ルードヴィッヒ・ロンゲン氏講演会 レポート

省エネの先へ。パッシブハウスは快適で美しい

ルードヴィッヒ・ロンゲン氏講演会『ホントのパッシブハウスの話をしよう』レポート

先月開催された、パッシブハウス設計において長いキャリアを持つドイツの建築家、ルードヴィッヒ・ロンゲン氏の講演会『ホントのパッシブハウスの話をしよう』のレポートをお届けします。

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世界のパッシブハウス建築において、第一線で活躍するロンゲン氏が考える、パッシブハウスの未来。それは、本気で消費エネルギーを削減し、本気で美しい建築を作るということ。ホントのパッシブハウスについて、一緒に考えましょう。

講演会はロンゲン氏のドイツ語をパッシブハウス・ジャパンの代表理事 森みわが通訳しながら行われました。

講演会はロンゲン氏のドイツ語をパッシブハウス・ジャパンの代表理事 森みわが通訳しながら行われました。

省エネはあたりまえ。創エネの時代

ドイツでは1974年ごろにオイルショックが起こって、燃料が急激に値上がりしました。それで1977年に最大暖房負荷を279kWh/㎡以下という制約ができます。1995年には100kWh/㎡。今の日本の住宅はほとんどクリアできないですね(笑)2002年には75kWh/㎡になりました。

これに対して、パッシブハウスは、25年前から変わらず、年間暖房負荷の基準が15kWh/㎡以下です。厳しい基準ではありますが、経済的なメリットも出てきています。学校、ホテル、病院、幼稚園など人が多い建物は、ドイツの気候でも冷房が必要ですし、加えて大規模な暖房設備も導入せねばなりません。今では、窓や断熱材のスペックをあげてパッシブハウスにしたほうが、光熱費も含めたトータルのコストが安くなるという事例もあります。

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「あなた達は電気を使っちゃダメだ」なんて、言えない

パッシブハウスは、建築における省エネメソッドとして、世界で一番厳しいでしょう。しかし、新興国のエネルギー消費量はどんどん増えています。そして、豊かな暮らしを求めていきます。そのときに「あなた達は電気を使っちゃダメだ」とは、当然言えません。ですから、私たちはエネルギー消費量を減らしていくのはもちろん、エネルギーをどうやって賄うのか、ということも考えていくべきです。

EUの2010年の合意で、2019年からはすべての公共建築物をニアリーゼロ(断熱性・省エネ性能を上げ、太陽光発電などでエネルギーをつくることにより、年間の一次消費エネルギー量の収支を限りなくプラスマイナス「ゼロ」に近づけていく建築)にしなくてはいけません。2027年になるとすべての建物にニアリーゼロが義務化されます。また、パッシブハウス研究所が制定した新しい認定制度では、再生可能エネルギーをどれだけ取り入れたかによって、ランクがアップしていきます。

それに、ゼロではないエネルギーをどこで賄うのかも大事です。遠くから運んできた電力ではなく、できるだけ地域の中で作られたエネルギーを使う。

建物のエネルギー消費量を減らし、自然エネルギーの出力を最大化していく。その間をつなぐ蓄電技術もますます進化しています。万が一、風もない、日光もないという状況のなかでもやりくりできるようになっていくはずです。

窓から窓へ、完璧な循環を目指す

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断熱材ひとつとっても、役割が終わったらそれで終わりではなく、どういう材料のものを使うのかということも大切です。リサイクルをするにあたっては、段階を経て純度が低くなっていくのではなく、例えば、窓だったものが、また窓として利用されていくような、完璧なリサイクルが必要。

自分たちが生きている間は、快適でランニングコストが安くて良いんだけど、万が一、寿命を終えるようなことがあったときに、ゴミとして次の世代が引き受けねばならないのはよくないわけです。

パッシブハウスは美しくあれ

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”高性能な建築”といったときに、美しいだけで高性能と呼ばれるのはおかしいですが、エネルギー的に省エネだからといって、高性能と呼ぶのもおかしいのではないか、と思います。

パッシブハウスはとても先進的な建築でしたから、ちょっと変わっていて、あまり仕事が入ってこないような建築家が積極的に取り組みました。その人たちの中には、デザインが得意でない人もいたわけです。ですから、デザインがあまり良くないパッシブハウスがたくさんできてしまった。ドイツ国内のパッシブハウスのイメージダウンはそれが原因だと思っています。

最近では、設計者のレベルがだんだん上がってきて、前よりも美しい建築が増えています。しかし、今度は別の問題が発生します。かっこいいパッシブハウスの値段が高い場合、コストの理由を ”パッシブハウスだから”とされてしまう。だから、これからは美しいパッシブハウスをなるべく安く作っていかなくてはいけないというジレンマもあります。

