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教えて森さん!vol.01 | パッシブハウスのほんとのところ

2015.11.13

クルマや家電とおなじように、家にも燃費があるんです。パッシブハウスって結局なんなの?スマートハウスとは何が違うの?高気密・高断熱の家は結露やカビがすごいって聞いたけど?で、高いんじゃないの?ほんとのところはどうなの、森さん!というわけで今回は、アメリカ育ちでどうして日本の家はこんなに寒いんだろうと不思議だったという只今絶賛家づくりリサーチ中(Pinterestでw)のマイさん+ヒロさん夫妻、いつかは家を建てたい森田夫妻、建てられる家があるなら終の住処が作りたい小林さん、そしてわたしたちパッシブハウスにリノベーションしたい暮らしかた冒険家が、鎌倉にある森さんの事務所を訪ねました。

床暖房をアピールしている家は、性能の低い家!?

――わ、床、暖かい。きもちい〜。(マイさん)

30分前に1階にあるペレットストーブ 1をつけました。普通、床暖房って電気かガスなんですけど、うちはイタリアのペレットストーブの内部に温水回路がついていて、ストーブの熱で温水床暖房になるんです。足の裏に伝わる床の温度の影響って大きいんですよ。

写真右奥がイタリア製のペレットストーブ。事務所1階は建築にまつわる貴重な本がたくさんある本屋さん。ここに住みたいくらい世界中のエコ建築の本などが揃う。

この事務所は、築90年くらいの長屋をリノベーションしたんです。土壁はそのまま活かしたので、性能的には東京に建つハウスメーカーのトップモデル住宅くらいの性能(年間暖房負荷 2 約75kWh/㎡)にしかなってないんです。だから床暖房が必要なの。でもね、パッシブハウス(年間暖房負荷 15kWh/㎡以下)にすると、床暖房さえいらないんですよ。

ペレットストーブの温水と屋根に設置した太陽熱温水器の温水はここに集まる。回路設計も森さんが手がけたそう

――えっ!床暖房が無くても暖かい??

そう。どういうことかというと、日本の平均的な住宅は、室温を23℃にしても、床の表面温度が16℃しか無かったりして、窓ガラスの表面なんて10℃とか。でも頭のあたりは26℃とかになっちゃって頭がぼーっとするみたいなね。

――窓が10℃… 室温しか考えたことなかったな。エアコンの温度を上げても寒く感じるのはそういうことなんですね。

ええ、日本の家はとにかく温度ムラが激しく、寒く感じてしまう。体感してもらわないと、伝わりにくいんですけど、温度ムラがなくなって家全体の温度が均一になると、室温が18℃しかなくても寒く感じなかったりするんですよ。

表面温度計で、室内の温度を解説する森みわさん

――なるほどぉ… 壁や床の温度って重要なんですね。

パッシブハウスだと、建物自体の性能が高いので、床もガラスも頭のあたりも、床暖房なしに、室温とほぼ同じ温度になるんです。そうすると、エアコンだけでも快適な性能になるんです。

実は、床暖房をアピールしている家は、建物自体の性能の低さを白状してしまっているようなものなんです。

日本の住宅は未だに鎌倉時代の価値観で作られている!?

――パッシブハウスだと、息つまりませんか?友だちの高気密のマンションで、息がつまりそうになったことがあって…。結露もすごくて、猫4匹飼っている家だったので、猫アレルギー発症して大変な目にあったことがあって…。(アサエさん)

建物を気密にしたら今までよりも結露が酷くなってカビも発生する、という事はあり得ます。原因は断熱性能が伴っていないのと、換気が正常に機能していないから。

ちなみに、建築基準法で換気設備が義務づけられている 3けれど、あれは家の気密が確保されてはじめて機能するものなので、実際は成り立っていない場合が多いです。すきま風が寒いからって、居室にある自然吸気口を閉じている家もよく見かけますね。

後は気密性能が高いと外の音が聞こえなくなって、それを住まい手は”よく眠れるようになった”と

評価してくれるけれど、気密住宅に対する偏見を持ってパッシブハウスを尋ねた人は、外の音から遮断された状態を”息が詰まりそう”と表現することがあるみたい。

事務所に無造作においてある窓サッシの模型

[パッシブハウス=高気密・高断熱]という言葉が一人歩きしちゃったことは大失敗だな、と思っているんです。パッシブハウスを勉強して気がついたのは、高気密・高断熱という日本語は、家を魔法瓶化しようというメッセージにすぎなくて、でもパッシブハウスで一番大事なのは、[太陽と風に素直に設計しよう]ということ。

「徒然草」を書いた吉田兼好の「家の作りようは、夏をむねとすべし 4」という言葉があるのですが、蓄熱性能と調湿性能 5に配慮した土間や土壁なんかがまさにそれです。夏はいかに太陽の熱が入らないようにするかという工夫も大切で、庇やすだれをつけたりね。すべてパッシブハウスを建てる上での重要な要素です。ただ、鎌倉時代は冬は火鉢とかね、暖をとる方法はあったけど、夏の蒸し暑さは苦労したんでしょうね。

――ある意味、冬は捨てた家づくりとなっていた!

