メールマガジン 2016年11月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

上海パッシブハウス事情レポート

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

今回のメルマガでは、先日開催された上海での「第三回中国パッシブハウス・カンファレンス」のレポートをお届けします。建設ラッシュが止まらない中国・上海での、パッシブハウス事情には今後も注目です。

カンファレンスのプログラム

カンファレンスのプログラム

北京や上海を初めとする中国の大都市ではマンションの建設ラッシュが止まりません。政府は年間10万戸以上の住宅が建設される都市に対して、住宅購入の際にその購入額の18%を先払いさせるよう求めているとのこと。更に北京では単身者には2軒以上の住宅購入禁止、上海では銀行に対し、3軒目の住宅購入者への与信を禁止しているそうですが、それでも投資目的での住宅購入は後を絶たず、上海で販売中の新築マンションの中には、販売価格400万円/坪というのもザラにあるようです。そんな上海で今年は第三回中国パッシブハウス・カンファレンスと称するイベントが、10月27-28日で開催され、私も参加して参りましたので少しご報告いたします。

開会後はこの会場が満席になりました。

開会後はこの会場が満席になりました。

今回の上海行きは、「10月末のジャパン・カンファレンスの開催を来年に先送りしたのなら、上海に来ないか?」とPHIのカウフマンが電話で打診してきたのがきっかけで、訳も分からず発表のレジメを主催者に送り、渡航の準備をすることに。先月青島のカンファレンスに出席したばかりでしたが、中国には幾つものパッシブハウス推進団体があり、今回のカンファレンスの主催はPassive House Alliance of Chinaという団体でした。サポーター企業としてはアメリカから中国に入ってきているLANDSEAというデベロッパーが筆頭で、先日中国でパッシブハウス用の木窓の生産を開始したSAYYASや湿式外断熱のStoなどですが、当日のメーカーブースには15社程が出展、高性能建材をアピールしていました。一方で一般参加者の数は150~200名程で、参加費は昼食付きで800元(およそ12、000円)とのことです。

LANDSEAのCEO、谢氏による上海の温湿度の解説

LANDSEAのCEO、谢氏による上海の温湿度の解説

どの国でも流派が分かれるパッシブデザインの性。

カンファレンスは2日間のプログラムとなっており、初日がホテル会場でのプレゼンテーション、2日目が2ルートに分かれての物件見学。初日は主催者挨拶の後、午前に4人の基調講演、午後はサブフォーラムで20分刻みの発表が夕方6時までノンストップで行われるスケジュールでした。サブフォーラムは、施工、デザイン、施工品質管理、建材の4つの部屋に分かれ、私はデザインのグループでの発表となりました。今回ゲストとして海外から招かれたのは、PHIのベアトホルド・カウフマン(Berthold Kaufmann)氏の他、フラウンホーファー研究所のクリストフ・ミットラ(Christoph Mitterer)氏、アメリカからはPHIUSのカトリン・クリンゲンベルク(Katrin Klingenberg)氏、そして私の計4名。PHIUSのカトリンとは以前電話会議で話をしたことがありましたが今回初めて会う事が出来、四方山話が止まりません。彼女はエイモリー・ロビンス博士とも親しく、ロッキーマウンテン研究所の新社屋の写真も見せてくれました。PHIUSはフラウンホーファー研究所の開発するWUFI Passiveというソフトを使ってアメリカ国内のパッシブハウス認定を下しており、その独自の活動展開が原因で数年前にPHIと不仲になってしまった事で知られています。フラウンホーファー研究所がWUFI Passiveをリリースして以来、PHIとの関係は更に悪化したようで、そこにWUFI Passiveを愛用するPHIUSが加わり、同じく上海に呼ばれたカウフマンの頭痛の種となった訳です。主催者達の態度から、PHIが主賓であるのは疑う余地も無いのですが、日本から加勢を呼びたかったカウフマンの気持ちも察する事が出来ました。そんな訳で初日の夜は上海蟹を食べながらもPHPP定常計算派とWUFI非定常計算派の緊迫した間を取り持つ、私はそんな面倒な役回りでした。

