メールマガジン 2016年6月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

第20回国際パッシブハウス・カンファレンス レポート[後編]

パッシブハウス・ジャパン代表森みわ

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後半は、カンファレンス会場を飛び出し、ドイツ国内でも評判の高い街づくりが行われている「バーン・シュタッド」の見学ツアーの様子をお届けします。羨ましさと悔しさを感じてしまう、ドイツの行政と民間の本気度。刺激を受けることと思います。最後のオチにも、注目です。

ハイデルベルク・バーンシュタッド

カンファレンス翌日の24日は、貸切バスでの視察ツアーに参加いたしました。バスルートは毎年6つ以上あり、住宅、非住宅、改修事例、公共建築物などのテーマに分かれるため、どのルートに申し込むかは毎年迷うところですが、今年はバーン・シュタッド(Bahn Stadt) を見学する Heidelbergルートに迷わず申し込みました。なにしろドイツ国内でも大変注目を浴びている街づくりだそうです。

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Bahnは鉄道、Stadtは街の意。Bahn Stadt、すなわちTrain Cityと言ったところ。何しろハイデルベルク中央駅真横でアクセス抜群の土地ですから、納得の行くネーミングです。

ドイツ国鉄の貨物用の跡地及び、ドイツから順次撤退している米軍の用地を買収したハイデルベルク市は、2009年からバーンシュダッドの建設を始めました。市民へのアンケート調査を経て、ハイデルベルク市議会は持続可能な街づくりと、商業と住居の適度なミックス、そして自転車通勤、通学をサポートする都市計画を街づくりの方針として打ち立てました。

その後、幾つかの建物の省エネ性能に対する、バイオマス地域暖房プラントの規模等が検討され、40年後の収支を比較した結果、現在ドイツ政府が打ち立てる省エネ基準の場合よりも、パッシブハウス基準を適応した方が、40年スパンでは経済性が高いという結論に至り、街区全体にパッシブハウス基準を適応する決断がなされました。

こちらは公式ウェブサイト(英語):
http://heidelberg-bahnstadt.de/en

街区全体がパッシブハウス認定

バーン・シュタッドの中心にある幼稚園(設計:Behnish Architekten、あの巨匠ベーニッシュが遂にパッシブハウスか!という驚きも・・・http://behnisch.com/projects/726)の木製外壁にプラカードが張ってありましたが、ここはなんと街区全体がパッシブハウス認定を取っているという、とんでも無い場所でした!!


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街づくりは大きく1期から3期工事に分けられ、3期工事は予定よりも少し早く始まり、2020年には完成する見込みとの事です。ハイデルベルク市の環境課の方にご案内頂きましたが、市が発注する公共建築物ではこれまでパッシブハウスの事例があったけれども、今回のような大型の建物は初めてだったので、いろいろと試行錯誤されたとの事でした。始めはデベロッパーも戸惑い、土地を市から買い取る時点でエネルギー収支を提示しなければならないなど、ややこしい契約だと噂になりましたが、今ではそれが出来るデベロッパーしか入ってこない状況となり、何事もやり易くなった結果、当初の計画よりも好調に工事が進んでいるようです。

1期は土地込で平米2600ユーロ(約坪120万円)で売却されましたが、2期では既に3000ユーロでの売却も望めるとの事。とても人気のエリアになり始めました。ハンブルクののハーフェンシティ(Hafen City)のアパートが平米7000ユーロという状況の中で、これは破格よ!とドイツ人の参加者が叫びました。

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ここに住みたい!

バーン・シュタッド内には住宅や幼稚園以外に、大学の実験室や、医薬品メーカーのオフィス、カンファレンス設備などがあり、大学生向けの学生寮や、短期滞在の研究者向けのアパートも。住宅サイズは20平米から80平米までのバリエーションあるとの事でした。敷地内には運河が流れ、水鳥がのんびりと泳いでいました。駐車場は全て地下にあり、住宅棟の間には公園や緑地帯が配置され、楽しい散歩道が作られていました。外国籍でも、また住民票がハイデルベルク市に無くても、住宅を購入する事が出来るそうなので、うーん是非ここに住みたい!と思ってしまった私です!


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財布がすられた!戻ってきた!?

実は私、この視察を終えて駅に戻る一瞬の隙に、お財布をすられるという情けない失態をやらかしてしまいました。こんなに治安の良い大学都市で、一体どうして?!という動揺を隠せない私に、現地の人が言いました。“最近はハイデルベルクも難民が沢山入ってきたからね、随分治安が悪くなったのよ”と。そこで怒りのぶつけ先を失ってしまった私。落ち込んだまま帰国してクレジットカードやらなんやらの再発行手続きに追われていると、なんとハイデルベルク警察からEメールが。“あなたのお財布、預かってます”ですって!

