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森みわ
パッシブハウス・ジャパン代表理事
コンクリートの社会インパクトを考える
「もしもコンクリート業界がひとつの国だとしたら、中国とアメリカに次いで世界で3番目にCO2排出量の多い国になるでしょう。」という、今年2月25日付のガーディアンの記事の見出しに目が留まりました。
実際には地球上で排出されるCO2の4~8%がコンクリート由来であり、その約半分がセメントを生成する過程で発生すると言われています。しかしながら、それ以外の所でコンクリートの与える環境インパクトについては余り知られていません。コンクリートが大量の水を必要とするため、工業用水の10分の1を吸い上げていると言われ、更にその現場の75%は、干ばつが多い地域で行われます。例えばコンクリートで都市の道路や地表面の大半が覆われた結果、雨水が浸透できず集中豪雨の際に洪水を悪化させてしまう問題。色の黒いアスファルトに比べればマシであるものの、ヒートアイランド現象への加担の問題。風に乗って飛んでいく粉塵は珪肺や呼吸器系疾患の原因となり、世界中でコンクリートのための砕石や砂を取る乱採掘が横行、河川への環境インパクトは膨大であると共に、そのビジネスにマフィアが絡み、殺傷事件となる国々もあります。
以下にガーディアンの記事を抜粋してご紹介いたします。
世界中で、「コンクリート」は「開発」と同義語となっています。本来、社会の成長は、平均寿命、乳児死亡率および教育水準などの一連の経済的および社会的指標によって測定されます。しかし、政治指導者にとって、最も重要な尺度は、国内総生産(GDP)です。これは、多くの場合、経済規模の計算として扱われます。 GDPは、各国政府が世界で自分たちの重要性をアピールする方法で、要するにコンクリート事業程、国を大きく見せるものはありません。それはある段階ですべての国に当てはまります。開発の初期段階では、ヘビー級の建設プロジェクトはボクサーが筋肉をつけるように有益です。しかし、すでに成熟した経済にとっては、高齢の運動選手がこれまでより強力なステロイドを注射して効果を低下させるのと同じように、有害と言わざるを得ません。 1997 – 98年のアジアの金融危機の間、アメリカのケインズ経済顧問は日本政府に対して、「GDP成長を助長する最良の方法は、地面に穴を掘ってそれをまた埋めることである。できればセメントで。穴が大きいほど良いでしょう」と。
そして政治家、官僚、そして建設会社が癒着していくと、事態は収拾がつかなくなります。政治家は選挙で勝つために建設会社からの寄付金とキックバックが必要であり、行政は経済成長を維持するためにより多くのコンクリート事業が必要だから。そのため、環境的にも社会的にも疑わしいインフラや、オリンピック、ワールドカップ、国際展示会などのいわゆる“セメント祭り”に対し、政治的熱意を示します。その典型的な例は日本であり、20世紀後半には日本の統治構造は“土建国家”と言われるようにまでなりました。
第二次世界大戦、荒廃した都市を再建するための安価な材料がコンクリートだったのが始まりです。そして新幹線の路線整備、高速道路のための橋やトンネル、空港の新しい滑走路、1964年のオリンピックや大阪万博の新しいスタジアム、市役所、学校、スポーツ施設などに次々とコンクリートが注がれました。これによって1980年代後半まで経済を2桁近い成長率で追い続け、雇用率は高いまま、政権与党は強い力を維持します。ゼネコン大手6社による入札談合と独占も、工事請負契約が政治家に多大なキックバックを保証したのでした。しかし、環境破壊をせずに、具体的なものはそれほど多くありません。最も創造的な政治家でさえ政府の景気刺激策を正当化しようと努力していた1990年代に、絶えず減少している収益が明らかにされました。これは、人口の少ない地域への非常に高価な橋渡し、小さな農村コミュニティ間の複数車線道路、残りの少数の自然の河岸へのセメント固定、そして遂には防潮提へ膨大な量のコンクリートを注ぎ込み、日本の海岸線のおよそ40%を守ろうと計画したのです。2011年の東日本大震災は、日本が「カヌート王」になった瞬間、すなわち人間が自然をコントロール出来るという傲慢の愚痴が自然の力によって暴かれた時だったのかもしれません。しかし、ロビーの力は強すぎました。自民党は震災の1年後に政権復帰し、以降10年間で公共事業に200兆円を費やすと約束します。これは日本の経済生産高の約40%に相当していたのです。
日本の国土はカリフォルニア州並のサイズなのに、現在日本では、アメリカ全土で打設されているのと同じ量のコンクリートを毎年打設しているとのこと。要するに、単位面積あたり、アメリカの30倍のコンクリート使用量という訳です。
コンクリートとオリンピック
他の諸国と同様に、南アメリカ最大の国、ブラジルでのコンクリートへの熱狂は社会の経済発展の手段として穏やかに始まり、それから経済的必要性へと変貌し、そしてついに政治的便宜と個人の欲望のための道具と化してしまいました。これらの段階間の進歩は非常に急速でした。 1950年代後半の最初の巨大な国家プロジェクトは、内陸のほぼ無人の原野に新しい首都、ブラジリアを建設することでした。わずか41ヵ月で100万立方メートルのコンクリートが高地の敷地に注がれ、土壌を覆い、省庁や住宅のための新しい建物が建てられました。
