ニュースレター 2018年10月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

第3回PHAC in Seoul 視察レポート(後半)

~省エネ基準義務化もままならない日本はアジアで置き去りに?~

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

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第三回パッシブハウス・アジアカンファレンスはソウル大学で開催された。

 

先月に引き続き、第三回パッシブハウス・アジアカンファレンス in Seoulのお話です。

8月31日のメインフォーラムでは日中韓それぞれ3名の登壇があり、アジアの隣国の行政が主導する省エネ基準の制度化、そしてそれに呼応するような民間プロジェクトに関する興味深い報告を聞くことが出来ました。社会主義の中国と、民主主義の韓国では、当然ながらプロセスがやや異なりますが、住宅ストックの大半が集合住宅の両国では共通して外断熱工法による外皮強化が主流です。

そこで培われた工法は、公共建築物や大型商業施設にも応用できるため、政府が補助金を投入して計画する先導的なモデルプロジェクトは、比較的規模が大きいものとなります。中国においては、モデルプロジェクトの40%がオフィス、23%が集合住宅、10%が学校建築といった内訳です

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ヨングウール市が発注したユースホステルはパッシブハウス仕様

 

当然ながら、低層な建物ほど、床面積当たりの屋根の面積は大きく、太陽光発電の搭載でエネルギー収支をネットゼロに持ち込むことが出来ますが、かといってバンガローのような平屋の家で土地を無駄に使用してしまっては本末転倒な訳で、人口集中する大都市にふさわしい密度の建築物を計画すると、当然ながら床面積当たりの屋根の面積は減り、太陽光発電頼みのゼロエネ建築は非現実的になるという矛盾をどう捉えるかという点に関しても、具体的なケーススタディを用いて韓国の発表者から問題提起されました。

都市の住宅を高層化、少なくとも集合住宅化していくことは、都市をコンパクトに維持し、周辺の自然環境を極力保全し、交通の問題を解決していく上で、大前提だと思いますが、その大前提が守られていない東京近郊のような過密都市で、防火基準と格闘しながら狭小な敷地における木造二階建てエコハウスやゼロエネハウスのプロトタイプを考えるという、ある種本質からズレた議論の需要は両国には見受けられません。

 

また日本の行政関係者に一番聞かせたかったのは、ゼロエネ化のための外皮性能の義務基準が両国とも非常に高いという事。

韓国においては2013年の時点で外壁のU値0.27W/㎡Kが現在義務化されており、今年の9月には住宅向けに0.15W/㎡Kが新たに義務化されました。0.15W/㎡Kの外壁を実現するには、グラスウールを外断熱で厚さ24センチ以上使用しないといけません。寒冷地でパッシブハウス基準が十分に狙える性能であることが判ります。

中国のモデルプロジェクトでもやはり、複数プロジェクトの平均ですが、屋根はU値0.13W/㎡K、外壁は0.15W/㎡K、窓は0.84W/㎡Kとなっていました。一方、同国の既存ストックの平均の値は、屋根は0.40W/㎡K、外壁は0.52W/㎡K、窓は2.33W/㎡Kだというので、日本の次世代省エネ基準のようなレベルから、一気に性能を上げてきている様子がわかります。

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オプショナルツアーで視察した住宅モデル。屋根断熱は工場でセットされたものに更に現場で付加。

 

という事で、両国が推進する省エネ基準は、既にパッシブハウスを見据えたレベルに達しており、それらはいずれ義務化の見通しであるため、更なる高性能化のためには当然熱交換換気が必要となる領域ですので、国産の換気装置の開発もかなり多くのメーカーが手掛けている状況です。

また中国ではパッシブハウス奨励に加え、建設現場でのエミッションを減らすべく、政府が建築のプレハブ化を奨励しているため、最近は中国からの多くの視察団が日本のプレハブ住宅メーカーを訪れるという現象が起きています。しかし、日本のプレハブ住宅メーカーの家は、5~10センチほどの断熱材が入ったヒートブリッジだらけの構造、パッシブハウスの「パ」の字も見当たりません。ですので、日本の省エネは本当に進んでいるのか?と皆疑問に感じるとの事です。

という訳で、情けない話ですが2020年の省エネ基準義務化ですら、当然のように踏み倒されそうになっているガラパゴス日本において、少しずつアジアからの外圧で外堀が埋まっていくのを待つという状況になるのかも知れません。

 

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PHIの基調講演でのメッセージは、“Our world needs you(私たちの世界はあなたを必要としている)” もう他人任せではいられない、すなわち気候変動はそれ程切羽詰まった状況である。

 

 

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

残念ながら大半の実務者が「理科」の基礎が出来ていない。。。

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾 和也

講演中に少しでもやりとりしたいのでいろんな質問を投げかけてみます。その結果分かってきたことが今回の主題です。

中でも個人的にショックなことが2項目あります。1つ目は「雲は水蒸気、水、氷のどれでしょうか?」という質問への返答です。どこの会場で聞いても8割くらいが「水蒸気」で手が挙がります。これは唯一の完全不正解で大半が水、一部氷もあるというのが正解です。雲は水、もしくは氷の極小粒であり、だからこそ目に見えます。白く見えているという時点で絶対に水蒸気ではないのです。

これが分かっていないということは結露という現象も当然正確に理解は出来ていないことになります。結露とは「水蒸気が水に状態変化する現象」であり「暖かく湿った空気が冷たいところに触れたときに起こる現象です」この基本原則がわかっていれば、結露対策は「湿った空気を減らす」(空気を乾燥させる)か「冷たいところをなくす」ということが最重要であることがわかります。しかしこの基本原則がわかっていないので大半の方が「ファンを回す」という対策をとりがちです。

2つ目は「絶対零度が分かる方?」という質問への返答です。これに関してはだいたい1割くらいしか手があがりません。温度というのは上限がなく、どこまでも上がると言われています。(ただし、観測史上もっとも高い温度は2012年に行われた、LHCとも呼ばれる、「大型ハドロン衝突型加速器」の記録です。摂氏5.5兆℃にまで達しました。)

それに対して下限は電子の動きが完全に静止する-273.15℃が限界です。宇宙のいかなる場所でもどのような条件でもこれより下げることはできません。この温度を絶対零度といいます。光の速さが上限であることは大半の方がご存知ですが、それと同じようなことだと思っていただければわかりやすいかと思います。ただ、光速と大きく違うのは絶対零度はほとんどの大人に理解されていないということです。

ちなみに-273.15℃は別の言い方をすると0K(ゼロケルビン)ともいいます。摂氏が水の凝固点を0にしているのにたいし、ケルビンは絶対零度が0となっています。よって0℃=273.15Kとなります。SI単位系はKを使うのであらゆる省エネテキストが℃ではなくW/㎡KのごとくKが使われています。W/㎡℃とほぼ同義で、こちらの方がわかりやすいですが、Kが出てくることで実務者からはわけのわからない単位となってしまっています。

本来であれば中学、もしくは高校で習っていて覚えておかねばならない事項ですが、忘れられています。というか大半の方が「はじめて聞きました」とおっしゃいます。けれども基準を作られている賢い方々からすると「まさかそんなこともしらないはずはない」と考えていると思わます。その乖離を埋めるのも我々が省エネ建築診断士のような講習をやっている大きな理由です。

 


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