海外で盗まれた財布が持ち主に戻る?
警察が外国人の私にEメールを送る?
難民対応で大忙しのドイツのはずが、一体どうなってるの?!

そんなこんなで最終的には“折角日本人を狙ったのに、持ち金70ユーロしか入っていなくてごめんね”という気持ちで落ち着きました。今回の旅では最後にそんな落ちがありましたが、それでも私はハイデルベルクのバーンシュダッドに住みたいと本気で思います(笑)。色々な意味で、ここには安全、すなわち安心があります。必要最低限の事に気を配っていれば、国際空港から1時間、鉄道駅から5分というアクセスのこの緑豊かな街で、安全な食糧とエネルギー供給を得ることが出来、安心して子育てをしたり、老後を過ごしたりすることが出来ます。

このような街づくりを、今ドイツ中で行政と民間が一丸となって取り組んでいる事を想像すると、羨ましい、の一言に尽きます。

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パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

これから差がつくのは真の構造強度

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

熊本と大分を大きく揺らした地震から2ヶ月が経ちました。日本と地震は切っても切れない関係です。残念がら、これから先も地震は襲い来るはず。今回の記事で、日本での暮らしをより安心にしていくために必要なことに、改めて気づくことができるのではないでしょうか?

最低水準ではなく、理想を

これから差がつくのは真の構造強度、夏の日射遮蔽、長期の耐久性だと思います。

最近、設計セミナーを依頼されることが本当に増えました。そこで、いろんな工務店さんが実際に契約したプランを添削する機会がよくあります。本来はパッシブデザインの観点を向上させる設計セミナーです。しかしながら、半分以上の確率で「この構造よくないなあ」と思うことが有ります。そして1,2割の確率で「これは絶対ありえない」という構造を見かけます。

確認申請さえ通れば良い!?

個人的なことを申し上げると、私は大学卒業後住宅メーカーで実務経験のスタートを切りました。住宅メーカーでは型式認定を取っているので100ほどある構造プランルールを守って設計しさえすれば、一棟ごとに構造計算する必要がありません。これは楽そうに見えて、全く逆でものすごく設計が窮屈かつ難易度も高いです。

しかし、最初にここから入ったおかげで「どういうプランをしたら危ないのか」ということがしっかりと身についています。しかしながら、ほとんどの設計者が、工務店、意匠設計事務所でしか勤務経験がないと思います。そういうキャリアの方は「確認申請さえ通れば良い」もしくは申請の1.2倍等の若干の壁倍率の余裕率だけ見ておけば良いということなってはいないでしょうか?もしくは構造は外注任せ・・・。このどちらかが非常に多いと思います。

断熱においてもそうですが、この国の基準というのはあくまで最低水準を担保するもので基準を満たしていれば、理想的というものからは程遠いものとなっています。ましてや南側に大きな開口をとったり、吹き抜けを設けることも多いパッシブデザインにおいては構造の難易度はより高くなります。

大地震が起きても安心して暮らせるように

断熱は毎年、夏、冬に効果を実感できるので非常に重要なのは言うまでもありません。しかし、熊本、阪神、東日本のような大震災が起こったときにも安心して暮らせる住宅にすることも同様に重要です。お施主様の幸せを考えるなら大震災で資産がゼロになってしまうような住宅はありえないわけです。

今回の熊本大震災で京大の教授が「耐震等級3が望ましい」と発表しました。これはもちろんですが、それ以前に2階建てにおいても許容応力度計算で計算しておくことが最低限必要です。これは他社への差別化にもなるので自社にとっても非常に有効です。熊本後、この2つもやらないのに「制振ダンパー」を目指す工務店が後を絶たないように感じています。これは断熱に例えるなら、「断熱気密もろくにやらないのに遮熱と蓄熱に走るようなもの」だと考えています。

難しい積雪地域

ただ、非常に難しいのは積雪地域です。積雪地域で等級3を確保するのは至難の業です。私としては積雪無しの状態で等級3、積雪有りの状態で等級2+余裕を見て制震ダンパーというのを自社の標準としています。実際、積雪地域といえど、基準通りの積雪量が載っている時間は短めですし、北海道のように無落雪屋根でもない限り、一度目の大きな揺れで雪はある程度ずれ落ちると推測されるのでこれでも実質的な安全性はかなり担保されると思います。

今回はこれで終わりますが、あと2つ差がつくのが夏の日射遮蔽と、長期の耐久性だと思います。これも各社かなり差がついていると感じています。このあたりは次回以降お伝えしようと思います。

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