ニュースレター 2017年6月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

バウムシュラーガー・エバレのヘッドオフィスは究極のパッシブデザイン

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

6月に入りました。
今年はどんな梅雨になりますでしょうか?
そろそろドキドキしてくる今日この頃です・・。

私が惚れ込んだバウムシュラーガー・エバレ

さて、先月のメルマガではウィーンのパッシブハウス国際カンファレンスのご紹介と共に、長年バウムシュラーガー・エバレ(Baumschlager Eberle)という設計事務所に在籍していた建築家によるパッシブハウス仕様のローコスト学生寮のご紹介をいたしました。

このBaumschlager Eberle(以降be)は私がドイツで建築学生だった頃からその集合住宅の意匠性の高さに惚れ込んでいた設計事務所なのですが、今では180名の所員を抱え国際展開するようになりました。丁度日経アーキテクチャのウェブ版で、建築家、金田真聡(かねだまさと)さんによるbeのヘッドオフィス「2226」に関するレポートが紹介されていたので、今月も引き続きbeのトピックで配信させて頂きます。

「2226」は6階建てのオープンプランからなるオフィスビル。 (写真:Eduard Hueber Archphoto Inc. NY)

「2226」は6階建てのオープンプランからなるオフィスビル。
(写真:Eduard Hueber Archphoto Inc. NY)

機械よりも雰囲気を重要視したい

こちらの建物はbeの活動拠点であるオーストリア、フォアアルベルク州にあり、2013年に竣工した彼らのヘッドオフィスで、6階建て、有効床面積は2,421㎡、レンガ造。実は建物名である「2226」とは、冷暖房も機械換気も行わずに室温22℃~26℃を保つ、という意味なんですね。もちろん所員さん一人当たり80Wの発熱と、OA機器からの発熱を考慮した上でですが、究極のパッシブデザインとはこの事ではないでしょうか!?

オフィスフロアの平面図と断面図。フロアはかなり開放的な間取りで、通風を意識していることが伺える。 (出典:Baumschlager Eberle)

オフィスフロアの平面図と断面図。フロアはかなり開放的な間取りで、通風を意識していることが伺える。
(出典:Baumschlager Eberle)

「機械よりも雰囲気を重要視したい」建築家は設計の際のコンセプトとしてこの言葉を挙げたと言います。機械に頼り過ぎている現代建築に問題提起する形となりましたが、その過程で窓は通常のオフィス建築に比べて小さく、壁は厚くなり、伝統的な石造建築を連想させるデザインとなっています。断熱レンガといわれる、細かい空気層を沢山備えた断熱ブロックで厚さ760mmの外壁を形成、その室内側に開口部を設けることで、日射遮蔽を兼ね、内部発熱の多いオフィス建築で必要になる事が多い外付けブラインド等も排除。

断熱レンガの一例。空気層の代わりにロックウールなどの断熱材が詰められたタイプも。 (出典:http://www.unipor.de/produkte)

断熱レンガの一例。空気層の代わりにロックウールなどの断熱材が詰められたタイプも。
(出典:http://www.unipor.de/produkte)

ファサードにインテグレートされた換気パネルは自動制御される。 (写真:Jakob Schoof)

ファサードにインテグレートされた換気パネルは自動制御される。
(写真:Jakob Schoof)

北ヨーロッパの気候では、断熱材と蓄熱体により、軽装備に

実はこの建物、外壁のU値は0.14W/m2K、窓はトリプルガラス仕様で窓枠に外壁の断熱レンガで回り込み、パッシブハウス設計の際のポイントを全て押さえているのですが・・・。

熱交換換気が無いため、パッシブハウスには該当しないとのことです。いや正確に言うと、3種の機械換気すら無く、いわゆるパッシブ換気(デマンド換気)しかありません。

「2226」の換気は、ファサードの開口部に設けられたスリット状の木製の換気用パネルを、室内のCO2濃度や夏の室温を感知してビルオートメーションで開閉する仕組みです。もちろん使用者がマニュアルで開閉する事も出来ますが、10分後には自動制御に戻るとの事。冷暖房設備が無いのですから、これは仕方ないですね!

1Fの天井高は4.21メートル、2~6Fは3.36メートルという事で、空気の循環効率を上げているとの事です。

天井高3.36メートルを仕切るガラス間仕切り。 (写真:Jakob Schoof)

天井高3.36メートルを仕切るガラス間仕切り。
(写真:Jakob Schoof)

ということで、実際のオフィスビルのレイアウトや諸条件とはやや異なるところも多いようですが、自社ビルだからこそ出来た今回の挑戦です。北ヨーロッパの気候においては、膨大な断熱材と蓄熱体があれば、設備はどんどん軽装備になっていく、その究極版を、意匠系の建築家が自ら体を張って立証した意義は大きいのではないでしょうか?

金田さんの「2226」に関するレポートはこちらをご覧ください
(一部有料コンテンツです)
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldcolumn/15/00020/053000004/

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

巨匠たちが真面目に断熱を学びはじめました。
そこで我々が学ばなければならないこと

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

伊礼さんが数年前から強烈に断熱に目覚められています。最近では堀部さんも目覚められました。意匠系の建築家の尊敬を一手に集めるお二人が目覚められたのに、他の意匠圭建築家が言い訳することは極めて難しい状況になりつつあると言えます。これは本当に素晴らしく、かつ画期的なことだと思います。

高断熱だけでは仕事が取れなくない

逆に高断熱住宅を今まで熱心にやってきた団体、フランチャイズ等が周りが皆急速に高断熱化しはじめたことによって、もはや高断熱だけでは仕事が取れなくなってきています。そこで彼らは急に意匠の向上に取り組み始めました。

お互い自分が弱いところも重要だということに気が付きそこを補強しはじめているこの傾向は非常に素晴らしいことだと思います。ただ、どちらの方が難易度が高いかというと圧倒的に後者です。元から意匠のセンスがある設計者が断熱性能をあげることはやる気になって、コストがコントロールできさえすれば、比較的簡単に実現可能です。

しかし、逆は大変です。ある程度は基本法則のようなものに忠実に従うことで形を整えたりスッキリさせるところまではいけるかもしれません。ただ、そこから上にいくためには長年の修練、もしくは持って生まれたセンスなどがどうしても必要になることがあります。一条工務店が圧倒的な費用対効果で市場を広げている中で、やはり重要になってくるのは設計力である。このことがここ2年位で明確に現れてきたと思っています。

最終ゴールはその家に住むことで住まい手が幸せになること

意匠系の建築家も、高断熱住宅の工務店も最終ゴールは「その家に住むことで住まい手が幸せになってほしい」ということにあると思います。その手段として美しさであったり、暖かさ、涼しさがあると思います。意匠系の建築家はその幸せを実現するにあたって、これまでは「デザインが最も重要である」と考えてきたと思います。逆に高断熱住宅側は「温熱環境こそが最も重要である」と考えてきたのだと思います。しかし当たり前ですが、どちらも高いレベルにあるほうが、より幸せに暮らせることはいうまでもありません。そのことにお互いが気づき始めた・・・そのように捉えています。