ニュースレター 2018年6月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

Hermann Kaufmann氏の来日講演

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

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去る6月9日(金)は都内にてイケダコーポレーション主催のBIGセミナーに参加しました。今年の講演者はオーストリアの建築家Hermann Kaufmann(ヘルマン・カウフマン)。木造の省エネ性能と意匠性、そして自然建材へのこだわりをこれ程まで妥協せずに追及する建築家は、彼をおいて他にはいないのではないかと私は思います。「木材ほど優れた建材は無い、再生可能なこの素晴らしい素材をとことん使い、100年後にその建築が取り壊されたとしても、燃料に戻れるように、可能な限り無塗装で使いたい」そんな思いを持つカウフマン氏は、講演の冒頭で、「木造の最大の敵は火では無く水だ。」と言い切りました。どんな建築でも徹底的に木造建築を作る覚悟がある同氏は、建築の規模が大きくなるにつれ、施工現場における、雨や雪といった天候の影響を最小限にするためのプレハブ化の重要性を確信したようです。工場で大工仕事に携わる若い職人の育成も重要視する同氏の話の中で、大変印象的であったのは、「職人への道は袋小路であってはいけない」という発言でした。一旦職人への道を選んでも、また希望すれば大学で学ぶことが出来るような育成スキームとする事の重要性を彼は強調していました。

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木構造のマトリックス
木造には軸組み工法、2x4パネル工法、マッシブホルツなどといった様々な工法があり、カウフマン氏の建築においては、それらが柔軟に組み合わされ、自由な設計を行っている様子が見受けられました。そして比較的多くのプロジェクトにおいて、RCのコアが水平力を負担し、CLTの内壁がそれを補助し、一方の外壁は断熱材や窓にスペースを明け渡すべく、軸組みや枠組み工法が用いられているのでした。木を初めとする天然素材への彼のこだわりは、構造のみならず、内外装材にも及んでいますが、私達が8年前の視察ツアーに組み込んで訪れた、ルーデッシュ村の村役場は、彼が手掛けた仕事の中でも、材料への配慮が徹底的に行き届いたプロジェクトであることも分かりました。合板やOSBだけでなく、シール材や接着剤も現場から一切排除され、それに代わる環境負荷やVOCの少ない建材が採用されました。内装、外装共に、無塗装の地元の木材が使われていました。カウフマン氏が設計を手掛けたルーデッシュ村の村役場は、この村が再び林業と共存する事で村おこしを行うという強い決意を体現したような象徴的な建築物であり、毎年世界中から視察団が訪れるいわばエコ建築のメッカのような存在となりつつあります。私も2010年に奈良県十津川村の村長そして森林組合の皆さんをルーデッシュ村にお連れしたことがあり、その後の十津川村の林業再生の取り組みに大きな影響をもたらした事例の一つと言えます。

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木とRCのハイブリット構造へのチャレンジ
現在世界で最も高層な木造建築は、カウフマン氏がアドバイザーとして加わっている、カナダ、バンクーバーにある18階建ての学生寮で、その高さは地上53メートルです。とは言え、完全な木造建築と言うと語弊があるかもしれません。実はこのプロジェクトでは、木造とRC造のハイブリット構造が採用されています。木造梁の上に敷かれたOSBパネルの上に、配筋をして工場で事前に厚み80mmのコンクリートを打設、これで純粋な木造よりもスパンが飛ばせるだけでなく、上下階の遮音性能を最大限確保する事が出来るのです。何よりも驚いたのは、このハイブリッド工法をカウフマン氏は、元々RC造専門のゼネコン(CREE社)と一緒に開発をしている点でした。オーストリア国内で施工された8階建てのプロトタイプ(LCT ONE)では、ユニット化された床や外壁ユニットがクレーンによって次々と吊り上げられ、1フロアがほぼ1日で組み上がりました。このスピードであれば、現場で雨に晒される確率も大幅に少なくなり、雨養生のコストも削減出来る訳です。もちろん“高層木造の最大の敵は水ではなく火”であるので、耐火性能の担保が絶対条件となりますが、世界中のRC造の中高層建築をこのようなハイブリッド工法に置き換えていく事が出来れば、建設時のCO2削減に大きく貢献することは間違いありません。またホテルのように居室のユニットモジュールが反復するような設計では、工場生産されたユニットの中に熱交換換気本体やダクトが納められているケースも多く、脚立に乗って天井内に施工する通常のやり方に比べ、施工精度が高く品質管理が容易だとコメントしていました。カウフマン氏は常にパッシブハウスの性能を狙って建物の外皮のスペックを決めているため、熱交換換気システムなども様々な手法で導入しています。

