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森みわ
パッシブハウス・ジャパン代表理事
~ エゴ・ファーストからエコ・フィニッシュへ ~
拍子抜けの都知事選が終わり、都内のコロナ感染者がじわじわと増えて参りました。神奈川県民も同じ穴の狢かもしれませんが、相変わらず東京に出ていくモチベーションは低いまま。一方「出来れば直接会って話したい」という要望は確実に増えています。来週は誘われるがまま四国に向かう事になりましたが、そうなると必然的に「一緒に食事でも」という事になりますし、本当に歓迎して頂けるのか、少し心配だったりします。そんな疑心暗鬼なwithコロナ社会の中でも、異常気象は容赦なく、九州に豪雨をもたらし被害が広がっています。被災地でのクラスター発生など、なんとしてでも阻止したいところですが・・。そして目に見えないウィルス怖さに、とにかく窓を全開にして過ごしたい国民感情に便乗し、「機械換気がある建物でも窓を開けましょう」と通風の専門家?がテレビでコメント。withコロナならばエネルギー効率もへったくれもない勢いです(居室の換気量が確保されているかを知りたい方は、ひとまずCO2センサーを購入してみましょう)。いずれにせよ在宅でも仕事が出来ると気づいた人達を中心に、これからの家の在り方を考えるきっかけを得た人も少なく無いでしょう。松尾さんのYoutuberデビューの効果もあってか、PHJや賛助会員企業への問い合わせは確実に増えている様子です。
この調子で「パッシブハウス」ブランドが客寄せパンダになる、そんな夢のような近い将来を勝手に見据え、PHJのトリセツも再確認しなければと思う次第です。非営利型一般社団法人であるPHJは、基本的に賛助してくださる工務店や設計事務所、そして建材メーカーによって資金的に支えられ、お陰様でパッシブハウスにまつわる最先端の情報を日本の実務者の皆さんにお届けする事が出来ています。設立10年でようやっとパッシブハウス認定を国内で下せるところまでに至りました。少しずつ良い建材が増えて参りました。省エネ建築診断士セミナー受講者は累計4000人を超え、今週開催のオンラインPHPP集中講座は告知1週間で定員オーバーとなりました。これも賛助会員企業によるこれまでのサポートがあっての成果です。ですのでPHJが賛助のお申し出を、お断りする事は基本的にございません(社内に省エネ建築診断士が最低1名居る事が条件ではありますが)。ただ「パッシブハウス」というキーワードでPHJにたどり着いたエンドユーザーさんからすると、PHJ賛助会員企業に相談すれば、きっと我が家がパッシブハウスになる、と簡単に考えてしまうのは当然のことです。
何故大半の家はパッシブハウス性能に届かないのか?
世界中同じような議論が巻き起こっていますが、「SDGsやエコの事だけを考えて家作りは出来ない」、という根強い主張について少し考えてみたいと思います。勿論、家には耐久性が必要で、それは具体的に言うと、耐震性であったり、耐火性であったり、耐水性であったり、害虫や細菌に対する耐性であったりする訳です。では何故耐久性が必要なのか?それは住まい手と家族の命を守りたいから、そして資産価値が残る家にしたいからです。私はこれを、自分と家族のために建てるエゴハウス、一方、一生涯出会う事が無いであろう地球の裏側で暮らす他人や、何世代か先の子孫の未来のために建てるのはエコハウスと定義してきました。ですから家作りにおいて押さえておくべき点をそれぞれ「エゴポイント」と「エコポイント」とするのなら、その両者を意図的に並列に取り扱うことに私は大きな警戒心を持っています。とはいえ家作りにおいて、限りある予算の中でエコVSエゴという構図になるのが常であるとすれば、個人的には、エゴ・ファーストで宜しいのではないかと感じています。勿論それは「足るを知る」事を一人一人が目指すのであれば、ですが。例えば快適性が担保されない暮らしのまま、省エネの根本を理解するのは難しいからです。ですから家づくりはエゴ・ファーストで始まり、エコ・フィニッシュが理想です。勿論、人生そのものもそうありたいですね。
兎にも角にもPHJを正しく利用して頂きたく、この度PHJのウェブサイトで賛助会員工務店または設計事務所をお探しのエンドユーザーさんに対して、PHJより紹介状を発行する事にいたしました。「こちらの志高きお施主さんの為に、エゴとエコのせめぎ合いの中でも最大限のパッシブ性能の家を提案してください。仮にパッシブハウスの性能に至らなくても、お引渡しする建物の性能に対して、建もの燃費証書を発行してください」という、PHJから賛助会員企業へのお願いを明記した紹介状になります。客寄せパンダとしての重大な責任を果たしていきたいとの思いから、運用を決断した次第です。
最後に、エゴといえば、誰しもが制御しづらい「独り勝ち」の欲求も要注意です。(業界で)勝ち抜く○○、(他社に)負けない○○、(施主が)絶対に損をしない○○といった形容詞が蔓延する住宅業界の中で、施主側も作り手側も少し立ち止まって考えて頂きたいのです。少なくともパッシブハウスの理念に賛同してくださる皆さんには是非とも、「誰も置き去りにしないエコハウス」を追い求めて頂きたいのです。誰も負けないということ、それは誰も独り勝ちすべきでは無いということ。そんなマラソン大会をイメージしてみてください。以外に難しい取り組みですよね。でもそれこそがSDGsであるし、この社会が直面している危機的な状況から脱却するには、他に選択肢は無さそうです。そんな事を考えながら、私も日々降りかかってくる難題と向き合う今日この頃です。家作りの方程式は、私達が想像する以上に複雑で、「○○さえやっておけば絶対に安全」なんていうテクニックは残念ながら存在しません。基本を押さえた上での、実務者の応用力が試されていると日々感じています。