ニュースレター 2018年9月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

第3回PHAC in Seoul 視察レポート(前半)

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

 

8月30日~9月1日の3日間でソウルにて開催された第3回PHACは、IPAZEB(Institute of Passive and Zero Energy Building)が主催、共催のPHIKO(Passive House Institute Korea)と連携する形で、総勢200名近い参加者がありました。そのうちの50名ほどは中国からの参加、10名が日本からの参加となりました。今回日本から参加したパッシブハウス・ジャパンのメンバーは8月31日(金)のメインフォーラム及び、9月1日(土)の物件視察ツアーに参加いたしましたので、その様子をご報告いたします。

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photo-001 メインフォーラム最初の司会進行役は昨年東京で公演されたCho Yoon-Boum氏。

 

韓国の人口の半数近くが住むと言われる、ソウル市とその郊外は、北朝鮮との国境にも近く、冬の最低気温はマイナス15度、今年の夏の最高気温は40度超えと、その寒暖差55℃という過酷な気象条件です。高性能な建材もまだ開発途上の中、IPAZEBは独パッシブハウス研究所のコンテンツを使ったセミナーや、パッシブハウス認定のサポートを地道に行っています。

一方、早くからドイツ生まれのパッシブハウスを知るPHIKOの代表のJeongmann Choi氏は、その厳しい基準に、これではとてもでないけれど韓国では普及させられないと感じ、韓国で普及出来る“韓流”パッシブハウスを提案、その評価ツールもエクセルでゼロから組み上げてしまいました。

現在ではPHIKOは施工者や設計者向けに様々なセミナーを開催し、オンドル文化をひときわ大切にする韓国の人々のために、床暖房でもオーバーヒートしにくい?!省エネ住宅基準を提案しています。この二つの団体は、これまでそれぞれ独自に活動してきたそうですが、今回第3回パッシブハウス・アジア・カンファレンスのバトンが日本から韓国に渡ったことをきっかけに、共同で国際カンファレンスを企画してくださいました。素晴らしいことだったと思います。

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photo-002        主催者のIPAZEB, PHIKOのメンバー及びゲストのPHI, Francis Bosenick氏と。

 

今回PHJではこのカンファレンスに向けた視察ツアーを企画しましたが、恐ろしいことに、登壇者やアシスタント起用を除く正規の申し込みはなんとたったの6名!これまで50万円近い参加費の欧州視察ツアーが毎回定員20名に対して25名近い申し込みだった私にとっては、この半額に近い隣国へのツアーの不人気は、かなり想定外な状況となりました。

しかしその申し込み人数の差は、正に日本の大半の実務者が抱いている感覚を表しているようでした。“ドイツをはじめとした省エネ最先端のヨーロッパには学ぶものがあるはずだが、中国や韓国へ行って一体何を学ぶのか?”という感覚を。これまでヨーロッパ視察ツアーを複数回、何か月もかけて企画を練り、自ら現地での通訳も務めた私には、いつも気がかりなことがありました。

それは、ヨーロッパで素晴らしい事例を一通り見た後に、“日本は気候が異なるからね”、“こちらは地震もシロアリも来ないしね“、”日本には義務基準が無いからね”、“パッシブハウスに補助金が付くならやるよね”、と捨て台詞を吐く人が比較的多かったことでした。

勿論ヨーロッパでの発見を持ち帰り、その概念を、時間をかけて咀嚼し、日本版のプロジェクトとして完成させた方も多数いらっしゃいます。2009年から数年間ツアーをやりましたが、そのような日本版パッシブハウスが全国に複数完成し始めたころ、私はヨーロッパツアー企画の休止を心の中で宣言したのです。理由は簡単で、本当にまじめに高性能住宅に取り組もうと考えている実務者に見てもらうべきは、冬寒く夏暑く、地震もシロアリも襲うこの日本で、補助金も義務基準も無いまま完成したパッシブハウス事例だからです!

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photo-003        韓国の伝統家屋。風通しの良さは日本の伝統家屋と同じだが、冬の温かさは?

 

そうは言ってもヨーロッパは楽しそう、また行きたい・・・。そういう声を沢山頂きます。でもそのような感情は残念ながら中国や韓国には抱いて頂けない(涙)。愚痴みたいになってしまいましたが、隣国の国民に対するイメージを、ある程度メディアによって植え付けられてしまっている私たちには、はやり偏見が多いようです。

建築の省エネルギー分野に関して言えば、現在の中国と韓国は、ZEBへのステッピング・ストーンとしてのパッシブハウスが正しく認知されており、行政もパッシブハウスという言葉を発しながら、民間企業の取り組みを促している状況ですので、日本に比べてよっぽど真面目にやっているという印象が私にはあります。戸建て住宅だけでなく、集合住宅や街区、オフィスビル、公共施設などで、パッシブハウスが議論され、まずはエネルギー需要を極限まで減らしてから再生可能エネルギーを搭載するという世界の常識が守られているのです。ですから今回の韓国ツアー告知の総スカンに対して、私は“今に見てなさいよ!”と誓ったのでした(笑)。

