リノベーション賞 大町タウンハウス

庶民でも、賃貸でも、諦めない。 リノベから生まれるパッシブハウスへのウルトラC

2016年3月に開催された第一回目のエコハウス・アワードにてリノベーション賞に選ばれた「大町タウンハウス」。パッシブハウス・ジャパンの代表理事 森みわの自宅である賃貸物件を、森自らがリノベーションしたのがこのプロジェクトです。HOME’S総研所長/一般社団法人リノベーション住宅推進協議会設立発起人の島原万丈さんと、森との対談が、授賞式の当日に行われました。

賃貸をリノベーションして、高性能な家にする。この対談を通じて、日本のこれからの住まいにマッチした、パッシブハウスの広がり方が見えてくるのではないでしょうか?

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制約ゆえに生まれる、アクロバティックさ

島原 『リノベーション住宅推進協議会』で、毎年『リノベーション・オブ・ザ・イヤー』というコンテストを開催しています。そういったこともあり、今回のアワードでも、リノベーション部門を担当させていただくことになりました。

 私からは技術的な面の解説というよりも、リノベーションの面白さを考えていきたいと思います。

HOME'S総研所長 / 一般社団法人リノベーション住宅推進協議会設立発起人の島原万丈さん

HOME’S総研所長 / 一般社団法人リノベーション住宅推進協議会設立発起人の島原万丈さん

島原 リノベーションならではの楽しみ方は、既存の建物の制約条件をどうクリアしていくかということですよね。その方法は、とてもアクロバティックで、これこそがリノベーションの面白さだと思っています。

 大町タウンハウスの優れているところはいろいろありますが、特に賃貸であることに注目です。1500万円の費用を負担する代わりに家賃を下げてもらい、10年間の定期借家ののち、現状復帰せずに返します、と。こんなにもアクロバティックな方法は、聞いたことがない。住宅の手に入れ方すら “リノベーション” されているわけです。

 ということで、さっそく森さんに伺いたいのが、賃貸でやろうと思った理由です。

お金持ちじゃない自分がパッシブハウスに住むためには?

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 ありがとうございます。私は鎌倉パッシブハウスを皮切りに、日本で高性能な家を立て始めたのですが、すぐに坪単価の壁にぶち当たりました。

 だいたい70~80万くらいになってしまうんですね。パッシブハウス・ジャパン理事の松尾さんにも『森さんの建てる家は庶民には買えない』とよく言われてしまうのですが(笑)、それなら、庶民である私が、どうしたら高性能な家に住むことができるだろうと考えました。

 ローンはいくら組めるか分からない。別の賃貸に引っ越しても性能は似たり寄ったり。でも、激寒の賃貸で家族間でインフルエンザがグルグルまわるような状態にももう耐えられない。ドイツ育ちの夫には「こんな暮らしは人権侵害だ」とか言われるし。だから、高性能な家に住む新築以外の方法を求めたのが、今回のプロジェクトなんです。私は、とにかく良いものしか作りたくない(笑)。新築を諦めたとしても、リノベーションならこんな選択肢がある、ということを自ら発信しようと思いました。

パッシブハウス・ジャパンの代表理事でもある森

パッシブハウス・ジャパンの代表理事でもある森

 まずは、大家さんの説得からスタートです。私がやろうとしていることで、どんなふうに物件が変わるのかをきちんと説明しました。私はこの家にこのぐらいのお金を投資するけど、それは絶対に価値になるものであること。キッチンカウンターが大理石になる、というような、次に住む人にとって価値になるかわからないものではないこと。説得の末、大家さんが理解してくれて、実際にプロジェクトを進めていくことになりました。

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島原 なるほど。実際のリノベーションに関しても、変形した建物ですし、コンクリート仕様ですし、ご苦労が多かったのでは?

 そうですね。でも、そのとき既に2年間も住んでいましたから、この家の問題点に関してはいろいろわかっていました。この家に越してきて冬が来たとたん、生まれて初めて喘息症状が出た息子ですが、どこの部屋で症状が一番酷くなるかとかいう事が明らかになるにつれ、自分の建築物理学の知識を持って色々な事を予測出来る様になったり。それ以外にも本当にいろいろな事がありましたから、それこそ命がけで実験していたわけです。それでも実際に工事に踏み切って内装を撤去した時には、やっぱりね、という状況が8割で、マジか?!みたいな想定外の状況が2割くらいあった気がします。

 実はうちの窓は、奈良県十津川村の杉を集成材にして、ドイツのサッシ屋さんに高性能な窓にしてもらいました。杉は断熱性能が高いので、同じ窓枠の断面でもヨーロッパで流通している窓よりも性能が上がったと、サッシ屋さんが喜びました。十津川村の森林組合の方々は、こんな所で杉の長所が活かされるなんて思いもしなかったと誇らしげでした。この窓を目にした多くの専門家の方々が、国内で今後、同等の窓を製造するために各方面に働きかけてくださいました。

 雪の降る寒い日、薪ストーブを使わないで家の中でチーズフォンデュをしていたら、室温が24度位になってオーバーヒートしたり、息子の友達が薪ストーブで作る焼き芋用のサツマイモを持って遊びに来たり、微笑ましいエピソードが沢山出来た我が家です(借り物ですけど)。

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 開口部は大きいし、ユニークなデザインゆえの制約も多かったですが、新築じゃ思いつかなかったようなウルトラCを生み出せたという点で、このプロジェクトにはすごく感謝しているんです。とにかくお金が無かったことが幸いしてか、この小さな改修プロジェクトを通じて、日本中にストックとして残っている無断熱RC造の集合住宅の省エネ改修に関して、私なりのストラテジーが確立されたような気がします。

今の自分は”日本一快適でエコな賃貸生活をしている!”と自負していますが、近い将来これが当たり前になってしまい、自慢のネタにならなくなるとしたら、それは喜ばしいことだと思います。何よりも大家さんが『次に住む人は私だから』って言ってくれているのもうれしいですね。ちゃんと伝えれば、分かっていただけるんです。

施工の高橋建築 高橋さんと一緒に記念撮影

施工の高橋建築 高橋さんと一緒に記念撮影

賃貸をリノベーションして、高性能にする。こういった選択肢の広がりが、人と家の関係を良好にしていきます。お金持ちでなくてもパッシブハウスに住める未来への一歩は始まっていますね。

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