まさに。気密どころか、あえて風通しの良い家にしていた。だから、パッシブハウスは、吉田兼好の夏をむねとした家づくりに敬意を表しつつ、やっぱり冬も快適に暮らそうと、断熱性能と気密性能の大切さもアピールしているんです。せっかく温めたり冷やしたりした熱を省エネのためにキープしましょう、ってことなんですよ。それは省エネになりますし。

で、もちろん、人が暮らす以上、室内の空気がきれいなことも必要不可欠なので、換気も当然します。新鮮な空気を取り入れつつ、熱が逃げないように熱交換技術 6も使ってね。「吉田兼好の家」に断熱・気密性能プラスして、夏も冬も快適にする。これが日本の気候に合わせたパッシブハウスです。

土壁はそのままに、ペアガラスと床暖房が導入されている事務所

失敗例を作っちゃうと、高気密・高断熱はダメなんだ、日本の気候風土に合わないんだって直ぐに言われちゃうから、パッシブハウス・ジャパンは、工務店や設計者とそのノウハウを共有しているんです。それでも、一生懸命勉強している工務店や設計者から「まだまだ施主のレベルが低いからニーズが無い」とか言われちゃうから、直接、施主に訴えようと思ったの。で、今日、この座談会をしているんだけど(笑)

普通住宅の建築費+5%でパッシブ化できるドイツ

――もうお願いします!ってくらい、パッシブハウス建てたくなってきてますけど、お幾らくらいですか…?(マイさん)

パッシブハウスにした場合のコストアップは、内装も同じとすると、15%アップを覚悟してください、とお伝えしてます。私が設計する場合は、石油製品をなるべく使わずに、無垢のフローリングや塗り壁などをおすすめしているので、坪単価80-100万円くらいです。80万円でももちろんできるけど、お施主さんが大変ですね。考えたり決めたりすることが増えますから。優先順位考えて、できること、やらないこと決めて、って。

設計事務所とやる以上、お施主さんもたくさんのことを決めなければならず、ハードワークになります。可能性が無限大な分ね。ハウスメーカーみたいに選択肢がしぼられている訳じゃないから。

建物自体の性能をちゃんとしたいと言う方が多いので、家は不必要に大きくしないようにしているます。エコな家をつくろうと思っても、どうしてもエゴな要望がたくさんありますよね。そこをどういう風におとしまえつけるかというのが、いい家づくりのポイント。

たとえば鎌倉パッシブハウス(約24坪)は2100万円で工事契約したんですよ。あそこは土地の条件もよくなかったこともあって、建物の性能アップに予算を使ったから、キッチンはIKEAに現場監督と私が買いに走ったりね。お風呂はフルユニット、壁は珪藻土の塗り壁、メーカーさんになんとか安くしてもらって。床はウレタン塗装の複合フローリングです。

鎌倉パッシブハウスの屋上にて

住宅メーカーに言うと、あれこれ追加しても値段据え置きとかしてくれたりするらしいんだけど、それって見えないところの性能が削られているんですよ。窓とか、断熱材とか。つまり燃費に響く。

――なるほどねー。光熱費は毎月かかるわけだから、坪単価に入らないコストってあるんですね(池田)

そうなんです。パッシブハウスは、年間暖房負荷を15kWh/㎡にする、という決まりしかないですから、安くしたければ、単純に、床は無垢のフローリングをやめて、壁もビニールクロスでよければ、もっと価格は下げられます。パッシブハウス・ジャパンには60社くらいの工務店や設計事務所会員さんがいますので、みなさん、いろいろなポリシーでやってますよ。

森さんの事務所には、これまでに手がけた家の模型がずらり。大小様々で、土地の条件に合わせて、窓のサイズやレイアウトが違う

ドイツも15年前に+10数%でパッシブハウス化出来る時代から始まって、今は+5%くらいですよ。市場に出回る窓や換気装置、断熱システムのレベルが上がって、コストアップが少なくなったわけ。自治体によっては公共事業でパッシブハウスを義務付けていて、しかもコストアップ5%以下にしろという所もあるくらい。だから、今後は日本でも、もう少し安くなっていくと思います。

