メールマガジン 2017年2月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

エアコンからの脱却!? 台湾レポート

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

日本の皆さんにとっては、寒さはもううんざりという今日この頃ですので、今月のメルマガでは少し季節を先取りして、先日お邪魔した台北市内の“パッシブハウスの今“をご紹介いたします。

台湾のパッシブハウス認定は、冷房と除湿の合計負荷が年間29kWh/m2

台湾の気候は丁度沖縄と同じくらいですから、冬の暖房負荷はゼロ、夏の冷房+除湿の期間はなんと9か月! パッシブハウスが縁遠いような地域ですが、台湾を拠点とし、台湾と中国でコツコツとパッシブハウスを世に送り出している葉士傑さん(以降ジェイさん)にお会いしました。

彼はイギリスでパッシブハウス・コンサルタントの資格を取得されており、ご自身の設計事務所と、台湾パッシブハウス協会を主宰されています。これまでに既に3回、パッシブハウス・コンサルタント養成講座を開催されているとのこと。

さて、台北でパッシブハウス認定を取得する際は、冷房と除湿の合計負荷が年間29kWh/m2ということですので、日本の関西や中四国などよりも、湿度の処理が大変な地域という事がお分かりいただけるかと思います。インフルエンザが大流行している日本からすると、羨ましい環境ではありますが、快適かどうかはまた別の話。

台湾のマンションの玄関に驚いた

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そんなジェイさんのマンション改修現場に今回お邪魔しました。中古の高層マンションの一室を、エナフィット(EnerPHit)改修しようという試みです。

まずお邪魔して驚いたのはその間取り。階段室から玄関ドア(図面右下)を開けて中に入るとそこは外。そしてそこに大きなガラスの引き戸。そこを入るといきなりリビング!いきなりもう訳が分からない状態でしたが、なんとこれが台湾のマンションの典型的な間取りなんだそう。

私が住んだらすぐにゴミ置き場になってしまいそうな外部空間ですが、こんな住宅のエントランスを、今まで想像した事もありませんでした。それ以外はまあありがちなプラン。マスターベッドルーム(図面左下)にオンスイートのトイレとシャワーブースが付いているのは、イギリスなどで典型的なプランですね。

注目したい台湾のマンションの換気と冷房+除湿システム

さて、今回面白かったのが、換気と冷房+除湿システム。別にこれが目当てでお邪魔した訳では無かったので、尚更驚いた、という事なのかもしれませんが、この100㎡ちょっとの床面積のフラットで、換気経路で冷房+除湿を行うための設備が試験的に、そしてなんとバルコニー空間(図面中央上)に取り付けられていたのです。

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写真はバルコニーの様子をキッチン側から撮影したものです。ジェイさんが見上げているシルバーの箱はzehnder社の全熱交換型換気装置。室内からの排気と熱交換された外気は、写真奥の黒いボックスへと送られます。この黒いボックスは中国メーカーのファンコイルユニット。同じく中国製のヒートポンプからの冷水をこのファンコイルに送ります。日本市場と同様、通常のファンコイルユニットには送風用のファンが付いていますが、これがパッシブハウスでは不要、というよりも邪魔なので、ジェイさんはメーカーにかけあってファンコイルユニットのファンを取り外し、換気装置のファンだけで運転できるようにしてもらいました。

日本のパッシブハウスの挑戦が、アジア圏にも広がっている

なぜ私が日本で試験的に試みているような事が、各国に飛び火するかというと、パッシブハウス研究所の研究者たちが、アジア圏で誰が何をやっているという情報を、隣国のパッシブハウスに取り組む人々に投げているからです。

茨城パッシブハウスでの昨年夏の実測データはドイツのパッシブハウス研究所をハブとしてアジア圏に情報として分散し、じわじわとエアコンメーカーさんをその気にさせているような気がします。これは私の妄想かもしれませんが(笑)。換気風量だけで冷房+除湿運転をするという事は、150立米程の外気を冷媒に接触させるということ。エアコン式で600立米程の室内空気を冷媒に接触するケースと比べて、除湿効率が大幅にアップするため、茨城パッシブハウスでは昨年の7,8月に室温25℃、絶対湿度9g/kgを全館で24時間維持しました。

これまでルームエアコンで達成できる絶対湿度は13g/kgと言われてきましたので、通常のエアコンでは取り切れない湿気を、デシカント除湿器で除去したり、エアコンの再熱ドライで除去したりしてきた訳です。

日本のレンジフードメーカーさん、台湾進出のチャンスです!