思い返せば私が22歳でドイツに留学すると決めた時、私の大学の学科長は“なんでドイツなの?建築の最先端はアメリカなのに?”と首を傾げていましたから、自分の直感を信じて生きていくしかありません。

4泊5日の短い韓国滞在は、絶対湿度19g/kg超えの蒸し暑い日あり、大雨ありの過酷な状況の中、韓国での伝統的な暮らし方、現代のライフスタイル、そして未来の省エネ建築を垣間見ることが出来た、大変貴重な機会だったと感じます。

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photo-004        絶対湿度19g/kg超えの蒸し暑い気候の中、市内を散策。

 

今回のカンファレンスでは非住宅と住宅の二つのツアールートが準備され、非住宅ツアーは図書館や障害者向けの学校、オフィス等、私たちが参加した住宅ツアーでは、現在施工中の賃貸戸建て住宅街区(Osan Detached Housing Complex)、2010年竣工の韓国第一号パッシブハウス、そして今年7月にオープンしたばかりのYeongwol市が所有するユースホステルを見学しました。

Osan Detached Housing Complexはソウルから車で南に1時間ちょっと走ったOsan市にあるLH社による戸建て住宅街区でした。semi-Dと呼ばれる2つの住宅が一つの建物を形成するタイプのRC造の住宅が、59棟並び、エネルギー効率は住戸の方位によって若干の違いはあるものの、年間暖房需要が45kWh/m2前後となっています。

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photo-005        Osan Housing Complexの完成予想図。二つのメゾネット住戸が一つの棟をなす。

 

メゾネット型の住戸の床面積は85平米ほどで、賃貸スキームとしては、200万円の補償金を払えば、月45,000円の家賃で暮らせるという普及型モデルでした。2世帯分の総工費は3400万円。年間暖房需要では40~50kWh/m2のクラスで、全住戸に床暖房が完備されていました。

LH社は他にもソウル近郊の2か所でこのような事業を展開しており、こちらが3カ所目になるとのこと。高密度に住宅が建つ計画のため、RC造ですが屋根部分のみ鉄骨でプレハブ化して工期短縮を図っているとのことでした。

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photo-006        施工会社のposcoは韓国国内で最大の鉄骨メーカーだが、今回はRC造に挑戦。

 

2番目の視察物件は2010年竣工の、韓国で最初にパッシブハウス認定を取得した戸建て住宅(Yangpyeong Detached House)。ちょうど日本では2棟目の茨城パッシブハウスが竣工した時期です。

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photo-007        韓国で初めてパッシブハウス認定を取得した戸建て住宅は、自由なプランが魅力。

 

オーナーと施工者の強い意志で、パッシブハウスの「P」の字も知らないデザイン重視の建築家のデザインで建てた、というオーナーさんのエピソードが大変楽しい物件でした。

そのせいか斜面に建つこの住宅は、エネルギー効率のための“形状のコンパクトさ”は一切感じられず、この韓国の厳しい外気温で良くパッシブハウス基準をクリアしたものだと正直関心させられます。敷地の傾斜を利用してクールチューブを採用し、中間期は直接外気から換気装置の給気をとるためのダンパーを設けるなど、なかなかアイディアが詰まった物件でした。

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photo-008        傾斜地を利用したボリュームに、水勾配のあるクールチューブを上手く絡ませた。

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photo-009        アトリエや成人した子供の自立したスペースを確保するためのプラン。

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photo-010        外壁は永久型枠で施工のため、天井や床、内壁が蓄熱性能に貢献する。

 

詳しい仕様はこちらのデータベースをご覧ください。

リンクはこちら

最後の視察先は今年7月にオープンしたばかりのYeongwol Eco Villageの中にあるユースホステルです。Yeongwol市の発注でパッシブハウス仕様の設計が行われ、竣工後にユースホステルの運営事業者も入札によって選ばれました。

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photo-011        Yeongwol Eco Villageにあるユースホステルは今年7月にオープン。

 

客室は全部で19室、そのうち2室が車いす対応となっており、この地域の夏と冬の太陽高度を睨みながら、南面のファサードのデザインがなされたとのことでした。地下1F地上2Fの建物は、RC造ですが、地元の木材をファサードにふんだんに使うことは、発注者からの要望だったそうです。

地下には小型のペレットボイラーを2基備え、屋根面は前面に太陽光発電を設置、年間暖房需要は23.8kWh/m2とのことで、PHIのLow Energy Buildingのカテゴリーに該当します。当初の入札では7億円という総工費となり、市の予算を大幅にオーバーしてしまったため、総工費を3億にまで下げるために徹底的なVEが行われたそうです。

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photo-012        全ての部屋が南に面した掃き出し窓を持つ。

 

また当初計画されていたトリプルガラス入りのドレーキップのテラスドアは、宿泊客の多数である韓国の人にとって操作方法がなじみが無いとの指摘があり、一般的なペアガラスの引き違い窓を2重に取り付けたものの、気密性能を担保するのに苦労したとのことでした。013

photo-013        ペアガラスの引き違い窓を2重に設置。課題は気密性能だ

 

