となりました。

日本からは総勢15名での参加となりました。
SmartWin社のフランツ・フロインドーファー氏のプレゼンテーションいつも笑いを取ります。

これまでの私は、カンファレンスで自分の発表を行い、各国のメンバーと打合せや意見交換を行い、その合間にメーカーブースを物色するという関わり方でしたが、今回はなんと発表概要を審査する立場を仰せつかり、2月にドイツに渡航、夏頃に自分の発表の準備が何とか整った頃には、ワーキンググループのチェアマンの打診を受け、ドイツ語圏とは異なり勝手も良く判らない中国でハラハラ・ドキドキしながらのカンファレンス参加となりました。日本から渡航ツアーを組み、14名のPHJメンバーと共に乗り込みましたが、幸いにもスケッチアップとPHPPを繋ぐDesignPH2.0の新機能について皆で情報を収集するという目的は達成でき、換気メーカーや窓メーカーとの必要な打合せもこなす事が出来、またカンファレンス2日目のファイスト博士によるクロージング・セッションでは、私のパッシブタウン3期の実測値と設計値に関する比較の発表が、今回の80近い発表の中から優れた発表事例として紹介され、閉会の際にはなんと主催者側のメンバーに紛れて壇上に上がるという名誉な体験をいたしました。パッシブハウス・ジャパンは来年で10周年を迎えますが、何事も続けていくと良い意味で予期しない展開があるものだなと感じました。

パッシブタウン第三期街区J棟の改修前後の設計値及び、実測値の比較を発表しました。
2日目のクロージングセッションでは優れた発表事例としてご紹介頂きました。
閉会の際の主催者側挨拶でほぼど真ん中に陣取ってしまい恐縮でした・・。

DesignPH2.0の目玉はなんといっても近隣建物や庇、樹木などによる窓ガラスへの影の影響を大変細かく解析できるようになった点でしょう。何段階かの解析精度をどのように使い分けるか、広葉樹の夏と冬の遮蔽率の計算の仕方など、様々な例で解説がありました。設計段階で、例えば袖壁をデザインすると何月まで日射遮蔽の効果があるのか、屋根の軒はあと何センチ延ばせば9月も日射遮蔽できるのか、などの情報が窓毎に得られるため、設計者にとって大変心強いツールであると言えます。現在PHJにはDesignPH2.0のライセンスを所有しているメンバーが10名程いますので、今後のPHJによるパッシブハウス認定の審査でも積極的に導入していきたいと考えていますし、来年の1月23~24日に広島で開催するPHPP集中講座でもデモンストレーションを行う予定です。

それぞれの窓に対する遮蔽状況をShading maskとして視覚化。maskの数は1~16までで選べます。

最終日の視察ツアーはGaobaidianのBahnstadt(Railway Cityのドイツ語)のルートを選びました。ドイツ・ハイデルベルクのBahnstadtの事を耳にした方も多いかも知れませんが、GaobaidianにもOrient Sundar社によって巨大なBahnstadtが建設中で、今後パッシブハウス認定を取得していく予定との事です。高層マンション群は全て、外断熱工法でトリプルガラス入りの木製サッシが採用されており、設備は全熱型の換気装置のSA側に、室外機を有する冷暖房ユニットが合体した、いわゆる給気冷暖房のタイプとなっています。数年前にはまだ換気と冷暖房が分離されていましたが、あっという間に新しいスタンダードに移行しています。高層マンションや集合住宅は、戸建て住宅に比べて圧倒的に簡単に冷暖房需要を減らすことが出来ます。日本でも早く中から大規模の建築をパッシブハウス・レベルに引き上げたいところですね。

建設中の高級マンション群。パッシブハウス認定を取得すべくPHIと綿密にコミュニケーションを取りながら進んでいる様子がうかがえました。
今回は既にパッシブハウス認定を取得しているモデル棟を見学しました。

今回のカンファレンス参加では沢山の事を考えさせられる機会を得ました。省エネに関して日本の建築業界の大きな後れを身に染みて感じました。そして私の心に強烈に突き刺さった幾つかのメッセージがあります。まず一つ目は基調講演のヴァイツゼッカー博士の「病気の進行を完璧に予測できてもその病気の治し方を知らない、役立たずの医者を何時までも頼るのは何故?」という言葉です。私達が本当に頼るべきは、どのように地球の平均気温が2℃上昇し、どのような弊害が生じるかを説明出来る人物ではなく、どのようにそれを回避出来るかを提案出来る人物だという事です。そしてもう一人の基調講演者、ダイアナ・ウルゲフォアザッツ氏による「建築部門は他の部門に比べて恵まれており、屋根の上の太陽光発電で自分達のエネルギー消費量を相殺できるチャンスがある。だからといって中途半端な性能の建築でゼロエネをアピールし、総エネ分を自分で食い潰さないで欲しいのです。建築部門がパッシブデザインを駆使して徹底的な省エネを行い、プラスエネルギー状態となり、他の部門にその再生可能エネルギーを回さなければ、もう温暖化の抑制が間に合わないのです。」という言葉も強烈でした。彼女は中央ヨーロッパ大学の教授を務め、国連のIPCCレポートの執筆にも関わる研究者です。更に一番ショッキングだったのは、ファイスト博士が会場で私を見つけるなり開口一番に放った「日本もいい加減に中国を見習って省エネを真面目にやりなさい、さもないと国際競争からは脱落するよ」という言葉。そして別れ際に残した「僕が今度日本を訪れる時は、絶対に広島を訪ねられるようにスケジュールをアレンジして欲しい」という言葉。同業である物理学者が発明した原子力技術によって、日本で多くの命が失われた過去に対する大きな責任感を感じておられる、ファイスト博士ならではの言葉でした。

皆さんご存知の通り、「省エネ運動はすなわち平和運動である」というのが私の持論ですが、平和と豊かさが持続する暮らしを次世代に残すためには、近隣諸国と良い関係を築く事が、省エネ化と同じくらい重要な意味を持つと感じています。「戦争の歴史は繰り返される」と良く言われますが、実は今の時代ほど多くの民間人が、国際的にビジネスをしたり旅行者として気軽に世界を行き来したり、SNSで海外の人と繋がっている時代はこれまで無かった筈で、このように海外となんらかの接点のある全ての民間人が、親善大使としての心持で平和の架け橋となる事が出来れば、戦争を仕掛けたい一部の権力者達の身勝手な振る舞いを抑制できると私は信じています。

第5回アジア・パッシブハウス・カンファレンスは2020年7月3~4日に東京にて開催が決定。

今から4年前に日本と中国そして韓国の3か国でスタートしたアジア・パッシブハウス・カンファレンスですが、来年の7月3~4日に第5回を東京にて開催する運びとなりました。4年前は先ず各国の窓口を探すところからのスタートでした。お互いの事を良く知るまでに随分と時間を要しました。誤解が生じたり、このカンファレンスの名前を盗まれそうになったりもしましたが、無事に2周目に入った事をとても嬉しく思います。アジア・カンファレンスでは、全ての登壇者が母国語で発表出来るように同時通訳を手配する取り決めを行いました。費用は掛かりますが、それによって出来るだけ多くの方に発表のチャンスを作ろうという意図があります。是非皆さんも、パッシブハウスという合言葉で隣国の人たちと、そして世界中の人たちと繋がりませんか?!