それでは、具体的に建築を見ていきましょう。

暖房は地熱100%

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これは新築の建物です。もともとは地下を30mほど掘って、地下水を使ってヒートポンプを回そうと計画していたのですが、地下水に触れてはいけないエリアで断念。

4mまでは掘って良いということで、地下4mに収まるように、地熱を利用した熱交換器を8機、設置することにしました。しかし、暖房の負荷が大きいときは、これで全てのエネルギーを賄うことはできませんでした。次の策として、屋根の雨水を集めて、熱交換器の上に貯めました。貯めた水が中に浸透していって、熱交換のスピードをあげることができ、最終的には100%、暖房のエネルギーを地熱で賄うことができました。

冷房にも暖房にもなる貯水槽

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こちらの集合住宅には、地下に貯水槽があり、夏の過剰な熱を、ヒートポンプを通して、地下に貯めこみます。この時、貯水槽にあるのは水です。季節が変わり、暖房シーズンになると、その水から熱を取っていきます。最終的には氷になって、その氷は次の夏の冷房に使われる。4月の終わりくらいには貯水槽は氷になっています。

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地下にあるタンクは、10㎥ほどのサイズです。住宅部分は1000m²くらいあって、5世帯分のエネルギーを賄っています。

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また、これは空気集熱のパイプです。上で日射を直接うけて、それ以外の面では空気から熱を集めています。敷地内には馬小屋があり、ここに住んでいる人は、自由に乗馬ができるのですが、ここの馬から出てくる熱もけっこうあって、その熱も地下に送っています。

雨水利用も行っていますが、中水利用も行っています。シャワーや、洗面、洗濯機からきた排水を集めて、リサイクルするわけです。法律上、飲料水に使うことができませんが、実際には飲料水レベルまで浄化されています。洗濯やトイレの水洗など、飲料以外の水利用にリサイクルするのです。

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また、玄関には電気自動車の充電ステーションがあります。

最後にここの家賃の話です。この場所の賃貸の相場が1m²あたり、7.5ユーロから8ユーロくらいで、光熱費と保険料などが別途2~2.5ユーロくらいかかります。

しかし、この家に住んでいる人は、乗馬がフリーなのと、電気自動車の充電がフリー。それと光熱費も全部あわせて10ユーロです。

池の水と風のチカラで冷やす

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この建物は南西から風が吹いているのですが、この池の水の気化熱を利用すると、それだけで、外気温が4度くらい下がります。とてもシンプルですが、ちゃんと機能しています。

10,000m²をリノベで、パッシブハウスに

リノベーション前

改修前

ここ15~20年前に建てられた住宅は、ある程度消費エネルギーのことを考えられていますが、この建物のように1971年あたりの学校建築は、エネルギーをかなり使っています。こういったものの改修が、これから重要になってくるのです。改修の場合、新築よりも緩いバッシブハウス基準がありますが、こちらはあえて新築の基準に合わせて改修しました。

リノベーション後

改修後

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この写真に写っている建物が、すべてパッシブハウスリノベです。面積としては、10,000m² あります。エネルギー削減率は93.2%です。

教会も、文化財もパッシブハウス

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これは築60年以上の教会です。パッシブハウスの改修の基準を、内断熱のみでクリアした初めての物件となります。内断熱の材料はセルロースファイバーを使っています。

改修前

改修前

改修後

改修後

改修前には、右側にステンドグラスがありますが、改修後は増築して、次の部屋までつながっています。このステンドグラスは、正面のガラスの外に、ランドスケープデザインとして再利用しています。

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地下のチャペルも増築しました。キリスト教では楕円形が永久を意味しており、その楕円を使って設計しました。ここは完全に地下なんですが、上に天窓がついていて、そこから明かりが入ってきます。この地下もちゃんとパッシブハウスです。

この教会はもともと暖房負荷が183kWh/㎡でしたが、、改修後は8.5kWh/㎡まで下げることができました。エネルギー節減量は95.4%です。

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文化財の住宅も改修しました。痛みがひどかったですが、できるだけ、あるものを残しながら改修を行いました。この建物は土壁を使っていたので、断熱改修も土でやりました。

改修前

改修前

改修後

改修後

梁は450年前のものです。古いものは古いデザインを、新しい物は新しいデザインを用いました。

世界一難易度高い、ドバイのパッシブハウス

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パッシブハウスがヨーロッパ以外の気候で建てることができるのか、調査が行われたことがありまして、ラスベガス、ドバイ、エカテリンブルク、上海、東京が調査場所として選ばれました。そこで一番難しいとされたのが、ドバイでした。