肌の調子が良くなる家

――家の性能が良くなることで、健康面に良い影響はありますか?うちの息子、ぜんそくで。(アサエさん)

最初にもちょっと説明したけれど、家の床、壁、天井の温度ムラがなくなって、23℃だった室温が18℃でも快適な状態になると、相対湿度が上がってくる。温度を上げるほど、湿度は下がるじゃない。だから温度が5℃も違うと、乾燥具合がだいぶ違うんですよ。部屋が乾燥しないということは、肌の調子が良くなる。施主の旦那さんにね、「妻の肌の調子が良くなって、化粧品代が毎月数万円浮いてるよ。森さんはどうしてエネルギー代の話だけしてたの?」って言われたりします(笑)

――家のつくりで、化粧品代が浮く!(笑)

エコハウスの費用は、光熱費しかカウントされてこなかったんだけど、化粧品代や医療費、加湿器にホッカイロ、ババシャツ代とか、言い出したらきりがないくらい、メリットもあるんじゃないですかね。

健康になれるよ、っていうのは、最近、医療業界でも注目されてきて、エビデンス(根拠)も出て来てる。高性能な家に暮らすと疾患の症状が改善されたりで、一人当たり年間9,000円浮くという計算が出て来て、思ったより安かったんですけど…(苦笑)でも、温度差が激しい家で、お風呂やトイレでヒートショック 7を受けて、急激な温度変化で、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こしたら、お金じゃ替えられないことじゃないですか。結露しないので、カビによるぜんそくとかも、良くなる。実際、入退院をくり返していたお子さんの発作が起きなったお施主さんがいたり、「子宝には恵まれないんです」と、こじんまりした家を建てられたご夫婦に子どもが生まれたことも。一体幾ら浮いたんだろうって、考える方がもう感覚がおかしいかも。

その家、ちゃんと快適な省エネ住宅ですか?

――省エネ住宅を建てるときの注意点、ありますか?

省エネ住宅といっても大きく2種類あって、[建物自体の性能が高い家]と[設備に頼った家]があります。パッシブハウスは前者で、そもそもエネルギーをあまり使わない家です。後者の場合は、太陽光発電でたくさん発電して、そのエネルギーで冷暖房して、というタイプです。必然的に、設備にかける費用が増えて、建物自体の性能は下がります。

森さんの事務所の木製サッシ。ピシっときまっていてかっこいい

費用的には、建物自体の性能を上げるためにかかる費用は、かなりざっくりですが、断熱材+50万と高性能窓+100万と熱交換器+50万、合計+200万円。設備に頼った家の場合は、太陽光4kW発電200万円。要するに、初期投資は同じで、同じ省エネ性能が見込まれる可能性がある。(パッシブデザインで太陽光発電4kWと同等の省エネ効果は出せるという意味)でも、だったら、家自体の性能が高い方が快適なんですよ。温度ムラもないし、乾燥も抑えられるし、冷暖房を常時つける必要もないですから。

いま、省エネハウスやスマートハウスがやたらに宣伝されていますが、実はそのほとんどすべてがアクティブな技術なんです。つまり、太陽と風のことは考えず、とにかく設備重視なんです。夏暑く冬寒い部屋があったとしても、エアコンや床暖ガンガン使って快適にすればいいじゃんという考え方。でも、太陽光で発電して、お財布には優しいからいいよね、という仕組み。エネルギー効率的には非常にムダが多い家なんです。

和気あいあいと座談会は続く。なぜか妻たちの方が前のめり。

――どうしてそんなことになるんですか?パッシブハウスのほうが快適そうなのに。

建物自体の性能を上げようとすると、土地の条件ときちんと向き合って、太陽と風に素直にオーダーメイドで設計する必要があるので、大量に同じ部材を使って利益を上げている大手ハウスメーカーにはできないんですよ。合理的で無いのでこれまで通りの利益が守れない。建築士の資格を持たない営業マンがプランを描いているようなメーカーで、一棟一棟個別に燃費を提示する事自体無理。だから、本当に快適な家をつくろうという機運は、地元の工務店には絶好のチャンスですね。

一緒に勉強している工務店や設計事務所会員の方には、坪単価のせめぎ合いの土俵に乗り続けるのではなくて、ワンランク上の品質をつくって、いいお客さんと付き合っていこうよ、ということを呼びかけています。