Katrin Klingenbergの発表。アメリカでは気象条件ごとに異なる認定基準を設定している。

Katrin Klingenbergの発表。アメリカでは気象条件ごとに異なる認定基準を設定している。

定常計算vs 非定常計算は続くよどこまでも。

全国展開するデベロッパー、LANDSEAは今後の自社物件の標準仕様を見極めるために、PHPPversion9を駆使して必要な外皮性能や開口部選定を行っています。もともと大規模なマンション計画が多いため、外断熱100mm(但しNeopor EPS)と窓U値2.0W/m2Kで熱交換換気を入れればパッシブハウスの出来上がりという状況ですが、政府が求める外断熱40mmからのコストアップを取り戻そうと、高性能な躯体向けのスマートでミニマムな設備を探している様子でした。2日目の会議では海外からのゲストとPassive House Alliance of China、そしてLANDSEAの開発メンバーによる、意見交換会が開かれ、上海を初めとする中国におけるパッシブハウス仕様の在り方について、話し合われましたが、その際私はPHPP vs WUFIすなわち定常vs非定常という正面衝突を回避すべく、かなりの気を使って発言しなければなりませんでした(笑)。それでも湿度の話になると皆白熱してしまい、話が平行線になったため、私は日本の住宅物件の一つでも使って、PHPPとWUFI Passiveの両方で計算した結果を持ち寄って来年8月のアジアカンファレンスで意見交換をしようじゃないかという提案を出し、エアコン式よりも給気冷房式の方が室内の絶対湿度が下がった国内の実測例を紹介し、高湿度の地域における、高性能住宅とエアコンのミスマッチの可能性についても意見しました。いずれにせよ、先日の青島のカンファレンスよりもよっぽど議論が進んでおり、飛び交う意見は日本でも良く耳にする内容だったのが印象的でした。

白熱する議論。左一番前から順に徐氏、その次にカウフマン氏、パッシブハウスコンサルタントの姚氏、PHIUSのカトリン・クリンゲンベルク氏

白熱する議論。左一番前から順に徐氏、その次にカウフマン氏、パッシブハウスコンサルタントの姚氏、PHIUSのカトリン・クリンゲンベルク氏

どっちが鶏でどっちが卵なのか、分からない状態を作り出せ!

白熱した議論の中で、“換気、冷暖房を一手に引き受ける、夢のような設備が今市場に存在しないのに、パッシブハウスの躯体性能を推進するのは、鶏と卵の状況なんじゃないか?”と誰かが言いました。“年間2000戸の住宅を提供するデベロッパーが、プロトタイプみたいな設備を率先して採用するリスクを負う事が出来るのかい?”と。その時Passive House Alliance of Chinaの代表を務める徐氏が発言しました。“あるものしか使わないというルールで、パッシブハウスがそもそも生まれたと思うかな?”と。“例えば中国の大きな住宅需要で、日本の優れたヒートポンプメーカーを動かす。そのスマートな設備が、パッシブハウスの外皮の更なる魅力となる。そういう仕掛けを作るのが、ここに集まったメンバーのミッションじゃないか? 誰も見切り発車をしたくないのなら、鶏と卵の双方同時に説得すればいいだけさ!”と。

坪400万円越えのオクションのモデルルーム。

坪400万円越えのオクションのモデルルーム。

議論はランチを挟んで再開します。相変わらずカトリンはピーク負荷を求めるための非定常計算が必要性だと一点張り。彼女の決まり文句は“実物件はPHPPよりももっと複雑よ。”それに対して“わざわざ計算を複雑にして、そこにお金と時間を費やして得られた計算結果の誤差は一体どれ程なのかな?“とカウフマンが応戦(PHIはPHPPがシンプルだと思っているらしい!)。余りにも議論が白熱し過ぎて私は会議を抜け出すタイミングを見誤り、Taxiと地下鉄での移動では帰りのフライトに間に合わない事が発覚・・。急きょ途中下車してリニアモーターカーに乗り換え、時速431km/hの列車の旅を体験するという想定外の展開となりました。ちなみに431km/hは乗車時間7分半の内のおよそ30秒程だったでしょうか。結構な音がして、落ち着いてひと仕事出来るような速度ではありませんでしたが、私が後回しにし続けてきたWUFI Passive のフリーダウンロード、いい加減やらないとなあ、なんて思いながらの帰国となりました。


パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

エコハウス大賞の審査の現場から・・・この一年で劇的に断熱性がアップしています。

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

10月27日東京ビッグサイトにて昨年に引き続き、建築知識ビルダーズ主催のエコハウス大賞が開催されました。昨年の審査員である伊礼さん、西方さん、前先生、私に加えて堀部さんも入られました。応募作品は、昨年に比べて、非常に高いレベルとなりました。

たった1年で起こった劇的な変化

昨年の審査では意匠系の大御所伊礼さん1名に対し、温熱系の3名と伊礼さんの分が悪かったような感もありました。ところが今年から堀部さんが入られたことによってかなりバランスが取れたように思いました。私にとっては二人の大御所がどのようなポイントを見ているのかということ自体が非常に興味を惹かれました。

昨年の審査では次世代省エネ基準すれすれのような物件、樹脂アルミ窓を使った物件、建売とたいして変わらないようなデザインの物件がかなりたくさんありました。ですので選考に当たっては一気に絞ることが出来た感がありました。

ところが今年は全く違いました。まずはG2レベルをクリアしているような物件が大半、窓は樹脂サッシでペアは当たり前、トリプルも多数見られるようになりました。しかもその上で設計力も高い作品が大半を占めました。「たった1年で住宅業界に何が起こったのだろう」と思わずにはいられないほどの劇的な差を感じました。

ポイントは設計力、デザイン、性能、コストのバランス

そんな中で今年も東北エリアの三浦さんが大賞を受賞されました。上述のような状況だったので、審査は非常に困難でした。設計力を前提とした上で性能を見る傾向が強い伊礼さんと堀部さん、その逆の西方さん、前先生、私・・・優秀賞の4作品にどれを残すかで議論が膠着している状況で、私がポッと出したのがそれまで外れていた三浦さんの作品でした。おそらく60以上あったので偶然見過ごされてしまったのかと思いますが、この作品を出した瞬間、審査員一同の意見がまとまりました。三浦さんの作品がなかったら延々と議論が続いていたかもしれません。

大賞が選ばれた理由は設計力、デザイン、性能、コストのバランスが非常に高いレベルで実現されていたことにあると思います。

いろんな作品がありましたが、私が重要視したのは「奇策をやるのは良いが、奇策に走るのであれば王道をきちんと抑えているかどうか」ということ。それと「隣家の状況も見据えた冬の日射取得、夏の日射遮蔽」でした。例えばですが、「草屋根をやっているのに窓の性能が低い」みたいな本末転倒の予算配分をしている物件は除外しました。また、応募してくる作品はどれも断熱性、気密性は高いレベルに来ています。であればこそ、差がつくのはデザイン、設計力。そして性能面からいうと冬の日射取得と夏の日射遮蔽です。

8割の普通の人にとって「冬の日射取得の最大化」は大事なポイント

堀部さん、伊礼さんが審査員に入られたことで見えてきたのは「冬の日射取得の最大化」に関しては設計のワンパターン化、及びプライバシー、まぶしさ等の問題からそれなりに懸念を抱かれているということでした。冬の日射取得は断熱や気密のような「マイナスの解消」ではなく「プラスの獲得」みたいな行為です。

よって建築的魅力を犠牲にしてまでも「プラスの獲得」に走らなくてもいいんじゃないの・・・というのが根底にあるように見受けられました。これは確かに同意せざるを得ないところもあると思います。ただ、個人的には8割の庶民はプラスの獲得を狙うべきであると確信しています。残りの経済的に余裕がある2割の方はお金と太陽光で暖かさとCO2問題をカバーするという方法も駄目ではないと思います。(G2とC値1を切っていればという条件で)実際に伊礼さんや堀部さんのところに設計依頼をするような方は自ずとそういった方になっているとは思いますが・・・