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しかしこれまで日本同様に各部屋にルームエアコンを付けてきた台湾の人達にとって、給気回路だけで完結させるというのはにわかに信じがたく、ジェイさんも保険をかけて、別途除湿装置を設けていました。こちらの写真は室内のキャビネット・スペースの様子。

室内からのリターン回路(一番下のダクト)の途中にアメリカ製の除湿器(キャビネット中央の白いボックス)。なんか電気食いそうですけど・・。こちらにパイプファンが入っており、給気量で除湿が足りない場合は、室内からの空気を吸い上げてラジエーターボックスに押し込むそう。右上にある白いボックスは、室内からのRAダクトのフィルター。各吸い込み口にはフィルターは設けず、メンテナンス出来る位置にまとめて取り付けているのが良いアイディアだと思いました。それ以外にも、集合住宅のパッシブハウス化におけるヒントを頂けた有意義な視察&意見交換の機会でした。

最後に、ジェイさんの目下の悩み事としては、ガスコンロが必須な台湾の住宅において、気密住宅対応の同時給排タイプのレンジフードがまだ市場に無い事だそう。日本のレンジフードメーカーさん、是非進出お願いします。

パッシブハウス台湾のウェブサイトはこちら
http://www.passivhaus-taiwan.org/

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

良い家づくりには必須、幅広い知識と計算能力!

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

日本は建築において、非常にやっかいな条件が重なる“最難関地域”です。様々な知識と計算能力が絶対に必要ですが、最近いろんな情報が入って来て、改めて悩まされています。この状況は、お客様にも、会社にも、よくありません。

「誰のために」「何のために」家を作るのか

具体名は避けますが、一部の構造用面材が壁倍率2.5倍と謳っておきながら実際には1.7倍程度の強度しかないこと。そのような認定を見直そうとしても、メーカーの力が強いことや既存不適格問題から実質的には不可能なこと。

熊本地震以降、耐震等級1の住宅にカッコだけ制震ダンパーをつけてほとんど意味のない「なんちゃって制震住宅」が拡大していること。また制震ダンパーメーカーもそういう工務店の「制震ダンパーさえついてれば売りやすいんだから、本数減らしてくれる?」みたいな対応に安易に乗っかっているメーカーが多いこと。統計的に明らかに地盤沈下の件数が多い地盤改良方法が存在する・・・。

このようなことが起こるのは「誰のために」「何のために」家を作るのか。自分がやっている仕事はその中のどういう役割を担っているのかという根本的な概念が欠如しているからだと思います。

計算をやらない = 費用対効果が高い順に予算配分ができない

省エネ、断熱、構造、耐久性・・・どれも欠くことのできない分野ですが、ほとんどの工務店が山のように送られてくるカタログと、営業マンの良し悪し+価格で採用の判断を検討していると思います。

一人でも良いので価格的検証、性能の検証をやっているのであればまだいいのですが、そういうことをやれている会社は非常に少ないと言わざるを得ません。

私は新卒時に住宅メーカーに務めていました。住宅メーカーには研究所がありますが、彼らはどちらかというとお客様のためというよりも「アフターメンテンナンスが少なくなること」を最優先に研究を行っていたように思います。だからこそ、断熱や気密に力を入れる住宅メーカーが少ないのに対して雨漏りや腐朽、防蟻に関する研究はかなり熱心に行われていました。

実際、シロアリの発生率を比較すると工務店が2~4%で発生するのに対して住宅メーカーは0.04%と50~100倍もの差があることはほとんど知られていません。

計算をやらないということはイコール費用対効果が高い順に予算配分ができないということになります。よってお客様も損しますし、会社としてもコスト競争力が下がります。

10年以上経ってから、しっぺ返しがやってくる

また、上記のように危ないやりかたをやっているとそのしっぺ返しは10年以上経ってから必ず降り掛かってきます。軒ゼロのシンプルデザインで一気に拡大した会社の大半が10年後の雨漏り多発で倒産しまくっている事実をどれだけの方が知っているでしょうか?

日本は地震、台風、豪雨、シロアリ、高温多湿、低温乾燥等々非常にやっかいな条件が重なりまくった条件の地域です。このような最難関地域で長年性能を担保できる住宅を建てるには様々な知識と計算能力が絶対に必要です。