ニュースレター 2018年11月号コラム

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パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

100年後のエコハウスを考える

パッシブハウス・ジャパン代表理事 森みわ

今年のパッシブハウス・オープンデーには全国で123組の参加がありました!今年も例年通り大変お天気が良く、皆さん高性能住宅の良さが伝えにくかったとのコメントが寄せられたようです。やはり来年からはヨーロッパとの時差も考慮して、日没後のナイトツアーに切り替えた方が良いでしょうか?!

 

さて今月の本題ですが、「100年後にも通用するエコハウスを考える」というタイトルのセミナーが、11月9日(金)に盛岡にて開催されました。私ともう一人の講師の鎌田紀彦先生(室蘭大学名誉教授、新住協代表理事)はこれまでも度々お会いしていますが一緒に登壇するのは、実は9年ぶりのことです。開催に先立ち、都内で打合せの場を設け、どのような方向性の会にするかを主催者の東北住建株式会社さんも交えて三者で話し合う事が出来たため、当日も非常に明確な展開になったかなと感じています。新住協の提唱するQ1住宅と、パッシブハウスの求める性能は、非常に近い関係であり、鎌田先生曰く、Q1住宅のLevel4はパッシブハウス基準とほぼ同じであるということで、PHPPとQPEXのロジックの違いなどといった、重箱の隅をつつくような議論はほどほどにして(笑)、セミナー当日には例えば国交省が義務化に苦戦している大変レベルの低い住宅性能に対して、そんなところで止まっていてはダメだよ、それこそ50年、100年後の社会や地球環境の事を考えて家づくりをしましょう、というメッセージを私達が連携し、共に投げかけていこうという事になりました。

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鎌田先生からは、快適性の伴わない住宅がまだまだ多い中、“欧米諸国と比べて日本の暖房消費エネルギーが少ない”ことを示すために国交省が使用する統計の弊害についての指摘や、日本で生まれた数多くのなんちゃって省エネ住宅(LCCM住宅も含む)の解説とその問題点の指摘、WEB算定プログラムのお粗末な計算ロジックの話など、私が最近は面倒臭くて掘り下げようとしないネタを、丁寧に追いかけてくださっていることが伺え、鎌田先生のような国の政策に批判的な研究者の存在を心強く感じました。高性能住宅を提唱するにあたって、施工坪単価に非常にこだわる鎌田先生らしいところは、「この方法だと坪幾らのアップで済む」といったコメントが随時出てくるところでしょうか。

 

一方の私は、猫も杓子も新築戸建て住宅を求める風潮自体がおかしいというスタンスですから、やれる人はとことんやるべきで、実際に完成した事例から放たれるメッセージが多くの人を共感するように、そしてその結果、資金調達方法から見直す人が増えていくようにと願って設計活動に取り組んでいますので、「大間の家」や「パッシブタウン」の事例を紹介しながらお話させて頂きました。実際その考え方に共感してくれたパッシブハウス・ジャパンのメンバーが、私の手掛けた物件よりもこなれたコストで同じ性能を担保してくれる事例がいくつもあります。ですから「いかに皆をやる気にさせるか?」がコストダウンの鍵であると信じていますし、同時に「いかにこの付加価値を消費者に伝えるか?」というエクササイズも怠ってはいけないと感じています。

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さて、100年後を見据えた温熱性能の基準に関して言えば、私も鎌田先生も、外皮性能に関してはQ1-Level4やパッシブハウス基準(年間暖房需要15kWh/m2)を超えるものは求められないという意見で一致しました。ドイツをはじめとするヨーロッパはもともと50年以上先を見据えて省エネ基準を段階的に改正してきています。日本のように、「業界がついてこれるか否か?」の様子を見ながら突拍子もない改正を重ねてきた国とは省エネルギー政策に対する本気度が全く異なるのです。

 

