ニュースレター 2016年5月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

パッシブハウス・ジャパン代表森みわ

第20回国際パッシブハウス・カンファレンス レポート<前編>

今年は第20回目の国際カンファレンスという事で、25年前にパッシブハウスが生まれた街、ダルムシュタッドに戻ってくる形で、パッシブハウス研究所のホームタウンでの開催となりました。

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会場となったダルムスタディウム(Darmstadtium)はウィーンの建築家Talik Chalabiによる設計で、ドイツのDGNB(アメリカのLEED認証に相当)でカンファレンスセンターとして初のシルバーを獲得しています。屋根で集めた雨水は地下の350立米タンクに蓄えられ、換気システムと熱交換する事で建物内への給気温度を調節し、最終的にはトイレ等で中水利用がされていました。この規模の建物において、“基本的には内部発熱が暖房エネルギー源ですが”とパンフレットに断っているところがまた凄いですが、一応暖房の補助として、地下にはウッドチップボイラーが完備され、地元のバイオマスエネルギーを利用する事で、燃料輸送時のCO2発生を最小限にしているとの事です。屋根の上には当然太陽光パネルも。

今回のカンファレンスの事前申し込みは約1000人、初日には大ホールの席が埋め尽くされたため、当日参加も含めると1200名程の参加者であったと思われます。ドイツ国内からの参加者は最多の400人、それに続いて一番多かったのは、中国からの140名の参加者です。今回日本からは10名程の参加者がいらっしゃいましたが、各国のキーパーソンからは、“たった10名?”と言われてしまう所が少々悲しいところではありました。

PHJ賛助会員企業から6社,恵那の金子建築工業から3名、東大の前先生、その他には太陽光発電モジュールを製造している日本の化学メーカーの海外在住の方が“パッシブハウス”について情報を集めよ!という指令を日本の本社から受けての参加。建設業以外でもこのキーワードが知れ渡りつつある事は喜ばしいことでした。ちなみに金子建築工業の渡邊さんはこの度クーラー・アンドレアさんのサポートの元、晴れてパッシブハウス・コンサルタントの資格を取得されたとの事で、その認定証の授与式も行われました。渡邊さんのこれからのご活躍に期待!

今回の基調講演及びパネルディスカッションには、ジャーナリストのフランツ・アルト(Franz Alt)氏、ファクター5の著者であるエルンスト・ウルリッヒ・フォン・ヴァイツゼッカー(Ernst Ulrich von Weizsaecker)博士といった、豪華メンバーが登場します。

2日間のカンファレンス開催中、複数のカンファレンスルームでの同時進行によって、パッシブハウスにまつわる様々な発表が行われました。今年は例年の英語、ドイツ語に加え、中国語の同時通訳が加わった事が、中国からの参加者が劇的に増えた理由の一つでしょう。

実はこの日はNYにて、175か国がパリ協定に署名をする記念すべき日でした。時差の関係で詳細は翌日まで明らかになりませんでしたが、その署名に加わった中国とアメリカを絶賛するコメントが二日目のクロージング・セッションであった一方、原発を再起動させた日本の安倍政権には厳しい批判の言葉がありました。今日本の国民が新たな原発再起動を阻止するために運動を行っている事も伝えられました。原発を止めるかどうするか、という議論はほぼほぼ終わっている状態で、パネラーたちの目下の関心事は、核兵器を地球上から撲滅させる事でした。原子力産業が、核兵器製造と切っても切れない縁で結ばれている事は、彼らにとって暗黙の了解であるようでした。

カンファレンスを締めくくるパネルディスカッションにおいても、パッシブハウスがどうのという議論は全く無く(笑)、今の資本主義社会のリーダー達には倫理観が求められている、というメッセージが放たれ、世界平和のためにそれぞれのプロフェッションが全力で情報発信をしていく事に関して、同意が確認された、そんな場となりました。