日本では今CLT工法に大きな関心が集まっており、CLTがきっかけで今回の講演会に足を運ばれた方も少なくは無いでしょう。しかしながら、そのような方も是非今回のカウフマン氏からのメッセージを決して断片的では無く、漏れなく受け取り、木造建築における温熱環境の向上そして燃費向上を、徹底的に追及していって頂きたい次第です。今回はイケダコーポレーションの企画でカウフマン氏の講演会が3都市で実現し、オーストリアのフォアアルベルクにわざわざ時間とお金をかけて渡航することなく、沢山の実務者の皆さんが同氏の完成度の高い木造エコ建築に触れることが出来たのは、本当に素晴らしい事であったと感じます。10年以上前から彼をフォローしてきた私自身も、初めてご本人と直接お話をする機会を得、カウフマン氏の人柄に触れることが出来ましたが、あれだけのクオリティの建築をストイックに手掛けられているベテラン建築家からは想像も出来ない、フレンドリーながら大変落ち着いた話し方、そして丁寧な言葉の選び方に、また度肝を抜かれました。やはり彼はただものでは無かったと再確信し、沢山のエネルギーを貰う事が出来ました。

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パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

国は「経済的生命を失う自由」を認めて下さっている。

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

最近、構造塾の佐藤さんと講演する機会が多く、その度に改めて耐震等級3の重要性を再認識させられます。これは今にはじまったわけではなく正確にいうと1995年すなわち今から23年前にさかのぼります。私は兵庫県出身なのでその年に阪神大震災がありました。当時は大学2年生だったので福岡市内におりましたが、その直後の春休みは倒壊判定で回っている父の事務所の手伝いに帰省しました。そこで構造で手を抜くとどれほど痛い目に遭うのかということを肌で感じさせられました。
お金がある人は1年ちょっとの間にすぐに建て替えます。しかしながら、震災直後というのはそもそもどの業者、職人も引く手あまたでそもそもつかまえることすら難しい状況です。しかも金額は高く、工事は雑になりがちです。家を建て替えられない、修理出来ない方々は体育館か仮設住居です。私の記憶にある限りですが、最後の仮設住宅がなくなるまでにはおよそ10年かかりました。
我が国の建築基準法は「大震災時に生命を失わないこと」をベースに基準が作られています。しかし、実質的に今の日本における生命は給料から購入する食料で賄われているので経済的生命を失うことはかなり生命を失うことに近くなります。もちろん生活保護と言う制度もありますが、ご存知の通りそれはもはや破綻しているといってもいいところまで来ています。また、「文化的な生活」からはほど遠い生活にしかなりません。要するに今の建築基準法どおりで家を建てていいよ。という法律は「生きてるんだからいいじゃないか。苦しくても・・・」ということをご丁寧にも容認して下さっているということになります。
微妙なのが耐震等級2ですが、佐藤さんのはっきりおっしゃいますし、実際熊本でも耐震等級2は「無傷から大破までが入り混じっている状況」です。生涯で一番高い買い物かつ経済的生命を左右する事項をこれだけ大きなリスクにさらす余力が皆さん、そして皆さんのお客様にはあるでしょうか?
同様のリスク事項として自動車の任意保険加入率をいつも例にあげます。「めったに起こらないから加入せずに運転する」人なんていないだろう?と予想して調べたらなんと対人賠償の加入率は73.8%でしかなく驚愕したことがあります。26.2%もの方が生涯をかけた「経済的生命に関するロシアンルーレット」をやっているわけです。この方々は超絶リスキーな選択をしていることは個人の勝手です。ただ、もし未加入者によって大怪我させられた場合の被害者はどう考えればいいでしょうか?これと同じ理不尽さを佐藤さんは上手に説明されます。「倒壊建物が道を塞ぐとその向こうに避難することも助けに行くこともできない」のです。これは私も抜け落ちている概念でした。しかし、全くもってそのとおりだと思います。これだけの地震大国、しかも南海トラフ地震で30年内に70-80%、首都直下型地震で70%と言われているこの状況において業界、ロビー団体への配慮から「経済的生命を失う自由」を認めて下さるこの国の思考パターンには涙が出そうです。賢い方ほど「自分にはそんな惨事は起こらない」という態度をとります。その逆もまたしかりです。そんな方々のために交通に関してはヘルメット、シートベルト等極めて厳しく実効性のある規制、罰則が敷かれています。管轄は同じ国交省なのになのになぜこうも違うのか?もしくは取り締まるのは警察庁だからか??そんなことはどうでもいいですが、制度がおかしいのにそれに甘んじて耐震等級3に取り組まない住宅実務者も同罪だと私は思います。


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