お金の行き先まで考えた家づくり

――これから家を建てる人へのメッセージ、お願いします。

家を建てるということは、如何にローコストに高性能な家を建てるかという話になりがちだけど、どこにお金を落とすんですかという話でもあるんです。あなたの2-3千万円の。ハウスメーカーに頼んだら輸入モノとかが多くなる。たとえば秩父市に家に建てたとしても、その地域の職人さんじゃないことが多い。自分が永住しようと思っている運命共同体の自治体にお金が落ちない。営業マン数人分は落ちるだろうけど。地場工務店に頼めば、埼玉県産の材木市場、近くのプレカット工場、職人さん、設備屋さんに発注してマージンが落ちたり、地域を潤すものに、あなたの家づくりが貢献できるんです。

うちの事務所のリノベーションもそうでしたけど、ペレットストーブにして、暖房エネルギーがローカルなもので賄われるなら、家の性能が少し劣ってもいいな、とかバランスも考えたりね。

曇りガラスから漏れるペレットストーブの炎が素敵

あとは、土地を探すには、昔から言われている話で、南向き、日当り良好、フラットで….、要するに、一番人気あるヤツですね(笑)でもそれが一番コスパが良かったりもする。傾斜地だと基礎工事代があがるので…。

――なかなか理想の土地と出会うことも難しい気もしますが…。

狭小でも、南側に高層マンション建ってても、諸条件をインプットして、燃費計算しながら設計するので、できますけどね。土地買う前に相談来てくれる人も多いですよ。「この土地買ったら、建ててくれますか」とか、「この中だと、どれが一番いいですか?」とか。ぜひ相談してほしいです。

あと大事なことは、防火地域とか準防火とか、普通の人はよくわからないと思うけど、建物のコストに影響することなんです。防火の規制が厳しいと性能のいい窓が使えないんですよ。東京なんて防火地域が多いから注意が必要です。網入りガラスになっちゃったりね…。その辺が後になって効いてくるので、重要ですね。あと、地盤の善し悪しもね。

――パッシブハウスを欲しいと思ってる人に「はい」って渡されるものではなくて、自分のなかの深いものと向き合わないとなんだな、とわかりました。買うものから、作り出すものという発送の転換がおもしろいと思いました。今日は、ありがとうございました。(小林さん)

もう、時期がせまってますけど、11月13-15日に「国際パッシブハウス・オープンデー2015」があります。日本国内でも12軒のパッシブハウスとパッシブハウス・ジャパン推奨住宅が見学できますので、ぜひ、体感してみてください。

  1. ペレットストーブ
    伐採された木や製材所の木屑などを原料に作られる木質ペレットを燃料とするストーブの事。木質ペレットは化石燃料とは異なり、地産地消のエネルギーです。
  2. 年間暖房負荷
    建物を快適な温度に保つために建物に与えてあげなければいけないエネルギー量の事。建設地の外気温や日射量、建物の断熱、気密、蓄熱性能や、窓からの日射取得量などが関係して決まる数値。年間暖房負荷が少ない家=設備依存率が少ない家
  3. 24時間換気システム
    シックハウス対策として、強制的に室内の空気を入れ替える(計画換気)の義務化が、建築基準法で近年定められました。
  4. 家の作りようは、夏をむねとすべし
    吉田兼好が「徒然草(第55段)」にて記した言葉。「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑きころ、わろき住居は、堪へ難き事なり」冬よりも夏を考えて家をつくるべき、というこの教えは今なお根強く残っている。(兼好の時代は温暖期だったという説もある)
  5. 蓄熱・調湿
    昔の民家の土壁や土間は熱を多く蓄えることができ、室外の温度変化を和らげることができました。また、土壁はビニールクロスと違い湿度を調整する役割もありました。いずれもパッシブハウスの性能評価に関係しますが、断熱・気密がなかった時代だからこその知恵とも言えます。
  6. 熱交換換気システム
    通常の換気では、冬場の冷たい外気を採り入れ、部屋の暖かい空気をそのまま吐き出してしまい(夏はその逆)、熱のロスが生じます。熱交換換気システムでは、外気と室内からの排気を機械の中で混ぜ合わせる(交換する)ことで、そのロスを徹底的に少なくします。湿度も交換するタイプもあります。
  7. ヒートショックでの死亡者数
    ヒートショックで亡くなる人は、交通事故の実に3~4倍。断熱性能の基準がしっかりと義務化されている海外ではありえない数字です。