メールマガジン 084号を発行しました

パッシブハウスジャパンでは月に一度メールマガジンを発行しております。

代表理事 森と 理事 松尾のコラムを読むことができる他、セミナー開催や建もの燃費ナビ関連のお知らせ等は主にメールマガジンで発信しておりますので、購読ご希望の方は以下のリンクよりお申し込みください。

http://passivehouse-japan.org/newsletter/

メールマガジン 2016年4月号(通算084号)コラム

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表森みわ

奥村昭雄さんの功績

実は先日、新建ハウジングの企画で建築家の伊礼智さん、新建新聞社の三浦社長と3人で、黒部の前沢パッシブハウスにて鼎談を行った際、伊礼さんがお帰りの際に会場に忘れてしまった一冊の本が、奥村昭雄さんの著書“パッシブデザインとOMソーラー(建築資料研究社より1995年に発売)”でした。奥村さんと言えば、長年吉村順三さんの事務所におられ、芸大で教鞭を取られた著名な建築家ですが、私は恥ずかしながらこれまで奥村さんの著書を手にした事がありませんでした。ところが今回ひょんなことから、奥村さんの著書を読む機会を頂き、とても大きな発見がありましたので、その幾つかを今日のメルマガで紹介したいと思います。

今回著書を拝見し、奥村さんの建築物理学に関する考察は想像以上に深く、彼は住宅内の温熱にまつわる物理現象のほぼ全てを理解していたという印象を受けました。著書の内容を一部引用しながら、今回の私の4つの感動についてご紹介いたします。

感動その1:奥村さんは断熱が良ければ集熱も蓄熱は少なくて良いと主張していた。

奥村さんは空気による太陽エネルギーの集熱だけを追求されたのではなく、断熱、気密、蓄熱の重要さを理解されていました。 また、その3つの内のどれか一つの量が変化する時、それ以外の要素も変化しなければならない事を著書の中で記されていました。

“断熱、蓄熱、集熱という三つの要素のバランスで決まる。全体的に断熱が良ければ、集熱は少なくていいし、蓄熱も少なくていいという関係になります。集熱が多ければ、蓄熱を増やさなければ安定化しないし、増やし過ぎると低温安定になる。この三つの力関係のバランスがちょうどいいところを見つければいいわけです。”

感動その2:奥村さんは、密集地では屋根での集熱、郊外では南面の窓からの集熱が基本と考えられていた。

奥村さんは、冬場の太陽熱利用として、南面の窓ガラスからの集熱が最も効率が良いと考えていた事を今回知ることが出来ました。
“パッシブデザインの集熱の方法はいろいろありますが、その中で最も簡単で最も効果が大きいのはダイレクトゲインです。ダイレクトゲインがなぜ最も効率がいいかというと、ガラスの透過率分しか部屋に入ってくる日射量が落ちていないからです。(中略)ペアガラスだと二枚あるから、透過率が二度かかって72%ぐらいになります。”

従って奥村さんは、OMソーラー式の屋根での空気集熱を、もともと密集地の住宅向けに発案されたと知りました。郊外型の住宅では、1Fの南の窓に日射が入るので、屋根で集熱する必要は無い訳です。

“日本の都会では、建てた当初は南面が空き地だったとしても、いつまで空き地か保障出来ないのです。だからダイレクトゲインに全面的に期待するのは非常に難しいと思います”

発見その3:奥村さんの時代は、水集熱がまだまだ扱いにくい時代だった!

奥村さんが太陽熱を、現在主流となっている水媒体によって集熱しなかった理由は、どこも漏れずに配管するのは至難の業だという確信に基づく事が分かりました。

“この水集熱式ソーラーシステムの非常に難しい点は、一滴も水が漏らないようにしなければならないことです。膨張収縮を起こして凍る危険性もある。この住宅の場合は夜間になると、たしか水を下の蓄熱槽へ落とすように考えたと思います。”

つまり、媒体として不凍液を用いた密閉回路を想定していなかったために、開放回路の扱い難さを痛感し、空気集熱にこだわられたのだと私は察します。

“小規模にお風呂一杯分ぐらい沸かすのなら何とかやれるけども、お風呂を沸かすエネルギーと、暖房に使うエネルギーは量的なケタが違う。だからお湯を使うより空気を利用したほうがいい。空気なら少しぐらい漏れても誰も文句は言わないし、気が付かない。“

という表現から、先ず量的にケタが違う暖房エネルギーにメスを入れようと考えられたという事も分かりました。Q1住宅やパッシブハウス・クラスの住宅では、暖房エネルギーよりも給湯エネルギーの方が大きくなるのが特徴ですので、まだまだ住宅の断熱性能の低い時代のお話なのだな、という印象を持ちました。

発見その4:奥村さんは基礎コンクリートの外断熱を推奨していた!

