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森みわ
パッシブハウス・ジャパン代表理事
第4回アジアパッシブハウス・カンファレンスin青島
~3年振りの青島で感じた事~
3年前に第1回目のアジアカンファレンスがバタバタと立ち上がり、青島という地に初めて足を踏み入れました。当時はパッシブハウスのベテランであるドイツ人建築家Ludwig Rongen氏によって設計された、パッシブハウス・テクノロジーセンターなるものが竣工したタイミングで、その建物自体が一番の見どころであったと思います。
ただ、正直なところ、その建物の曲線を多用した外観デザインが余りにも施工難易度の高いものであったこと、そして青島エコパークにとって、初めてのパッシブハウス・プロジェクトであったこともあり、認定取得の大きな重圧を受けた現場のストレスは恐らく計り知れないものであったことが、関係者の様子から感じ取れたことも事実でした。青島の冬は、丁度日本の北陸地域のような暖房需要があり、パッシブハウス基準を満たすためには、中層建築物であっても外断熱150mmは必要となる地域です。その後、新たなプロジェクトは生まれたのだろうか?いささか心配になりながら今回再びエコパークを訪れました。
3年振りの青島は、落ち着きを取り戻しているようでした。当然ながら、3年前に目下ロックウール100mmによる外断熱施工中だった周囲の高層建築群は竣工し、樹木に包まれ、人々の生活の気配が感じられる街並みが出来上がっていました。あの頃、中国でパッシブハウスに取り組むエキスパートは皆同じ悩みを抱えていました。これ以上外断熱を厚くしたら、有効床面積が減ってしまう、石やレンガの外壁材を支持出来なくなってしまう、イソコルブのようなバルコニー用の部材も中国では認可が下りない、と。中国では建物の外側のラインで床面積を測るため、断熱厚を増やすと居住空間が減ってしまう、なんとか真空断熱材を千鳥で二重に貼って省スペースな外断熱工法が出来ないか?そんな議論も耳にしました。
それがどうでしょう。ロックウールの外張りの外側に、湿式でレンガ調の仕上げを施しています。“なんちゃってレンガ“と言えばそれまでで、建築家としては受け入れ難い表現かもしれませんが、日本中にはびこるレンガ調、石貼り調のサイディング仕上げに比べたら、よっぽど雰囲気が出ているのです。
良く見ると外断熱の上から左官で仕上げています。
これを良しとすれば、高価な真空断熱材を使わずとも、外断熱の厚みも一気にパッシブハウスレベルまで引き上げられ、“レンガ調“を基調とした街区の落ち着いた雰囲気も保てるとの事で、今回新たに集合住宅群が施工されていました。そこではイソコルブを使わずにバルコニーのヒートブリッジを回避しようと、コンクリート梁2~3カ所のみで住戸毎のバルコニーを持ち出し、出来るだけ外壁の外断熱施工が上下階で貫通するように工夫していました。
レンガ調が更に進化。本当に良く見ないと分かりません。バルコニーはイソコルブを使わずにコンクリート梁で熱橋の長さを減らすことで対応。
そして1棟目のパッシブハウスを経て、様々な既成概念が覆されたのでしょうか? 冷暖房設備の容量を小さくする事に、躊躇しなくなった様子がうかがえます。
住宅向けに0.5回前後の換気風量を有する熱交換換気装置に、冷暖房ユニットが一体化している製品の開発が中国で急速に進んでいますが、その進化版としてヒートポンプ給湯も一体化した、いわゆるパッシブハウス初期のコンパクトユニットの中国版が生まれたのです。コンパクトユニットの一番の魅力は、やはり室外機に相当するものが外壁やバルコニーに出てこない事だと思います。戸建て住宅程度なら、地面に置いて植栽で隠す等も可能ですが、中層、高層住宅になると外観を大きく損ねる可能性が出てきます。住宅が狭くて室内にそんなものを置く場所が無いと日本の実務者は言いますが、総合的に見て室内設置する事によるメリットの方が私は大きいと感じています。外断熱施工もしかり、実際中国ではあっという間に発想の転換が起きているのです。
今回のカンファレンスは、10月に同じく中国国内で開催の第23回国際パッシブハウス・カンファレンスと日程が近いため、残念ながら日本からは私1名だけの参加となってしまいましたが、全体では300人以上の参加がありました。北京や上海などで行政と関わりながらパッシブハウスの情報発信もしているメンバーも集まり、PHIからはファイスト博士とアジア担当のカウフマン氏を含む総勢5名、そこに韓国からの18名の参加者が加わり、まるで年に1度の同窓会のような和気あいあいとした雰囲気になってきました。たった3年の継続で、アジアのパッシブハウス・コミュニティがこのような進化を遂げたことは、発起人の私としても大変感慨深いものです。そして驚いたことに、韓国のパッシブハウス推進団体のメンバーは、韓国の国交省の方を連れてやってきました。勿論その方の発表内容は、行政が推進するNZEB(Net Zero Energy Building)が主でしたが、民間団体がパッシブハウスのようなトップランナーを推進し、行政が地固めをしていく挟み撃ちの構図は韓国で健全に機能しているように感じられました。
また、第5回目の開催を来年の夏に東京で開催する事も3か国で合意し、カンファレンスのメインフォーラムの最後に発表となりました。そこで私は「子供達によるFridays for Futureのアクションすらテレビのニュースにならない日本で、人々の環境問題に対する意識が低すぎます。皆さん是非応援に駆けつけてください」と来年への参加を呼び掛けるスピーチをさせて頂きました。今後も日中韓の参加国で情報共有をし合い、助け合いながら自国の建築の省エネ化を推進していこうと皆で話し合いました。
発足からあっという間に3年が経過し、アジア圏でパッシブハウスに取り組むメンバーのネットワークが出来上がった事を、大変うれしく思った、今回の青島訪問でした。皆さん是非、10月9日~11日開催の国際カンファレンス in Gaobaidianに行く心の準備をお願いします!