主催者手配のバスはその日の夜にソウル市内に戻りましたが、私たちはこのユースホステルで一泊しました。

実際に宿泊してみて驚いたのは、韓国で一般的な引き違いサッシは大変しっかりとした作りで、なんとオートロックであるため、バルコニー側から閉めてしまうと中に戻れないのです!確かに窓を二回操作しないと外に出られない煩わしさはありますが、夏の夜は室内側のペアガラスを開放すれば、トリプルガラスよりもナイトパージに有効かもしれません(冬に床暖房でオーバーヒートした際もペアガラスにするという裏技も?!)。

9月に入ったせいか、日中の暑さとは裏腹に、Yeongwol Eco Villageの夜は涼しく、窓を開放し、網戸を閉め、虫の声を聴きながらエアコンフリーで朝までぐっすりと眠ることが出来ました。ソウル空港から車で3時間ほどかかりますが、地下にはセミナールームも完備されており、ちょっとしたワークショップを泊りがけで行うのにも最適です。周辺にはBBQやラフティングの施設が多く、Yeongwolの週末は家族連れで賑わっていました。

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photo-014        チェックアウト後、ホテルのマネージャー、Seong-Hee Chooさんと記念撮影。

 

今回のツアーでは、残念ながら日本から行政関係者の方をお連れすることが出来ませんでしたが、このような運用事例を視察し、実際に体験宿泊しながら、現地の行政の方々と意見交換をする機会が今後持てたら素晴らしいなと改めて感じました。

ソウル市内には、ソウル市が音頭を取って実現したプラスエネルギー団地(Nowon Apartment Complex)があり、この8月にPHIの認定も取得しています。近年中国同様、韓国でも地方自治体が主導となってパッシブハウス・プロジェクトが誕生していることを、是非もっと多くの方に知っていただきたいと強く感じます。

長文となりましたが、次回は8月31日のソウル大学でのメインフォーラムの様子をレポートしたいと思います。

 

 

 

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

第高性能住宅で1台で冷暖房しているときの実効COPは暖房で3,冷房で7くらい

最近冷暖房の実効COPについてあれこれシミュレーションしていると今までもやもやしていたところがそれなりにクリアになってきました。
まずは基本的なことから、今のエアコンのカタログ能力表示は冬の外気温が7℃のとき、夏の外気温が35℃のときの能力を表示しています。まず、これを見たときに思うのは暖房に関しては「ゆるすぎるだろう」、冷房に関しては「昼間の実情に即してる」と感じるように思います。実際に、東京で見た場合、1月の1日の平均外気温は5℃台、2018年現在の1日の平均気温は30℃を超える日もありますが、だいたいピークでも37℃くらいまでで納まっていることが多いと思います。
さらに国の基準を詳細に見ていくと吹き出し補正と呼ばれるもので80%まで削減することが決まっています。もうひとつダメ押しで外気温が5℃未満かつ相対湿度80%以上になるとデフロスト補正も一律77%まで削減しなさいとなっています。
これらを加味すると、外気温が下がるほど最大暖房能力はかなり大きな変化率で小さくなっていくことが読み取れます。

Microsoft Word - 高性能住宅で1台で冷暖房しているときの実効COPは暖房で3-001

例えば外気温が0℃の表の読み方としてはカタログ上の最大暖房能力が12kWある14帖用200Vエアコンも12×0.553=6.636kWあたりがその瞬間における実質的な最大能力になるということです。
この結果だけ見ると、非常に怖さを感じると思います。ただ、実際に一冬でトータルで4000時間程度は存在する暖房時間の中でこのようなピークに達する時間というのは上手に設計していればせいぜい10時間以内になることが多いです。割合にしたら0.25%とかそういうオーダーです。。。その程度もしくはそれより多かったとしても高性能住宅で連続暖房運転していたら、住人が気づかないことのほうが多いと思います。

ただし。。。注意が必要なことがあります。上記の計算は14帖用の200V エアコンだということです。パッシブハウスレベルまでいけばそんな心配は要りませんが、G2レベルとかで簡易な暖房負荷計算にもとづいて6帖用エアコン等かなり小さめのエアコンを家全体に対して1台で構成した場合。。。上述の0.25%といった生易しい時間では済まなくなってきます。G2クラスくらいで本当に一瞬たりとも最大能力がオーバーする時間がないほうが良いと思われるのであれば、14帖用の200Vエアコンを選んでおけば間違いありません。いつも言うようにそれ以上大きな機種を選んでもどうせ最大能力は同じであることですし。。

最後にまとめですが、東京あたりをベースに考えると暖房の実効COPは3くらい、冷房は7くらいになっていることが多いです。そこから寒冷地に行くほど暖房の実効COPは徐々に下がっていき、逆に冷房のCOPはさらに良くなっていく感じです。先日ささっとシミュレーションしたときは東京と長野県松本市(冬はマイナス10℃を下回るときがある)で暖房、冷房ともそれぞれ実効COPで0.3ずつくらい違う感じでした。

エアコンに関しては奥が深く、私もひまを見つけては勉強しているのですが、これからもっともっといろんなことがわかり次第お伝えしたいと思います。