その後、アマゾンの熱帯雨林を通る高速道路の建設や、南アメリカ最大の水力発電所、パラグアイとの国境を接するパラナ川のダム建設など、土木事業は続きました。軍の力によって国内の報道機関は監視され、独立した司法制度もなかったため、軍部や請負業者によって予算のどれ程が横領されたのかを知る由はありませんでした。しかし、腐敗の現状は今明らかになりつつあり、身の潔白を立証できる政党や政治家は一人もいない状況です。政治家や官僚、そして仲介業者は、石油精製所建設の巨大な請負契約と引き換えに少なくとも20億ドル相当のキックバックを受けていました。ベロモンテダム、2014年ワールドカップ、2016年オリンピック、その他地域内の数十のインフラ工事がそれに該当します。
このような汚職は単なる国家の税収の窃盗ではなく、環境犯罪の動機となっています。何十億トンものCO2が、疑わしい社会的価値のあるプロジェクトのために大気中に汲み上げられ、その環境インパクトが反対派に押しつけられることが多々あります。
私達の目指すべき方向について
アメリカ人建築家のAnthony Thistleton氏は、私達が“コンクリート時代”から抜け出し、“まず建築を外観から考える”習性を辞めなくてはいけない時だろう、と発言しています。「コンクリートは美しく、用途も広いけれど、残念ながら環境破壊のほぼすべての要件を満たしている。私達は自分たちが扱うすべての建築材料の広い意味での環境インパクトについて考える責任があります。」と彼はArchitects Journalに語ったのです。 その一方で、多くのエンジニア達は現実的なコンクリートの代替品は無いとも主張しています。鋼、アスファルト、石膏ボード等はコンクリートよりもエネルギーが集約されていると言われ、世界の森林は、木材の需要が急増していなくても、驚くべき速度で枯渇しているからです。
一番大切なことは、これまでのように自然を人工物に置き換えていく行為が開発モデルそのものであるという私たちの思い込みからの脱却であり、コンクリート産業の上に築きあげられた巨大な利権構造へタックルする勇気を持つこと、そしてコンクリートの強固さよりも、出生率の方がよほど信頼できる社会成長の指針であることを認識することでしょう。
抜粋以上
さて、皆さんはどのように感じましたか?
三原 正義
パッシブハウス・ジャパン理事(2024年4月 理事に就任)
エコモ株式会社 代表取締役
札幌にて独立後、群馬へ移転し住宅設備会社を経営。鎌倉パッシブハウス以降たくさんのパッシブハウス案件の換気設計・施工を多く行う換気のスペシャリスト。
断熱性能をあげていく場合の優先順位の考え方
たくさんの工務店を見てきた中でこのやりかたに筋が通っているというか。きちんとした法則に基づいてなされている会社はかなり手慣れた工務店以外では非常に少ないのが現実です。しかしながら、そのきちんとした法則というのも実は一つではなくいくつかあると思います。今回はそれを紹介しながら考えてみたいと思います。なお、PHJの会員向けというよりは世間一般の工務店向けの内容なので断熱水準に関してはご容赦ください。
費用対効果が高いことから優先的に採用する。
10年ほど前の建築知識に一般的によくある次世代省エネの住宅からQ値を0.1向上させるのに項目ごとにどのくらいの費用がかかるのかを試算したデータを掲載しました。ただ、当時から建材の断熱性能、価格体系は大きく変わりました。この考え方は時代の変遷と自社の断熱仕様のレベルに伴って刻々と変わっていくということに注意が必要です。
熱的に弱いところから優先的に採用する。
この考え方からするといつも言っている窓から強化するということになります。上記の費用対効果においてもやはり窓は最上位に来ます。
伝導による損失(断熱)と対流による損失(換気)の場合、伝導による損失を優先する。
費用対効果をイニシャルコストだけで考えると一種の熱交換換気システムは非常に安く見えます。ただ、2018年に国が発表した「住宅用機械換気設備の計画と性能評価」に書かれてあるようなサイクルでファンや熱交換素子を交換していく場合、上記の計算よりもかなり高くついてしまいます。それと、たくさんの住宅を経験してきた結果、換気をQ値による体感の差よりもUA値による輻射環境の差のほうが私および松尾設計室の社員の体感は大きく感じています。
将来交換しない、できない、しにくいところから優先的に断熱する。
これは読んで字のごとくです。
私が考える限られた予算の中でどこまで断熱性能を高められるかというのはこの4法則をどのように重みづけするかで決まるものだと考えています。それはお施主様、工務店さんによって重みづけは違うと思います。ただ、最初に申し上げたとおり、世の中のほとんどの工務店さんは上記の重みづけによる選択ではなく、相変わらず、カタログの見栄え、営業マンのトーク、掛け率、近隣工務店の水準で判断していることが大半です。
工務店業界に限りませんが、やはり自分で考え、検証する力が大人には必要だと思います。ましてやエンジニアとしての建築士としては必須です。