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ニュースレター 2021年8月号コラム

2021.08.10

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森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表理事

『1種換気の世界へようこそ』

この度はエクスナレッジのビルダーズで1種換気の特集を組まれたいとの事で、PHJの換気設計&施工スペシャリスト、エコモ株式会社の三原さんが目下取材に応じてくれています。三原さんは北海道出身であり、換気メーカーからの依頼を受けて不具合が出た現場を訪れる事も多い方です。誌面の出来上がりが楽しみですね。

さて、2009年に私がヨーロッパから日本に拠点を移し、鎌倉パッシブハウスが完成した頃だったでしょうか、北海道で高断熱高気密に取り組む幾つかの工務店さんや団体にお声がけ頂き、現地で講演や意見交換をさせて頂く機会がありました。その際、「以前は1種換気に取り組んでいたが、上手くいかないので辞めてしまった。実際に設計風量が出ていない物件が殆ど。実効の熱交換効率なんて大したことない・・」というネガティブな声も比較的多かった印象がありました。ヨーロッパ仕込みの私にとって、1種換気に否定的な意見を日本で一番寒冷な北海道で多く耳にした事は衝撃的でもあり、1種換気の難しさと普及のための課題は何処にあるのだろうか?と当時から興味を持ちました。

確かに国産の熱交換換気装置はピンキリと言っても過言では無く、本体の構造上、給気経路と排気経路の気密性が甘かったり、全熱交換素子のガス密が担保されていなかったりという事で、排気経路から給気経路におよそ10%も漏気しているケースがあると言われています。これではそもそもの換気機能に関して不安が生じてしまいます(3種換気ほど他力本願な換気設備もありませんが(笑))。また、本体単体の熱交換効率は、実際にダクトを繋いで施工していく際、そのダクトの長さとダクトの断熱厚に応じて、実効の熱交換効率が下がっていきます。ですので本体単体の熱交換効率が(顕熱の場合で)80%を切るような製品は使う意味が余り無いとヨーロッパでは一般的に言われていました。建もの燃費ナビやPHPPを扱われる実務者なら既に換気ダクト設計の重要性、特に長さと直径、断熱性能の影響の大きさには、気付いている事でしょう。一方、一般の方の一番の懸念は、ダクト内の衛生状況のようですが、「ダクト内がカビだらけになった!」という報告があったとしたら、それは外皮性能の伴わない家の中で、局所的に室温が下がる状況(例えば入浴後の浴室など)が生じ、湿度が上がる排気経路があり、尚且つ換気装置が止まっている期間(留守の時間帯など)がある場合と想像できます。「ダクト内が埃だらけになった!」という報告があったとしたら、それはフィルター交換が定期的に行われていないと予想できます。そして「風量がちゃんと出ていない!」という報告に関しては、引き渡し前に風量を実測して必要なら各吹出口の開口率を調整し、設計風量と合わせることを怠ったと想像できます。パッシブハウスでは外皮の性能が高い状態で、もはや空調を断続運転することによる省エネ効果が低い状況を前提として、1種換気の導入及び連続運転を奨励し、引き渡し前に全てのグリルの風量を実測し、設計風量と±10%以下の誤差になるよう、調整を義務付けています。精度の高い換気設計及び施工が一番重要であることは間違いありませんが、定期的なフィルター交換も含め、運用の仕方についてユーザーにきちんと理解して貰う事で、大方のトラブルは回避出来るという実感があります。いずれにせよ、一般的な3種換気とは費用も手間も別次元ですので、これからの住宅における真の省エネ化及び真の計画換気の必要性にご理解頂けない方には縁のないシステムとも言えます。それでも開口部や外皮の断熱性能が徐々に上がり、そろそろ1種換気に取り組みたい実務者の皆さんのために、今回パッシブハウス研究所が配布している換気風量調整レポートのひな型をエクセルデータにて一般公開いたしますので、現時点で建物性能がパッシブハウスに届くか否かは別として、この風量調整をこれからの皆さんの習慣として頂きたい次第です。