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【ニュースレター 2025 年末号コラム】炎上しない社会を目指して

2025.12.29

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森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表理事

炎上しない社会を目指して

さて、2025年は大阪万博で何かと気が散ったまま、あと数日で終わりそうな勢いです。勿論今年に始まった話ではなく、数年前から建設業界は万博の特需で多かれ少なかれ翻弄されて、本来よい家が建てられた筈の人も建てられなくなるような現象はあったと思います。

実際万博を訪れてみたらそれはそれで楽しかったし良いじゃないか、みたいな世論形成を試みる勢力も多い訳ですが、娯楽として楽しければ何をやっても良い平和ボケな時代はとっくに終わっているので、何事も勇気を振り絞っての振り返りは大事だと感じます。

能登半島を置き去りにしてまで強行するべきだったのか、
活用方法が明確で無いままのあの木造リングの設計プロセスに問題は無かったのか、
下請け会社への建設費の未払いの問題は解決したのか、
日本館の地下では本当にバイオガスプラントが稼働していたのか、
など、私たちの疑問は宙ぶらりんのまま。

とはいえ、大阪万博以外にも理不尽なこと、未解決な社会課題だらけのこの国で、

SNSで問題提起したり、まじめに持論を展開したりすると、あっという間に炎上してしまうことを憂う方も多いでしょう。炎上の何がたちが悪いのかというと、その後の人々の発言する意欲や持論を展開する勇気を奪ってしまうからです。個人が自由に意見の言えない社会において、必要な議論はなされず、社会が良い方向に変化していくことは到底期待できず、閉塞感だけが漂う。

それが日本社会の民主主義をも揺るがす深刻な問題であると知りつつも、一個人としてどこから手を付けたらよいやらという状況の中、今年の初旬に様々なご縁が繫がり、デンマーク流の対話方式、ダイアローグ(Dialogue)に出会いました。

世界でもダントツ1位の福祉国家であるデンマークは正式に階層式社会からネットワーク社会に移行したと政府が宣言をしたそうで、全ての人の意見を吸い上げるプロセスに多くの時間を割いていると知りました。実際に「風と地と木 合同会社」の宮田尚幸さんが主催された、とあるワークショップにて教えて頂いた、ダイアローグの暗黙のルールについてここでご紹介しましょう。

1. 批判、評価せず尊重する(アドバイスもなし!)
2. 話し終わるまで聴く
3. 解釈せずに聞く、尋ねる
4. 話したい場合は人差し指を立てる
5. 皆が話せるようにする
6. 出ている話と関係させる
7. 話したくない場合はパスする
8. 普段の役職や、役割を忘れる
9. 主語を「私」にする

一見当たり前のようなルールなのですが、実際にこれでエクササイズをしてみると、意外と私たちは普段これらのルールを無意識に、もしくは意識的に無視していることに気づかされます。論点をどんどん逸らしていく人、マウントを取りに行く人、主語が「私」ではなく「トランプ政権」だったりする人まで(笑)。

参加する人が、決して嫌な気持ちになったり、対話の場を避けるようになってしまわないように、ルールを守った上で対話を重ねていくことの重要性を、デンマークを始めとする北欧の人々は子供のころからしっかりと叩きこまれてているようです。勿論ダイアローグだけでなく、ディスカッションやディベートの訓練も受けて大人として仕上がっていくわけですから、そのような社会においては、最終的には国政が正しく機能することが容易に想像できる訳ですね。

ダイアローグに少し通じるものとして、アメリカ発ではNVC (Non-violent Communication/ 非暴力コミュニケーション)という手法もあり、これを活用して紛争地域(具体的な例としてイスラエルとパレスチナ)の当事者間の歩み寄りや問題解決を試みている団体もあるそうです。相手の言葉尻を捕らえては論点逸らしを繰り返し、エスカレートしていく破滅的な対話に終止符を打つためのメソッドです。

一方、日本の多くの政治家にとって議論とは、あいかわらず「時間稼ぎ」や「やってる感を出す」ことが主目的であり、その内容は非建設的であるほど望ましいとされているかのように見受けられますが。

さて、去る12月23日、現役の総理大臣の口からは、「継戦能力を高めなければいけない」などという、まことに非常識な言葉が出てきたそうですが、同じ女性として大変心が痛みました。本来外交の目的は誰も置き去りにしない社会の構築、すなわち追い詰められた人々や国家が企てる殺戮行為の回避です。それが理解できないリーダーに、国家の運命を委ねたくありませんね。これは世界中のお母さん達に共感して貰える自信がありますが、私たちは戦争に行かせるために子供を生んでいる訳では無いのですから。

2026年が日本人にとってのダイアローグ元年となりますことを願って止みません。