この建物はドバイに建てることを想定したパッシブハウスです。2階に寝室、1階にリビングが一般的ですが、ロンゲンさんはこれを逆転させて、寝室を地下に埋めました。明かりは間接的に中庭からとります。日射を入れず光だけ取り込むように日射遮蔽付きです。外から見ると1階建てに見えます。

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中庭には、植栽や、水辺をつくりました。これによって、40%のエネルギーが削減されます。こういった形状の工夫だけでも大きな効果を生み出すことができます。

増えるパッシブハウス、中国での事例

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これは中国のパッシブハウス研究の対象となったプロジェクトです。はじめは窓が細分化されていました。これをロンゲンさんが、ガラスの面積を大きくするように提案して、その結果、50万ドルの建設コストを減らすことができました。

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ちなみに、中国では先にモックアップを作って、ここで断熱施工を覚えてもらいます。

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これは中国のハルピンで年内に竣工するパッシブハウスの樹脂窓をつくる工場です。冬にはマイナス30度くらいになります。全体で54,000 m²ほどの面積です。

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これも中国のビルです。左が住宅棟、右がオフィス棟です。住宅棟がオフィス棟に影をつくるような設計になっていて、オフィス棟の冷房負荷を減らす仕組みになっています。左が南、右が北で、住宅棟は南側に張り出すことで、冬の日射取得を増やすことができ、オフィス棟は北側に張り出すことで、冷房負荷を減らすことができます。住宅棟とオフィス棟の間にピロティー空間があるので、そこから間接的に光をとるという設計になっています。

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これは中国の青島で、今年6月ごろ竣工する施設です。パッシブハウスに関する情報センター、体験宿泊、カンファレンスを行うようなスペース、などがある複合施設になっています。この地域は石が有名で、石をモチーフにしたデザインです。

手すりにはスリットが入っていて、後ろから光が差すようになっています。これは鉱石をイメージしています。もともとは、オーストリアのメーカーが作っている白い太陽光発電パネルを全面に取り付ける予定だったのですが、壊れた時の補修の問題などのハードルがあり、実現しなかったのが残念です。

というわけで、いろいろな事例を見てきました。

今、再生可能エネルギーのマッチングは難しいと言われていますが、時代はどんどん変わっていきます。太陽光パネルが乗っていない車なんて走ってないとか、宇宙船が電気を作っているとか、そういった楽しい未来が待っているはず。状況はどんどん変わっていきます。

パッシブハウスは、これからどんどん進化していく必要があります。単純に暖房負荷を年間15kWh/㎡以下にすればいいということではなく、もっとトータルなクオリティが求められるのではないでしょうか。

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【講演会はここまで】

今回の講演会はいかがでしたか?

講演会の中で横道にそれた話として面白いなと思ったのは、日本とドイツでのパッシブハウスを建てる動機の話です。日本では「住まいの快適さ」がモチベーションになることが多いですが、ドイツではそもそも全館暖房が普及していたりと、省エネではなかったものの快適性は高かった。では何がモチベーションになるかというと「環境のために私はいいことをしている」というアピールだそうです。

ちなみに、中国ではパッシブハウスを建てるのに、通常より2~3倍のコストになるという話をよく聞きますが、それは信じないほうがいいとのこと。なぜなら中国人にとっては、「いかに高い家を建てたか」ということ自体がステータスになるのだそうです。国によって様々なパッシブハウス事情を知れるのも面白いですね。

省エネ性能だけでなく、本質的に地球環境を考慮し、デザインも美しい。それこそが、これから作るべきパッシブハウスである──。パッシブハウスはデザインに制限がある、と思っていた設計者のみなさん、住まい手のみなさん、いかがだったでしょうか?ぜひ感想を聞かせてください。


Ludwig Rongen

Ludwig Rongen(ルードヴィッヒ・ロンゲン)

1953年生まれ。
建築家。都市計画家。
パッシブハウス研究所公認デザイナー。
パッシブハウス認定士。

1980年 アーヘン専門大学卒業。(専攻:都市計画)
1982年 自身の事務所「RONGEN ARCHITECTS GMBH」を設立。
1987年 アーヘン工科大学卒業。(専攻:建築学)
1992年 エアフルト専門大学建築学部教授に就任。
2004年 同大学建築学部長。中国成都市の二つの大学(四川大学と西南交通大学)にて客員教授。
2008年 エアフルト専門大学に、パッシブハウス専門の修士課程を設立。自身も新築改修問わず、パッシブハウスの建築を多数デザイン。パッシブハウス関連の書籍多数発行。パッシブハウス研究所のファイスト博士と協同で、パッシブハウスの普及に尽力している。現在、中国にて、「森鷹窓業パッシブ工場」(ハルビン市)や「パッシブハウス技術体験センター」(青島市)など、大規模パッシブハウスのプロジェクトを手掛けている。

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