ニュースレター 2021年12月号コラム

パッシブハウス・ジャパンでは月に一度のニュースレターを発行しております。

理事によるコラム他、セミナー開催や建もの燃費ナビ関連のお知らせ等を毎月お届けいたします。


パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

「やれない/やらない理由」はまだありますか?

代表理事 森 みわ

 

2020年の1月に突如現れたコロナ禍は、ダラダラと終わりの見えないまま、2021年が終わろうとしています。2020の予定は軒並みキャンセルでしたが、2021年程ノープランな年もありませんでした。ノープランがまかり通る唯一のメリットは、ひたすら考えに耽る時間は多かったことでしょうか。

さて、「建築における換気って大事だよね」、というような単純な話ではなく、コロナ禍から何を学ぶのか。当然ながら社会全体が大きな犠牲を払い、特に社会的弱者(それが恐らく日本社会の大多数を占めているのですが)の人生設計がどれほど狂わされたかと思うと、大変心が痛みます。私がコロナ禍を通じて垣間見たものは、医療にアクセスできるか否か、即ち「生きるか死ぬか」に関して、勿論生まれた国次第で大方の運命は定められているとはいえ、個人の経済力や人脈がある程度影響するという、まさしく命の選別であり、地球温暖化の結末を暗示されているような感覚を持ちました。

実は先日、PHIのファイスト博士と5時間半に渡るオンライン対話を行った際の、博士の言葉の中から、とても印象的だった部分を、ここで皆さんに少しご紹介したいと思います。

-前略-

東長寺の本堂を訪れたファイスト博士

新宿四谷の東長寺のプロジェクトはLow Energy Buildingの認定となりましたが、あのような特殊な用途の建物としては素晴らしい快挙でした。住職は人生の価値が、次にどんな車を買うかといった消費活動ではなく、生き方そのものであることを説かれていたし、ブッダ自身も「どれ程の権力を持っているか」とか、「どれほどのお金を持っているか」と、人生の幸福は無関係である事を説いていますよね。今回、エネルギー的に持続可能なお寺の形というものに住職が価値を見出し、従来のお寺の建築様式に囚われないものを作り上げたことは素晴らしかったです。仏教は世界でも有数の宗教ですが、キリスト教の総本山であるバチカンも持続可能性の重要性に関して警告を鳴らしています。「全てのビジネスにおいてより多くの利益を上げること」が何故、「自分の隣人が最近元気でやっているか」よりも大事なことになってしまったのかを私達は考える必要があるでしょう。世界中の宗教を研究したHans Kueng氏 (Grobal Ethic Foundationの創設者)によれば、人間の内面の在り方にフォーカスしているという点において、大半の宗教は共通しているのですが、その結果形作られた他宗教との差別化のスタンスが、社会の分断を生んでいる事が明らかだったそうです。キリスト教で言えばカトリックがオートドクスと差別化を図り、カトリックとプロテスタントは戦争を繰り返し・・・宗教から起因する分断が、あっという間に権力争いに繋がってしまうところが非常に危険で、それは現代においても要注意です。例えば今で言うところの、原子力推進派VS再生可能エネルギー推進派、はたまた風力推進派VS太陽光推進派(笑)!人間にはそのような本能的な競争欲求があって、もしかするとその傾向は男性の方が強いのかも知れません。

2014年4月のエネルギーシフト・シンポジウムの参加者の皆さんと

-中略-

いずれにせよ、気候変動に対して私達が「まだまだ出来る事」と、「実際に達成出来た事」の強烈な乖離を森さんも感じているのではないでしょうか?この、本来行うべきことを実行に移せないという人間の能力的欠陥が明らかになったことで、「もうなるようにしかならない」という悲観的な、いわば諦めモードの立ち位置の人々をも生み出しています。そんな事を主張したところで、なんの意味もないと私は思うのですが。そもそも「我慢の哲学」によって大衆を動かすのでは大した成果が上がらない、というのが私の持論ですが、例えば私自身が飛行機や車に乗っての移動を控えることを、「我慢」とは全く持って感じません。何故なら、それによって失うものなど殆ど無いからです。どちらかというとその真逆で、古代ギリシャやブッダが説いている禁欲主義(askese)に近い感覚ではないでしょうか。ドイツの社会心理学者エーリヒ・フロムが「Haben oder Sein(英訳:To have or to be?)」の著書の中で説いたように、キャビアの添えられた料理が特別な味に感じられるのは、もともとキャビアが滅多にありつけないものであったからであって、世界旅行に関しても人生のうちに数回しか体験できないものであったからこそ、感動する事が出来た訳です。それが社会の効率化とグローバル・エコノミーによって、その頻度が増え、結果的にその価値は下がってしまいました。世界は今でも相変わらず、「今よりももっと」という欲求によって成り立つ風潮がありますね。要するに同じことを繰り返すほどそれに対する満足度は落ちていくという事なんです。ですからある一定の禁欲要素が結局のところ問題解決のカギを握っているように思えるのです。

 

-後略-

2021年10月11日のファイスト博士とのオンライン対談の様子

パッシブハウス・ジャパンでは昨年、設立10周年記念大会をリアル開催する事が叶わなかった状況を受け、設立10周年記念誌を作成する運びとなりました。上述のファイスト博士との対談も、記念誌内に抜粋を収録しまして、今週中にPHJ賛助会員の皆様の元に届く段取りを致しました。エクスナレッジ・ビルダーズの木藤編集長及び同社の中川さんに取材・編集協力頂いて作成した80ページの大作となります。2000部刷りましたが会員限定の冊子ですので、一般の方でどうしても入手したい方がいらっしゃいましたら、お近くのPHJ賛助会員までご相談くださいませ。なお、ファイスト博士との対談の文字起こしは日本語訳にして25,000字を超え、記念誌の中にその全てを収めることは叶いませんでしたので、何時か皆さんにご紹介するチャンスがあれば幸いです。

最後になりますが、環境問題は人権問題です。PHJは来年以降も皆さんの「やれない/やらない理由」を潰しにかかりますのでご期待ください(笑)。また、今年は大手ハウスメーカーの中でもダントツの着工棟数を誇る一条工務店より、パッシブハウス認定物件が誕生するという快挙の年でもありました。詳細は本メルマガの「今月のパッシブハウス」コーナーをご覧ください。

Comments

comments