三原 正義
パッシブハウス・ジャパン理事(2024年4月 理事に就任)
エコモ株式会社 代表取締役
札幌にて独立後、群馬へ移転し住宅設備会社を経営。鎌倉パッシブハウス以降たくさんのパッシブハウス案件の換気設計・施工を多く行う換気のスペシャリスト。
プロも施主もどこでどう勉強するかが重要な時代に
先日見学会をしたらお施主様がA4用紙に聞くべき項目をまとめてもって来られていました。そこにはQ値、UA値、C値はもちろんのこと、定期点検について、外壁メンテナンスの周期と費用。驚いたのは10年以上住まれている方の自宅を見せてもらえませんか?という項目まで含まれていたことです。
私自身、来られたお施主様に対しいろんな会社を回られるであろうから住宅会社の選び方を書いた資料を渡しています。しかし、今はネットをさがせば「住宅会社の選び方」といったようなサイトがいくらでもすぐに見つかります。賢いお施主様はそれを参照しながら住宅会社の選別をし始めているのが今の時代です。そこまでは非常に素晴らしいことだと思います。お施主様も失敗が減りますし、工務店側も技術力や経営力が弱い工務店さんは淘汰される力が働くことになるからです。
しかし、今回私が直面したのは誤った情報が掲載されたサイトがあるということでした。そこに書かれていることは「C値は温暖地は5以下、寒冷地は2以下が目安」というずっと昔の国のテキストに書かれてあったことがそのまま書かれています。こんな数字がいい家の目安でないことは言うまでもないですが、何も知らないド素人が書いたことが丸出しでした。それだけならいざ知らず、迷惑を被ったのが「耐震等級3でも全く安心はできません。耐震等級3は600ガルを目安にした基準ですが、実際の地震では2000ガルを超える地震も発生しています。」と書かれています。まだ特定できていませんが、大手住宅メーカーのどこかがこのような営業トークを全社的に行っている模様です。
これに関し、私もそのようなことを聞いたことが無かったので構造塾の佐藤氏に確認しました。その結果は「そもそも耐震等級1を400ガルを目安には作られているが等級3が1.5倍だからといって600ガルというものではない。またガルと被害、もしくは耐震性は比例するものではないので気にしなくてもよい。耐震等級3であれば自信をもって良い。」とのことでした。
具体的に数字が書いてある。しかも今回のサイトでは「元住宅営業マン」と書かれていました。一般の方から見れば「元住宅営業マン=住宅のプロ」と映ると思います。そんな「プロ」と思われる人が明確な数字をもって基準を示していたらそれを信用せずに疑うということができるでしょうか?これはなかなか簡単にできることではないと思います。自動車や家電であれば、共通の指標にのっとった性能表示がなされているのでこのようなおかしなサイトに騙されるということはまずありません。しかし、住宅業界においては表示義務が明確化されていないがゆえに、プロも素人も言いたい放題という現実があります。生涯で一番高い買い物が一番いい加減な表示しかされていない。共通の基準の表示義務もない・・。これでは各社の性能競争も起こらなければ、住宅購入者の正しい選択も運次第となってしまいます。省エネ基準が見送られた今、省エネ、構造面での客観的な性能表示くらいは義務付けてほしいと改めて強く感じさせられました。
また、プロも施主もどこでどのように勉強するか、また真贋を見分ける能力が現状の日本においては極めて重要であるということも再認識させられました。