外皮性能はパッシブハウス基準相当が最終形ではなかろうか、というのが私の立場ですが、一方の設備設計とエネルギー源の選択に関して、まだまだ現状から進化の余地があるというお話をさせて頂きました。その理由は、今後の再生可能エネルギーの普及に備え、冷暖房、給湯、家電等のエネルギー消費の発生時間帯や季節を考慮して適切なエネルギー源を選んでいくことが必要になるからです。例えば暖房エネルギーは冬の日没後に需要が大きくなりますが、再生可能エネルギーの出力は一番低い時間帯になります。一方の冷房エネルギーは夏の日射がある時に需要が大きくなりますが、再生可能エネルギーの出力は高い時間帯です。そのような事を考慮すると、同じ電力を1kWh使用した際の、化石燃料依存はその電力の使用目的によって異なる、という事になりますね。要するに、外皮性能がイマイチな(暖房需要がべったりと残っている)住宅においては、大量の太陽光発電の搭載でゼロエネを歌ったとしても、冬の夜間に化石燃料依存に陥っている可能性が高く、エネルギーシフトの際のお荷物になる確率が高くなります。このような季節、時間帯毎の再生可能エネルギーとのマッチングという発想は、オフグリッド住宅の設計に挑んでみれば直ぐに理解できると思います(オフグリッド住宅の是非に関してはまた後日書きたいと思いますが)。

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このように、季節や時間帯毎の再生可能エネルギーのポテンシャルを考慮したPEF(Primary Energy Factor:一次エネルギー換算係数)がパッシブハウス研究所のツール、PHPPver9.0から導入され、まさに新しい“物差し“が誕生しました。この棒グラフの値はドイツの値ですが、勿論この値は現状のドイツにおける太陽光発電の普及率に100%対応している訳ではありません。この値は各地の気象データから算出されており、正に50年、100年後のエネルギーミックスの収束値を暗示しています。ですからこの新しい物差しで一次エネルギー消費量を減らしていくという事は、正に100年後を見据えた家づくりなのかもしれない、というお話をさせて頂きました。セミナー会場には当日200人近い参加者が集まられ、中には森vs鎌田の熾烈なバトルを楽しみにされていたかも知れません(笑)。しかし派閥意識が強すぎると、本当の敵を見失ってしまいます。国民一人一人の家づくりプロジェクトが成功を収め、尚且つ省エネルギーで持続可能な社会へ私たちが移行出来るよう、皆さんと連携して大きなうねりを生み出せればと願って止みません。

 

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾和也

人はなぜ物理に反する頭寒足熱が快適な生物となったのか?

パッシブハウス・ジャパン理事 松尾 和也

前から不思議に思っていたことです。中立温度という概念があります。暑さも寒さも感じない温度のことですが、頭部は22℃、足元は26℃です。これを見てほとんどの方は「やっぱり頭寒足熱が快適なんだよね」と思うかと思います。しかしこの推測には「冬は・・・」という前提が含まれている場合が大半ではないかと思います。実際には夏においても頭寒足熱の方が快適性は高くなります。

私は以前からこのことがひっかかっていました。物理法則では温かい空気は上に行き、冷たい空気は下に下ります。よって床暖房等の特殊な暖房方式としない限り頭寒足熱の状況を作り出すことはできないわけです。生物は自分が住むところのあらゆる自然条件(物理法則)に適応する形で進化するはずなのになぜこんなあべこべな進化を遂げたのだろう?

そのように思ってきました。

そこで推測した結果を述べてみたいと思います。まずは冬です。上述のとおり足元は極めて冷たいです。それに加えて心臓から下にありかつ最も遠い場所です。血液を末端まで運ぶのに最も苦労するところです。ですので、凍傷の確率が非常に高いのが足先なのかと思われます。昔は靴もろくなものがなかったと思います。そんな中で少しでも足元の冷点と呼ばれる温度センサーを敏感かつ安全率を高く設定することで凍傷になる確率を下げる方向に適応したのではないかと考えています。

次に夏です。人間頭に血がのぼると顔まで赤くなりますが、病気になって発熱し42℃を超えると死の危険性と後遺症のリスクが出てきます。パソコンのCPUも冷やしたほうが性能があがりますが、脳も快適範囲内においては低めの方がポテンシャルが高い傾向にあるように思います。ポテンシャルの話は横においておいたとしても脳の安全性からみた余裕率を確保して22℃くらいが中立温度になったのではないかと考えています。

PMVという指標がありますが、温度、平均放射温度、湿度、気流速度、着衣量、代謝量の6要素から計算されます。もう50年以上前に考案された指標ですが、これでは上下温度差(頭寒足熱具合)は反映されません。個人的な経験からPMVが全く同じであっても頭寒足熱具合が違うと満足度、快適性は相当異なります。

最近新しいタイプの冷暖房方式が百花繚乱しつつありますが、いずれの方式にしても少ない台数のエアコンで、できればシンプルで、イニシャルコスト、ランニングコストともに安くありながら1,2階とも頭寒足熱が夏冬ともに実現出来ている。そのようなゴール設定からシステムを決定してほしいものです。