奥村さんは当時から既に、基礎コンクリートを蓄熱体として捉え、適度な(外)断熱を推奨していました。正直これが今回一番の驚きでした。

“OMソーラーでは特別の蓄熱体を用意することなく、土間コンクリート、またはべた基礎をそのまま蓄熱体として利用するエレガントな方法を取っている。”

そして、基礎コンクリートを無断熱状態にするよりも、断熱してしまった方が、集熱と蓄熱のバランスが良い事を奥村さんは見抜いていたのです。

“高温の土間コンに近い高温の土は、土間コンから逃げる熱を抑え、蓄熱の一部として働きます。(中略)もしこれが完全に家に取り込まれた蓄熱量とすると、むきだしのRC造の家に近いものになるはずです。これは、屋根集熱や補助暖房の能力に対してリザーバーとして大きすぎて、立ち上がり能力の不足や、過度の温度安定となる心配があります。また土に渡した熱の回収効率は高いものではありません。そこで土間コン下にはほどほどの断熱材を入れる意味があるのです”

“布基礎周りのポイントは、土間コンクリートに蓄えた熱が布基礎面を伝わって外に逃げるのを遮断する事。断熱・気密施工をしっかりと計画すること。”

以上、如何でしたでしょうか?
私達が取り組む日本のパッシブハウスを、奥村さんが見られたら、きっと“良いね!“
と言ってくださるのでは?そんな微かな希望を私は今回感じてしまいました。

“日本とヨーロッパでは気候がそもそも違うので“と私がパッシブハウス・研究所のファイスト博士に反論する時、必ず彼は”でも建築物理学は万国共通だからね。“と笑います。日本の気象データと生活習慣さえ手に入れば、日本の住宅内で起きる物理現象は予測できるという自信が彼らにはあり、例えば日本の気候においても”程々の基礎外断熱”が良いという奥村さんの主張が正しかった事は、もうじきドイツの物理学者達によって証明されることでしょう。

奥村さんが追及されていた“断熱、蓄熱、集熱という三つの要素のバランス“を、今世界中でパッシブハウスに取り組む実務者が追い求めています。これに夏を考慮した通風や調湿、そして給湯負荷をも睨んだ集熱が加わることで、建築物の設備依存率は劇的に減少し、どんどん自立型に移行していくでしょう。善意あるプロの皆さんの努力の末、今度どんなパッシブデザインのバリエーションが生まれていくか、本当にワクワクしますね。

この度は、“今更ながらきちんと奥村さんを知る“きっかけを作ってくださった、伊礼智さんの忘れ物に感謝です。なお、前沢パッシブハウスでの鼎談記事は、今月発売の新建新聞社のSH+ONEに掲載されておりますので、是非ご覧ください。

最後に、今月は4月21日~24日で第20回国際パッシブハウス・カンファレンスに参加してまいりますので、その内容は本メルマガでレポートしたいと思います!

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

急激な ”住宅省エネ化” への変化の中で、私たちがなすべき差別化とは

昨年はいろんなところから呼ばれて約100回講演しました。とにかく正確な知識を知らない実務者に一人でも多く知っていただきたいという思いからでした。ですので、出来るだけ断らずに、多少無理をしながら引き受けていました。その結果、情報を渡すのはこちらばかりではなく、様々な情報がたくさん入ってもきました。そんな中でここ半年から3ヶ月の間に確実に「世の中の流れが変わったな」という実感がありました。

まず、それまでは依頼してこなかったような格安系のパワービルダーやフランチャイズまで高断熱化に熱心になってきたということが、一番大きな流れだと思います。常々お伝えしていますが、一条工務店の年間着工棟数が今のペースで行くと現行の2位から1位の積水ハウスを抜いて1位になる可能性が高いです。どこのエリアに行っても一条工務店さんだけは一人勝ちの状態といっても過言ではありません。8割以上の建材を人件費の安いフィリピンで自社生産し、国内での施工も大半はフィリピン人に施工させているコスト構造は他者にはほぼ確実に真似が出来ない手法です。たいした断熱性能でもないのに非常に高価な大手住宅メーカー、デザイン、設計力は一条と五分五分でも性能、コストの両面で圧倒的に負けてしまうパワービルダー・・・この両方が「このままではまずい」という危機感を持ち始めたというのが私なりの実感です。

そんな中で勉強熱心なパワービルダーさんは「太陽に素直な設計」であれば費用をあげることなく、実質的な性能は大幅に上げることができる。さらに一条には真似しにくい。だからこの方向性しか生き残る道はない。そのような考えから私に講演依頼が来るというパターンが非常に多くなっています。

ご存知のようにこの4月から住宅版BELSという制度が今までの多岐に渡る制度を一本化する形で表示されるようになります。またZEHビルダー登録制度もスタートしています。
大手住宅メーカーに至っては今から1年を目安にほぼ全社100%に近い形でZEH化すると言われています。

いつも言うのですが、日本人は一旦火がつくまでは本当に遅いと思います。ところが一旦時流に火がつくと誰もが右へならえ的に突き進む傾向が強いです。省エネはとりあえず当たり前の世の中になります。そんな中で他者との差になるのは

・最低でも30年以上のトータル期間での総コストを安く抑えながら、本当に暖かく涼しい住宅を作る技術
・デザイン性、パッシブデザインを兼ね備えた設計力

だと思っています。実際にこの2つを満たせている業者さんは全国どこを見渡しても非常に勢いがあります。

パッシブハウスジャパンは色々とある高性能住宅団体の中で両理事ともに設計事務所であるというのが大きな特徴だと思います。先日のエコハウスアワードを見ても冬の断熱性能に関しては皆さん申し分ありませんでした。これからは会員の皆様が改めて設計力をどう高めていくかということがPHJの次なるステップなのかもしれません。