ニュースレター 2019年8月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

人が湿度に鈍感なのは、低湿度の場合だけ!

~「2226」を考察する~

先日キーアーキテクツのブログに書いたテーマですが、反響が大きかったので本メルマガで再度ご紹介させて頂きます。夏の省エネを考える際、エアコンの使用量を減らしたいと誰もが思いますね。でもパッシブデザインをされている方はもうご存知の通り、外皮の性能が上がり、正しい日射遮蔽がなされていれば、エアコンに求められる容量が小さくなるだけでなく、エアコンを使用する期間が短くなります。要するに、暖房や冷房を使用しない、“中間期”が長くなる訳です。但し、この中間期の長さをカウントする時に、注意しなければいけないこととして、湿度の扱いがあります。要するに、室温が27℃以下であれば、どんなに多湿であっても、“快適”であると想定して良いのか?という事です。この答えはNOです。6月の梅雨時をイメージして頂ければそれは明らかですね。人が湿度に鈍感と言われるのは、低湿度に対する話であって、高湿度に対しては当てはまりません。高湿度下では、汗の蒸発が上手く行かず、気化熱で体温を奪う事が出来ない結果、暑苦しくなります。ですから室温さえ27℃以下であれば、住まい手がその多湿環境を受け入れ、多少寝苦しくても、押入れの中がカビだらけになっても、窓を開け放し続けるという事はありません。勿論、エアコンが無い家では選択肢は無い訳ですが、今やエアコンは贅沢品ではありませんので、生活に困窮している人を覗いて、その気になったら買いに行くことが出来ます。

さて先日、オーストリア出張の序に、私がドイツに留学していた2000年から注目している建築設計事務所、Baumschlager & Eberleの新社屋をLustenauに訪ねました。彼らの集合住宅はとても規則正しいファサードデザインの中に温かみがあり、一方建築の内部は光の拡散を最大限に生かしたミニマムな素材と色による神秘的ともいえる空間で、学生時代にとてもあこがれた存在でした。彼らは当然オーストリアの行政が求める省エネ基準をクリアしなければ仕事になりませんので、幾つかのパッシブハウスも手掛け、近年のヨーロッパの傾向である、“建築総工費の中の設備コストの割合の多さ”にも頭を悩ませていたそうです。実際ヨーロッパの新築の建物において、設備コストは全体の3割を占めていると言われています。ある日Eberle氏のアイディアで、冷暖房換気設備の一切無い建物を成立させようという事になり、大半のエネルギーコンサルタントは無理だと断ったにも関わらず、建物の蓄熱性能と窓開けによる通風とナイトパージと自動制御で、彼らはこれを成立させてしまったのです。

その名も、「2226」。最低気温が22℃を下回らず、最高気温が26℃を上回らない。それを、冷暖房換気設備の無い建築でやってのけたのです。このぶっ飛んだアイディアを、私が大好きな意匠設計者がやってのけた事を、私は本当に嬉しく思う一方、実際に建物を視察してみて思う事を書きます。断熱嫌いな通風信者が日本の実務者に大変多いため、ヨーロッパの最先端エコ建築に設備が無いと聞いて喜ぶ方が多い事もあり、敢えて書きます。

日本で真似ができる技術的要素が極めて少ない。

彼らは年々複雑になる外壁構成の真逆である、シンプルな単一の材料で構成したいと考え、レンガ壁の外部と内部に漆喰を塗って建築を仕上げました。気密シートや防水シートなども一切使っていません。日本だとまず、レンガ造で5階建てが建ちません。またこの建築は、断熱を辞めた訳ではありません。内部に複数の空気層を持つ、断熱レンガを使用し、レンガ壁厚80センチで最大限の断熱性能を確保しています。RC造で同等の断熱性能を確保するとしたら、外断熱工法を採用する以外ありません。また、構造的には40センチで成立するレンガ壁厚を、敢えて80センチにして蓄熱性能を上げていますが、それでも断熱レンガの蓄熱量に比べ、圧倒的な蓄熱性能をRCスラブが担っています。 よって、外壁の一番重要な性能は断熱性能であり、それに蓄熱性能を出来る範囲で割り当てているという理解が正しいと思います。

他のドイツやオーストリアの地域と同様、この地域の夏には除湿負荷がありません。パッシブハウスも住宅であれば、冷房設備無しで通風だけで基準をクリアする事が出来ます。今回はオフィス建築であるため、住宅よりも内部発熱が多いため、苦戦しています。

そこで窓の割合を外壁面積の12%まで減らし、日射の侵入を減らしています。更に窓を壁厚の最大限内側に取り付けているため、全ての窓に80センチの庇と袖壁がある状態です。外付けブラインドを付ければ、冬により日射が入り、夏はより遮蔽出来るものを、恐らくこの彫刻的な建物の意匠を優先し、外付けブラインド無しでやろうとしているため、日射を減らさなければいけません。開口部は全てフィックス窓とし、木製サッシ枠の見付けを最小にすることで、断熱性能を最大限に確保しています。フィックス窓の横にある真空断熱材入りの木パネル扉は電動開閉式で、換気やナイトパージ用に自動制御されます。このパネルを、北側に配置し、フィックス窓を南側に追いやる事で、東西からの日射の侵入を防御しています。それでも開口部の高さは3メートル近いため、東西面のガラス面の3分の2以上に日射が当たります。日本の夏ではこの時点でアウトです。建物の天井高は3メートル近くあり、日本のオフィスや住宅に比べ、建物容積に対する人口密度が極端に低いのです(日本の設計事務所とは大違いです!!)。

それでもオフィス建築は内部発熱が多いので、冬は無暖房で22℃近くになるようです。もちろんトリプルガラスの木製窓の断熱性能は大変高く、窓から入った日射は建物に蓄熱されていきます。それでも長期休暇が続いたりすると、室温が下がってきてしまいます。一度下がってしまうと、蓄熱量が膨大なこの建物を温めるのにとても時間がかかります。そこで、そのような場合はなんと照明器具として位置づけられているハロゲン電球が自動で点灯するという隠し技が・・・。

以上、外付けブラインドを採用せず、緊急時の暖房熱源としてのハロゲン電球は採用という意味では、やや突っ込みどころのある建築ではありますが、昨年は1年間の内、22℃以上26℃以下をキープできなかった時間が合計100時間だったそうです。 これは驚異的であり、冷暖房設備をふんだんに入れた通常の建物であっても、利用者の満足度は100%に達しないことを踏まえれば、これは許容範囲と言えそうです。こんな建築なら100年なんか余裕で超えられます。全ての建築家の憧れだと思いました。しかし日本の気候でこれを真似しないで欲しいのです。夏の湿度対策が出来ない状態では、クレームになり、住まい手が後から家電店でエアコンを買ってくるのが落ちでしょう。

それでも日本の断熱嫌いな通風信者がこの建物を見て、似て非なる建築を日本でやろうとするかもしれません。27℃の室温上限は、いつの間にか風速により緩和され、きっと出来上がった建築の名前は 1632」と名付けられるのではと、私は心配なのです(笑)!!