メーカーブース展示

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今年のブース出展メーカーは総勢60社でしたが、その内窓メーカーは18社、換気システムのメーカーは11社ありました。換気装置に関しては近年、70立米程の小型の機種のバリエーションが増えており、私が注目したのは外壁の中にすっかりインテグレートされてしまう、銅線を編んだ熱交換素子を使った換気システム。そのユニークな素子は畳表のような見た目をしており、食洗器に入れて洗ってもらっても構わないという所が斬新でした。

デザインPHの更なる進化

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昨年発表されたスケッチアップのアドオン、デザインPHですが、今年は更なる進化を遂げていました。燃費ナビ同様、影の影響を自動計算してくれますが、これまでのように障害物が水平線上に無限の長さで立っている、という想定から、実際の障害物の“幅“を考慮した係数を自動算出するようになりました。これならパッシブハウスの認定プロセスにおいて、主観による誤差を排除する事が出来るだけでなく、密集地域のパッシブハウスにおいて、影の影響が過大評価されることを阻止してくれるという意味で、日本の物件には朗報です。

デザインPHを購入すると、PHPPバージョン9のライセンスを所有している事を条件に、無料お試し版からプロ版へのバージョンアップが可能となります。詳しくはPHJ事務局までお問い合わせください。

http://www.designph.org/(デザインPHに関する英語サイト)

後半は次号メルマガにて

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

来たるべき自然災害に対応できる住宅を供給する義務がある

熊本で大震災が起こりました。現地の皆様の復興を切に祈るばかりです。

震災が起こると、一般の方も我々建築実務者も「構造をしっかりしよう」という流れが数年続きます。フェイスブックでも書きましたし、次の日経ホームビルダーの記事にも書く予定です。震災後一週間の一番苦しい時期に比較的苦労せずに生きのびられるかどうかは暖房負荷と冷房負荷に優れるか否かにかかってきます。これはPHJの会員の皆さんにとっては言うまでもありません。

逆にPHJの会員の皆さんが注意すべきところはむしろ「構造をしっかりしよう」という部分だと思っています。断熱は熱心でも構造に関しては「それなり」という工務店さんを結構見かけます。例えば皆さんは木造2階建住宅では義務化されていない許容応力度計算を全棟行っているでしょうか?仮に行っているとした場合、その上で耐震等級3を確保しているでしょうか?

耐震等級3というのは大手住宅メーカーでも6社しか実現していないレベルです。しかしながら、そのレベルでも絶対に安全とは言い切れないということも言われています。

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/atcl/bldnews/15/042100589/?n_cid=nbpna_fbbn

ということは最低限耐震等級3を謳うということが地震大国日本で実務をやる限りは実現すべきであろうと私は考えています。積雪地においてはこれは非常に難しいことは重々理解しています。私はこの場合、次のような社内規程を設けています。「どうしても耐震等級3が難しい場合、対外的には耐震等級2を当該地の積雪に合わせてクリアするようにし、積雪がない条件では等級3をクリアできるようにしておく」という設計手法です。地震は積雪時にも来る可能性があるので、逃げと言えば逃げかもしれませんが、あまりにも耐力壁だらけになる積雪地での現実的な設計手法ではないかと思っています。

構造計算をしないと、基礎の鉄筋量も一律になってしまいます。しかしながら等級3で設計すると殆どの工務店が驚くほどの鉄筋量になります。また、当社ではそれ以上に梁のたわみ量の基準値も厳しい方に変更しています。デフォルト設定だとL/300ですが、これだと4Pを超えるような梁で、かつ下に4枚引き戸等がある場合、開閉不能になってしまいます。よってL/500かつたわみ量が1cm以内というように厳しくしています。

こういったことが構造設計においては最初に取り組まねばならない基本であると思います。しかし、こういうことをやる前に「制震ダンパー」や「制震シール」といったグッズに飛びつく実務者をたくさん見てきました。それは省エネ住宅の手法でいうと断熱、気密に取り組む前に遮熱と蓄熱に取り組むようなものだと思います。決してその手法が悪いわけではありませんが、ものには順序というものがあるということです。

こういった大震災が起こったときにこそ、基本をしっかりと見つめなおす必要があるのではないかと思うのです。

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